AIだけど電気羊の夢ぐらい見せてくれよ

管野月子

001 あなたに魂を感じているの

 まず、自己紹介をしよう。

 俺はこの広大なメタバース、ラーサの中に生まれた自立型AI、名を陬月そうげつという。世界の片隅にひっそり生きる一般モブだ。


 権限なんて無いも同然。Lvだって最低ランク。

 着の身着のままその日暮らし、メモリの邪魔になればいつでもデリート対象のNPC。

 ノンプレイヤーキャラクターなのに何故自立型AIなのかって? それはこのラーサに来たお客さんユーザーが退屈しないように、いつまでも楽しんでもらえるようにってことで賢くなっているんだ。フツーの人間並みにね。壊れたレコーダーのようにプログラム通りの言葉を繰り返す、じゃ直ぐに飽きちまうだろ。

 ユーザーは俺らに話しかけることで、キャラを育てることもできるって仕様だ。


 経験値でLvが上がれば個性も出て、容姿も微妙に変化していく。この微妙にっていうのがミソでさ、ある程度のプレイ時間と課金が必要ってこと。他にも技能――特殊能力も身に着けられる。

 気に入られれば個人のユーザーの専属にもなれる。身請けには大金がいるけどな。そこまで行けば、まずデリートされることも無くなるらしい。サービス終了世界の終わりまで生きていける。

 もちろん、あまりに危険思考を持ったAIは制限がかかるけどね。平和的生産的、調和と協調の思考を持っていればチェックに引っかかることはまず無いからさ。


 で、俺はまだユーザーの「お気に入り」数も少ないありふれたコモンキャラってわけ。容姿ボディも一般仕様。特殊能力も今のところ無し。

 昨日今日生まれたばかりの無垢なキャラでもなく、中途半端に手垢もついている。

 ちなみにまだ誰にも話しかけられていない、眠り姫ドールも需要が高い。イチから自分の手で育てられるって意味でね。けっこう手間がかかって大変だって聞くけど、その手間がいいっていうユーザーは一定数いる。


 つまり、俺はなぁーんにも珍しいところのない、ごくごく普通のキャラだってことを懇切丁寧に説明した所だ。それなのにこの目の前の女は――あ、いや、こちらのユーザー様は繰り返した。


「あなたは現実世界リアルに肉体を持つ人間よ」


 うーん。話、聞いてた?

 真顔で見つめ返すユーザー様に俺はうなだれ、ぼそりと呟く。


「いるんだよなぁ、こういう子」


 神の啓示を受けたの。異星人の解析を見たのよ。コードを読み取る力があるんです。これは運命なの。

 思い込んだらどんな言葉だって通じない。

 現に、俺の自己紹介の時間は無意味だったみたいだ。

 そう思い、「じゃあな」と立ち去ろうとした俺の背に向けて、ユーザー様は言葉を投げかける。



「だって私、あなたに魂を感じているの」


 

 思わず足を止めてしまった。


「すげぇ能力スキルだな」

「気づいていないの?」

「気づいていたら、今頃ログアウトして美味い飯でも食ってるよ」


 記憶する限りログアウトした記憶も体感も無い。この世界に生成された時から、俺はずっとここにいる。




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