ひょんなことから、この国最後の子供をお世話しますが……!?
@hinata-maki
第1話 先生になるはずだった人生が終わって……始まる⁉
私、立花 灯(あかり)は小学校の先生になりたかった。理由は子どもが好きだったから。それ以上でもそれ以下でもない。
朝の校門。ランドセルの擦れる音。名札を裏返しに付けている子に「今日は逆だよ」と声をかける距離。あの距離がどうしようもなく好きだった。
教員免許を取った日、母は泣いた。私は「大げさだな」と笑ったけれど、今思えば、あれは人生で一番祝われた瞬間だったのかもしれない。――なのに。持病が悪化して、私は教師になる前に終わった。悲しいほどに取っただけの免許が心に転がっている。病室の天井は異様に白かった。白すぎて未来を書き込む余白すらない。……ああ、私何も残せなかったな。
恋愛もしなかった。大学に通って免許を取って気が付けば卒業。母を結婚式に招待する未来は最初から存在しなかった。子どもが好きだったのに。誰かの成長を願っていたのに。私は誰の先生にもなれなかった。
「一人でいいから、誰かの成長を見守っていきたかったなぁ」
その瞬間、意識が途切れた。
***
目を覚ますと空が高かった。……あまりに高すぎるんだけど。
「え?」
草の匂い。風の冷たさ。遠くで鳴く鳥の声。私は起き上がり、周囲を見渡した。そこは見知らぬ町だった。人もいる。建物もある。――ただし、街は荒んでいる。驚くべきことは他にもある。
「……全員、年上じゃない?」
歩いている人、全員が私より年上に見える。というか、明らかに若者がいない。いや、少子化とかそういうレベルじゃない。10代、ゼロ。20代、見当たらない。なんなら私だけ。
「ちょっと待って。これって俗に言う、異世界転生ってやつ? 転生って若返るか美少女になるやつじゃないの? 夢がない⁉」
誰にも聞かれていないのに、思わずツッコミが漏れる。その瞬間だった。
「見ない顔だ、捕まえろ」
……はい来た。治安最悪テンプレイベント。
腕を掴まれた瞬間、私は心の中で叫んだ。……説明イベントまだです!!!!
その時だった。
「や……めて」
厳つい男たちの背後から顔を出したのは――たった1人の子供だった。小学校中学年くらいで黒い髪。大きな目。
「その人はわ、悪くないよ」
その一言で場の空気が凍った。
「おい、喋った。喋ったぞ!」
「マオ様、今日は機嫌がいいな」
……なにこの扱い。
「マオ様は少々気難しい所があってだな」
……反抗期⁉ そのサイズで⁉
私は反射で叫んだ。
「私に任せてください!」
全員が私を見る。
「私、小学校の先生です!」
「なんだその、しょうがっこうってのは?」
――数分後。私は捕虜ではなく、この国最後の子供の“お世話係”になっていた。意味は分からない。それでも少年が私を見上げて、ほんの一瞬だけ安心した顔をしたのを私は見逃さなかった。……大切にされているのは最後の子供としてなの? 私はちゃんと君をみるから。
胸の奥が静かに熱くなる。まだこのときの私は知らなかった。「お世話係」という仕事が私の人生を――もう一度、最初から始めさせることになるなんて。
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