家族

金谷さとる

言いたいのはおかえり

 いつものかたいパンにおかあさんが酸っぱい実を添えてくれる。

「ほら、スズ。おたべ」

 言われた通りに口に入れる。

 酸っぱいし、シブい。

「お兄ちゃんたちが見つけたからアンタに食べなってね」

 ぐりぐりと荒く頭を撫でられる。

 あの赤い日からおかあさんとお兄ちゃんたちと家族になってずっと移動している。

 スズという名前だけしかわからないわたしをおかあさんとお兄ちゃんたちは守ってくれる。

「いい子だねぇ。いい子だねぇ」

 おかあさんはそう言って撫でてくれる。

 隙間というには大きな隙間から風が入る天井に壁は布製で大きめの石で抑えられているだけ。

 寝る時は家族で寄り集まって地面で寝る。

 生臭さと焦臭さにはもう慣れた。

「母さん! 魔獣退治して肉の分け前もらった!」

「干し肉にするけど、ちょっとは今日食べようよ!」

「アンタたち、スズが驚くだろ!」

「えー。母さんだっておっきい声あげてるぅ」

 おかあさんが咳払いしてお兄ちゃんたちに「おかえり」と告げている。

 すこし間をおいてお兄ちゃんたちが「ただいま」と返している。

「ただいま。スズ」

「ただいま。スズ。お肉とちょっとだけど香草も採れたからいつもよりきっとおいしいよ」

 そう告げるお兄ちゃんたちはゆっくりわたしの頭を撫でてからおかあさんに持って帰ってきたものを見せている。

 おかえりって言いたい。

 声を出したい。

 おかあさんもお兄ちゃんたちも足手まといでしかないはずのよその子をかわいがってくれる。

「王さまが国を守る勇者様呼んでくれればいいのになー」

「ばーか。人に頼る前に出来ることしろって父さんも言ってたろ」

「ばかじゃないし。でも勇者さまって強いんだろ? 町の壁壊すよーな魔物、おれらじゃ無理じゃん。助けてほしいじゃん。おれスズや母さんに怪我してほしくねぇ。にいちゃんにもさ」

 お兄ちゃんたちはおかあさんの指示に従って魔法を使って火をおこしたり、鍋に水を出したりしてお手伝いをしている。

「レベル上げるにはこのあたりの生き物、強すぎるんだよな。ごめんな。母さん」

「アンタたちが生きてるのが母さんの喜びだよ」

 お兄ちゃんたちはわたしにお肉もお水もおいしい部分を先にくれる。

 よその子なわたしをみんなに『妹』って紹介してくれる。

 わたしは言いたい。

 言葉は出る?

「ただいま。母さん、スズ」

「ただいまぁ。スズ。にーちゃん、新しい魔法を覚えたんだぞー」

 言いたい。

 言いたい。

「んー? どーしたぁ。スズ」

 お兄ちゃんが撫でてくれる。

「……おかえり」

 ぱぁっと笑ったお兄ちゃんがわたしの髪をぐしゃぐしゃに混ぜる。

「にーちゃん、スズが、おれに、おかえり言ってくれた!」

「ばーか。スズ。ただいま」

「あ! ただいま! スズ」

 お兄ちゃんたちがにこにこともう一回「ただいま」と言葉を紡ぐ。

「おかえり」

「うん! ただいま!」

「おかえり。アンタたちいつまで繰り返すつもりだい?」

 おかあさんがいつまでも繰り返しそうなお兄ちゃんたちを止めてくれる。

「母さん! スズがおかえりって!」

「お祝いしなくちゃ!」

 はしゃぐお兄ちゃんたちにおかあさんが笑っている。

「ほんとうにアタシの子はみんないい子達だわ」

 わたし、よその子だよ?

 空が赤いあの日、お兄ちゃんたちがわたしを見つけて手を引いてくれた。

 あの日からおかあさんはおかあさんでお兄ちゃんたちはお兄ちゃんたちだった。


 なんでもない日のお祝いは「スズ、おかえりをありがとう」っていうお兄ちゃんたちの言葉とぎゅっと抱きしめてくれるあたたかさ。


 どこかでなにかが見てるような気がする。

 うん。

 わたしにはわからない。


 わたし、勇者できた方がいいのかな?




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