第13話 立場逆転

 予想外の展開に驚きながらも、チャンミは両親にCW関係者の名刺を見せながらクラスメイトが所属している芸能事務所から熱心にスカウトを受けてしまったことを報告した。


 元々自分たちの一人娘が世界一可愛いと思っている上に、彼女に歌手の道を目指してほしいと考えていたチャンミの両親は言うまでもなく乗り気だった。


 実は今までチャンミが即座に断ってきたスカウトに関しても、彼女の両親は「オーディションのお誘いに過ぎないんだから、受けるだけ受けてみたら?」という立場だった。


 しかし、まだ太っていた頃のチャンミは「受かるはずないし、何よりもこんな醜い姿でオーディションを受けるなんて考えられない。私は恥をさらしたくない」と言って頑なに拒否していた。


 結局、今度こそ「受けるだけ受けてみる」という感覚で、CWが彼女のためだけに実施した臨時オーディションを受けたチャンミは、自らオーディションに訪れた社長のジウォンからその場で「文句なしで合格です。ぜひとも弊社に来てください。うちはまだ小さい会社ですが、他のどの会社にも負けないくらい手厚くサポートします」と熱心に誘われてしまった。


 両親にも改めて相談し、「1ヶ月だけ考える時間が欲しい」と返事したチャンミだったが、彼女が在籍する特殊な高校は、芸能事務所の人材開発室の社員たちが常時チェックしていると言っても過言ではない学校だったため、翌週には他社からのスカウトも届いていた。


 そのことから、チャンミは「今の自分は、外見も含めて芸能事務所からスカウトが届くような存在なんだ」ということをようやく少しは理解する。


 チャンミは、自分のチャンネルを最初に見つけて声をかけてくれた会社がCWだったことや、社長兼統括プロデューサーのジウォンからの熱心な勧誘、そしてミンソンの「うちは自由でアットホームな雰囲気の会社だから、チャンミも楽しくやっていけると思う。自信を持っておすすめできるよ」という言葉から、もし芸能界に入るならCWを選ぶと決めていた。


 問題は事務所選びではなく、本当に芸能界を目指すかどうかだった。そしてチャンミは悩みに悩んだ末、CWへの入社を決意する。


 練習生になるだけで、別にデビューが決まるわけじゃない。というか自分なんかが厳しい競争を勝ち抜いてデビューできるわけがない。


 でも将来的に音楽関連の仕事をするなら、練習生としてトレーニングを受けることや、芸能界に人脈を作っておくことはプラスになることはあってもマイナスになることはないと判断したのがその理由だった。


 「自分なんかがデビューできるわけがない」と考えてしまうところが、いかにもチャンミらしいネガティブ思考だった。


 結局、複数の芸能事務所からのスカウトも、チャンミの異常に低い自己肯定感を高めることはできなかったのである。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 CWへの入社が決まってから、チャンミがもっとも仲良くなったのは彼女がCWに入社する直接のきっかけを作ってくれたミンソンではなく、舞香だった。


 元々日本文化が大好きだったチャンミは、社内唯一の日本人練習生の舞香とどうしても日本語で会話をしてみたくて自分から声をかけていた。


 チャンミの性格からして、実は自分から誰かに声をかけること自体、相当な勇気が必要な行動だったが、もし日本人練習生の子と仲良くなれるならぜひそうしたいという思いの方が勝っていた。


 当時まだ韓国語がほとんど話せなかった舞香にとって、日本語でコミュニケーションがとれるチャンミが自ら話しかけてくれたのは、願ってもない幸運だった。


 そしてチャンミが社内で舞香の通訳のような役割を積極的に引き受けてくれたことで、舞香は10代の少女が一人で抱えるにはあまりにも重い孤独から、少しずつ解放されていった。


 チャンミは、舞香にとってまさに二人目の救世主のような存在だった。


 初めて舞香のダンスを見たチャンミがそのダンスパフォーマンスに衝撃を受け、「こういう子がアイドルになるんだね。やっぱり私なんかがデビューできるわけがない」と感じ、お得意のネガティブ思考に陥る場面もあったが、舞香とチャンミはお互いの弱点を補完し、助け合う理想的な関係になっていった。


 舞香がまだ韓国語をうまく話せなかった頃は、どちらかというとチャンミの方が舞香を助ける場面が圧倒的に多かった。しかし、舞香の韓国語が上達してからは、その関係は完全に逆転する。


 チャンミのメンタルはアイドルとして大成功してからもさほど変わらず、もろい状態のままだった。


 ファンとのコミュニケーションにおいて少しでも傷つくようなことを言われたり、アンチに誹謗中傷されたりした日にはすぐに心に深いダメージを負ってしまう。


 そのたびに誰よりも親身になってチャンミの話を聞いて、彼女を慰めて、励ましていたのはいつも舞香だった。


 最初の2年間、舞香がルームメイトでいてくれなかったら、チャンミは早い段階で心が折れてアイドル活動を継続できなかっただろう。


 またプロ意識や向上心が極めて高く、自分にも他人にも厳しいタイプで、チームとして納得のいくレベルのパフォーマンスができたかどうかを何よりも重視するミンソンと、ダンスを苦手としている上にややプロ意識や向上心に欠けるところがあるチャンミが衝突するたびに、積極的に間に入って仲裁していたのも舞香だった。

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