死に戻った先はパラレルワールドだった。そして5人組ヒーローのブラック担当になった。
空花 星潔-くらげ せいけつ-
第1話 アンハッピークリスマス
心の痛みには慣れているつもりだった。
――それは通り魔だったのか、知らないうちに誰かの恨みを買っていたのか。
雪のチラつく寒い夜の事だ。
幼馴染と会う約束をしていた。
クリスマス会と忘年会を兼ねたパーティをしようと言われて、重い気持ちを引きずりながら歩いていた。
「今日は会いたくないんだけどな……」
寒さのせいか、歩いている場所が裏通りだからか。クリスマスだと言うのに人の気配は全く無い。
誰に聞かせるでもない独り言は、白い息と共に雪の夜空に溶けていく。
幼い頃から画家を目指して絵を描き続けてきた
幼馴染が4人居て、それぞれがそれぞれに何かしらの分野で成功を収めていた。
学生ながらに夢を叶えて、キラキラしている幼馴染達。
対するアサヒは、コンテストの一次選考すら通過できなかった。
「あー、なにもクリスマスに選考結果を出さなくても良いのになぁ!」
一次を通過した人からすれば嬉しいクリスマスになるだろうが、
文句も白い息と共に消えていく。
アサヒの足音だけが聞こえる、静かな道。
ピタリと足を止める。
「……今日はやめとこっかな」
どうせ、楽しい思い出にはできそうにない。
今日だけは、成功者と同じ空間に居たくはなかった。
風邪をひいたとかなんとか、適当な嘘をついて誤魔化そう。
そう思って、踵を返す。
踵を返した。
踵を返してしまった。
ドンッと腹部に衝撃が走った。
直後に
「すみませ――ん……?」
激しくぶつかってしまった。
誰も居ないと思って、突然振り返ったから……。
腹部に熱が走る。
うっかりコタツのヒーターに触ってしまった時のような、あるいはそれ以上の熱。
グラりと揺れる視界。
お気に入りの、使い込んで布のへたったコート越しに地面の冷たさが背中に伝わる。
(空……?)
どうして空が見えるのか。
まず浮かんだのはそんな疑問。
腹部が重い。
何かが上に乗っているような。
(寝転がってる? なんで――)
起き上がろうとして、激しい痛みが走った。
息を吸う度に、何かが腹の中で動いている感触がする。
「あ゛……ぇ……?」
寒い、腹部が異様に熱い、痛い、苦しい。
あまりの寒さに歯がガチガチと音を鳴らす。
ここまで来て、ようやく刺されたのだとアサヒは自覚した。
あまりにも鈍い自分がとことん嫌になる。
頬を伝う涙が、腹部の血液に次いで熱い。
死ぬのだろうか?
指先が痺れる。
今は絵が描けないだろうな、なんて場違いに思う。
そういえば――
あまりにも場違いな思考が頭を埋めていく。
こんな事になるなら、今日は会いたくないなんて言わなければ良かった。
四人は確かに眩しくて、アサヒよりも何倍も才能があって、羨ましくて、一緒に居るだけで苦しくなる存在だ。
だけど、それでも。
(二度と会いたくないなんて、思ってないのに)
視界が白く染まっていく。
クリスマスの喧騒を避けて、友達の輝きから逃げて、その末路がコレだ。
心の痛みには慣れているつもりだった。
けれども、今まで感じた事も無いくらい胸が痛む。
(ちょっと逃げたかっただけなのになぁ……)
クリスマスの日、アサヒは誰かに腹部を刺されて死んだ。
――アラームの音がする。
軽快で単調な、デフォルト設定そのままの音。
ほとんど無意識にスマホを手繰り寄せ、アラームを止めた。
頭に浮かぶのは今のは全部夢だった、の9文字。
ぼんやりする頭で、どこまでが夢だったろうかと回想する。
あんまりにもリアルな夢だったから、どこまでを夢とするか悩んでしまうが……頭がハッキリすればそのうち分かるだろう。
「てか、夢ならコンテストの結果もまだか?」
スマホを片手にぐいっと体を伸ばす。
いつもより体が軽く感じた。
コンテストの結果を見ようとして、気付く。
「俺のスマホじゃない」
手に持っていたのはつい最近買い換えたばかりのスマホではなく、中学生の時初めて親に買ってもらったのと同じ古い機種――
持ち主は誰かと観察をしていたアサヒだが、彼の指紋に反応してスマホのロックが解除された。
表示されたホーム画面はアサヒと幼馴染の5人で撮った写真。
中学時代にホーム画面に設定していた、見慣れた写真。
「タイムスリッ……いや、そんな、ははっ。そんなまさかな」
馬鹿げた考えが頭に浮かんで、思わず口に出して苦笑する。
カレンダーアプリで確認しようとしたアサヒの指が、うっかりカメラアプリを起動した。
インカメが開いて、アサヒの顔を映す。
「……ははっ」
思わず乾いた笑いが出た。
ずいぶん若く感じる、幼い自分の顔が映っている。
それだけでもなんの冗談だと思うのに、カメラに映る目の色がその冗談を加速させていた。
珍しいくらい黒い目をしているだなんて言われていたのに、絵本の王子か姫様か、目が緑色に変化している。
髪も妙に長い。
「やっぱ夢だ、これが夢……」
もう一度寝て、目を覚まそう。
そう思って布団に潜り込む。
しかし目を瞑ろうとして、不安になった。
目は、覚めるのだろうか?
刺されたのが現実なら、これは最期に見る都合の良い夢なのかもしれない。
布団から、そろりと起き上がる。
これは夢なのかタイムスリップなのか、タチの悪い冗談なのか。
悩み始めたアサヒの思考を、軽快なインターホンの音が中断する。
「ア〜サ〜ヒ〜! むっかえ〜にき〜たっよ〜!」
続いて幼馴染、
窓越しにもはっきり聞こえる大きな声。
もう二度と会えないかと思った、幼馴染の声。
心臓が跳ねた。
「夢でもいっか……」
もう一度、彼女達と一緒に過ごせるのなら。
「ちょっと待って! 今起きたとこ!」
窓を開けて返事をして、アサヒは壁にかけられていた制服に着替えた。
――この時のアサヒは知らなかった。
数時間後には世界を守るヒーローとして戦う事になる事なんて。
あとがき
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死に戻った先はパラレルワールドだった。そして5人組ヒーローのブラック担当になった。 空花 星潔-くらげ せいけつ- @soutomesizuku
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