不滅の誓剣

篠久根 京丸

第1話

教会の鐘の音と鶏の鳴き声で目が覚める。

僕らは服を着替えて朝の礼拝を行う。


シスターからの説教ホミリーを終え、修練場へと向かい、剣の修練を行う。これがこの、あきらの院の日常である。


修練場に着くと、講師である騎士・・ラグルが訓練内容を全員に告げる。


「今日は自主訓練とする。各々、自由に木剣や木杖などつかって訓練を行うこと。試合形式や素振りを行うかは各自で考え訓練を行え!以上!」


「「はっ!」」


騎士のように、声に合わせて姿勢を正し敬礼する。

そこから散開し、各々の自主訓練に入る。


「ウィル。試合しようぜ!」

木剣を片手に近づいてくる彼はオーレン。ウィルと同い年の幼馴染であり、良き相棒ライバルである。


「あぁ、もちろん。やろうか。」

そう言ってウィルとオーレンは互いに向き合った。


オーレンの持つ木剣はウィルの持つ木剣より一回り大きい。

というのもそれは本来、彼より年上のものが持つ想定のものであり、15歳である彼には本来扱えないようなものであるのだ。彼はさも当然のようにその木剣を構える。構えた剣先はびくとも動かず、洗練されている。

ウィルも木剣を構え、試合はお互いの目配せを合図に始まる。

しばらく間合いの牽制が続き、先手を打ったのはオーレンであった。


上段に構えたままオーレンはウィルの懐目掛けて肉薄する。

その一回り大きな木剣からくる攻撃範囲の差を活かし、ウィルがギリギリ届かないであろう距離からの斬撃を叩き込む。

それに対して、ウィルは中段で木剣を構えて攻撃に備える。


「くっ…ッ!」


木剣を受け流し切れず、鍔迫り合いとなってしまい、オーレンの腕力に圧倒されるウィル。


「まだまだッ!」


ジリジリと押し込まれ、数センチでオーレンの木剣の剣先が当たってしまう状況となる。

しかし、ウィルはなんとか木剣を再度受け流し、仕切直しする事に成功する。


「フッ、やっぱいいな!」

「あぁ!今度はこっちから行くぞ!オーレン!」


今度はウィルから勝負を仕掛けに出る。


中段突き━━━とみせかけて下段からの切り上げ。

オーレンは突きをガードするべく構えていたせいで一瞬反応が遅れた。


━━しかし、その斬撃は靡いた服に当たるだけであった。オーレンはその類稀なる身体能力から咄嗟にバックステップを行い、斬撃をなんとか躱していたのだ。


とはいえ、オーレンは攻撃に転じられる体勢ではない、そこをウィルは逃さずリーチの最もとれる突きを連続で放つ。左脇、右肩、みぞおち、右脇腹とウィルは狙いを一つずつ定めて着実にオーレンを追い詰める。

しかしオーレンは小刻みにステップを踏み、華麗に全ての突きを避け切ってみせる。

埒が開かないと思ったウィルは足を狙った低い横薙ぎを一歩大きく前進して放つ。

 流石のオーレンでもステップのみで避けるのは難しく、その斬撃を避けるために大きくジャンプをした。


「ちっ…ッ!やるじゃねえかウィル!」


先ほどとは違って大きく体勢を崩したオーレンがウィルを称賛する。

ウィルはオーレンのみぞおちに向けて渾身の突きを放つ。


「だがなぁ!」


━━本来は負けてもおかしくない状況。しかし、彼もまた此処で負けを認めるほど、弱い精神は持ち合わせていないのである。

空中で無理やり体勢を作り、突きに合わせての大振りの兜割り。その衝撃でお互い仰け反り、距離ができる。

互いの木剣は摩擦熱で、衝撃を受け合った箇所から煙が立ち上がっていた。

ウィルもオーレンも、息が上がり次の攻防が最後━━


「ピ〜〜〜〜〜ッ♪!!そこまで!小休憩の後、各自道具を戻し、シスターエマの指示を待つこと!以上!」


と言ったところで訓練終了の笛が鳴る。


「ちっ!今日も引き分けかよ。」

「な、今日こそ勝ったと思ったんだけどね。」


「いゃ〜。やっぱり2人の動きはとてもいいね!ウィル、オーレン、お疲れ様。」


講師であるラグルが2人に近づきながら称賛の拍手を送る。


「これで10日くらい連続で引き分けかな?」

「あぁ!そうなんすよラグルさん!もっと時間伸ばせません??」

「いやぁ…この後、君たち孤児院の仕事とかあるでしょ?無理無理。僕の権限じゃ伸ばせないかな。」


説明の時とは打って変わってラグルは和かにオーレンと会話する。


「とは言えウィルとオーレンは今年で16歳だろ?」

「はい!」「おう!」


「だよね、だから来週の神託式でいよいよ付喪神・・・を目覚めさせるだろ?そうなれば孤児院からの独立が出来る。そうなればうちの試験を受けに来ればいいよ。」


その年に16歳となる子供が大聖堂に集い、付喪神を目覚めさせる儀式のことを神託式という。神託式で付喪神を目覚めさせることによって人々は付喪神━━すなわち、自らの心の武器・・・・を得ることができる…らしい。


「まぁそうなんだけどよ〜そもそも、どんな付喪神が目覚めるかわかんねーしな。シスターみたいに心の武器はハタキ棒でした〜、とかかも知んねーし。」


「確かに…そうなると騎士になるのは難しいですよね…?」


「ハッハッ!ないない!君たちみたいに心身ともに強い子に限って掃除道具の付喪神ってのはまずあり得ないよ!知ってるかい?付喪神ってのはその人の魂に宿るらしい。だから、こうありたい!こうなりたい!って思いが大事ってお偉いさん達は考えてるって話だ。」


「へー。ならラグルさんの付喪神見せてよ。」

「ッ!僕も気になります!」


「おっと、それは出来ないな。騎士たるもの手のうちは簡単に晒せないんだ。悪いね。」


「ちぇ!」

「そうなんですね…」


まるで親子のようなやり取りをしている最中、ウィルはラグルの後ろで訓練場から帰るのを待つシスターエマと目が合う。


「オーレン、シスターが待ってるから早く行くよ。」


「おっと、そうだった。ウィル、オーレン!俺の付喪神が気になるんなら、とっとと試験に来い!」


「おす!ウィル!とっととなろうぜ!」


「うん!一緒になろう!」


「「騎士に!」」


改めてこの日、幾度も立てた誓いを交わしたウィルとオーレンは夕食と祈祷を終え、教会の清掃を手伝い、その純真無垢な希望を抱いたまま夜の鐘と共に眠りについた。

その後は、いつもと変わらぬ日々を過ごし、ついに神託式当日を迎える。


それはつまり、晃環騎育院晃の院での生活が終わり、新たに、騎士としての生活が始まるということである。

彼ら希望に満ちた誓いは、凡庸な夢に消えるのか、凡人が憧れてやまない夢となるのか━━━。

今日の神託式こそが、ウィルたちの夢が動き出す、最初の一歩だった。

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