第3話
アメリの体には凹凸がなく、所謂……本来人についているものがついていなかったが、目のやり場に困ることには変わりない。
リリーはアメリを風呂に入れ、ついでに自分も風呂に入り、清潔な服を着せてやった。
「こうしてみると、ただの女の子ね……。ねえ、お腹は空いてる?」
「……」
リリーはアメリに伝わらないことは理解しつつも話しかける。今は無理でも、いずれコミュニケーションが取れるようにならないと困る。そのためには、まずは話しかけないと始まらないのだ。
お腹が空いたか? と聞きながら果物や、野菜や、昨日の焼いたまま放置していた肉を差し出すとアメリはすぐに受け取りガツガツと食べる。空腹なのだろうか……もしそうだとしたらこんなに固形物を与えても大丈夫なのだろうか……そんな疑問が絶えず頭に浮かんでは消えていったが、現状それを伝える方法がないのでリリーは黙って自分のパンを齧った。
アメリは何でもよく食べた。家の中にあるものを大方食べつくしてリリーの心労を増やした後、満足気に床に横になる。
「ああ……今月の食費……、裏庭に畑でも作ったほうがいいかしら……。まぁ一応備蓄もあるし暫くは……。」
「こんげつの、しょくひ。いいかしら」
いつの間に床から起き上がったのか、アメリが横で言葉を真似する。
「おお……。」
対するリリーも突然言葉が聞こえて思わず驚嘆の声を発する。
「もしかしたら、アメリは私が思うよりずっと早く話せるようになるかもしれないわね。」
「もしかしたら、アメリ、はやくー、かもしれないわね」
リリーがよしよし、とアメリの頭を撫でると、アメリもリリーの頭を同じように撫でる。どうやらなんでも真似をすることで、早く様々なことを学習しようとしているのかもしれない。それなら今夜から絵本の読み聞かせをしてあげようかな、まだアメリには早いかな、などと浮かれるリリーのことを、アメリは紫の瞳でジッと見つめていた。
その日の夜、リリーはアメリに絵本の読み聞かせをしてあげていた。内容は王子様が仲間の騎士や魔法使いとともに悪いドラゴンを倒してお姫様を救い出すという王道な話で、挿絵が可愛らしく子どもに読み聞かせるのにぴったりだった。
「―――そして、王子様とお姫様はいつまでも仲良しで暮らしました。めでたしめでたし。」
「めでたし……。」
「中々面白かったんじゃない? アメリは騎士や魔法使いを見たことあるかしら? こんな辺鄙な村じゃお目にかかれないけど、遠くの王都には本物の騎士や魔法使いがいるのよ。もちろん、王子様もお姫様もね。」
リリーは剣を振ったり手から炎を出すジェスチャーをしてはしゃぐ。彼女は生まれてこの方王都に行ったことがなく、村で不通に生活していればまずお目にかかることはない騎士や魔法使いという存在に憧れがあった。自警団くらいならば、リリーの故郷にもあったが……。
言葉が通じないながらも一生懸命アメリに話しかけるリリー。その姿を見ていたアメリが、不意に手のひらを上に向けると、ボッ! と炎が上がった。
「おお……。」
リリーは本日2度目の驚嘆の声を発する。
(アメリは魔法が使えるの? 今の絵本や私の話が理解できていたのかしら? 賢いのね……。魔法が使える人は貴重だから、発覚した時点で国に届け出なくてはならないみたいな決まりがあったような気もするけど私は魔法使えないんだから関係ないしそんなこと覚えていないわ)
一瞬で様々な感想が浮かんだが、リリーは考えることを放棄してアメリの頭を撫でた。
「魔法が使えるなんてすごいのね、でもベッドの上で炎を出すのは危ないからダメよ。」
褒められたことと諭されたことをどちらも感じ取ったのか、アメリは自分の頭をリリーの腕へゴツ! とぶつけると、そのまま瞳を閉じた。
「痛! 野生動物みたいな感情表現ね……。怒ってる? 照れてる? 拗ねてるの? 魔法が使えるなら、今すぐアメリの気持ちがわかるようになればいいのに。」
リリーは目を閉じてすやすやと眠るアメリを眺める。手を握ればあたたかかった。
出会って数日もしていないのに、初めて遭遇した時は生きた心地がしなかったほど恐ろしかったのに、今は何故だか、この真っ白な少女に不思議と安心感さえ覚えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます