今カノに浮気されて婚約破棄したら、なぜか元カノがアイドル引退すると言い出したらしい
海原霊
プロローグ
「…ごめんね」
横浜市内の高台の住宅街にある、海の見える小さい公園。海が見えるとはいっても、美しいとは言えない工業地帯の海が遠くに見えるだけで、
つまり、優のいる公園はどこにでもある普通の公園で、そこから見える景色も誰かを魅了するような特別なものではなかった。
公園自体が狭い生活道路でしかアクセスできない場所にあることもあり、普段からわざわざその公園を訪れてくる者はほとんどいなかった。だからこそ、彼女と二人きりになれる確率が高く、優はあえてその場所を選んでいたが。
優は、夕焼けに染まる空と海を眺めていた。そしてその景色を目に焼き付けようとしていた。その景色が特別美しいものではないことは分かっていた。
それでもその景色は、優の中では特別なものとしていつまでも記憶に残るだろう。なぜなら、優が彼女と一緒に見られる最後の景色であり、ほろ苦い青春の1ページになるだろうから。
「だから、謝る必要なんかないって」
「…そうだったね。ごめん」
「また謝ってる…。なあ、笑顔で終わろうよ。お互い、楽しい思い出だけ残そう?」
「……うん」
優の意図とは逆に、彼の「終わろう」や「思い出」という言葉が、彼女の表情をさらに曇らせていた。彼女はひどく悲しそうで、寂しそうな顔をしていた。しかし、次の瞬間には気持ちを切り替えてくれたのか、彼女は無理やり笑顔を作った様子で優に対する感謝の言葉を述べ始めた。
彼女は、優が最後のデートに付き合ってくれたことだけではなく、今まで優が彼女のためにしてきたすべてのことに対して深く感謝していると、泣きながら語ってくれた。
そこまではよかったが、やはり話しているうちにどうしても罪悪感の方に気持ちが切り替わってしまうようで、結局、彼女は最後、優と一緒に歩む未来ではなく自分の夢を優先してしまったことを謝罪していた。
優、そんな彼女を優しく抱きしめた。
「本当に、謝る必要はないから」
優は、彼女は正しい選択をしたと考えている、だから優は彼女の選択に対してネガティブな感情は少しも抱いていないと伝えた。
優の言葉は半分だけ本心で、残りの半分は強がりだったが、優が次に彼女に伝えた、「彼女の夢を応援する、彼女なら間違いなく夢を叶えられると信じている」という言葉には、少しの強がりも建前も入っていなかった。
「…私、頑張るね。死ぬ気で頑張るから」
彼女は、力強くそう宣言した。優は、そんな彼女に優しく微笑みかけて、最後の言葉をかけた。
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」という言葉は、先ほどの言葉とは真逆で、純度100%の建前だった。
優は知っていた。もう彼女が自分のところに戻ってくることは二度とないことを。だから、優が最後に心の中で彼女に伝えていた言葉は「行ってらっしゃい」ではなく、「さようなら」だった。
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