第2話 戦ってみたり、偽ってみたり
「色々準備してくるっす」
そう言って少女――紬と言うらしい――は一度ダンジョンを出ていった。
どうやら、出入り口は探索者協会なる者たちによって管理されているらしく、身分を証明できるものがないと出られないとのことだった。じゃあどうするのかと聞いたが、答えは見てからのお楽しみとのことだった。
というわけで自由時間となったわけだが、不思議なことにこの身体、お腹が空かないらしい。
否、食物を必要としないというのが正しいか。
ダンジョンのあちこちに生えている鉱石を触ると、腹が満たされた感覚がするのだ。経口摂取できるかは要検証だが。
「眠くもならないな……」
自分が人ならざるものになったと節々で実感する。
しかし落ち込んでもいられない。
なんて言ったって、未来の日本に来たのだ。何が変わっていて何が変わらないのか、気になって仕方がない。
そんなワクワクを胸に抱きながら、目覚めた場所の祭壇で横になる。
その時だった。
「いたわ、ボスよ」
「幼女?」
「油断しないで、ここはダンジョンだよ」
ひとパーティーが、この場所へと足を踏み入れた。
カシャ
気がつけば、無意識の内に機甲を召喚していた。脳内が、外敵を倒せと煩く囁く。
「外敵確認。排除執行」
カチリと脳内が切り替わる。パーティは、俺の速度についてこれない。
先頭にいた少女に拳が当たる。
パリーン
拳は、謎の障壁によって弾かれた。
「一発で割られた!?」
「下がって!俺が前に出る!」
切り替わるようにして前に出てきた少年が、光る剣を叩きつけてくる。
ガンッ
見た目からは考えられないほどの剣速で叩きつけられそうになり、腕で防ぐ。剣と手甲が鈍い音を立ててぶつかった。
俺は無傷だった。しかし相手は渾身の一撃だったようで驚愕の表情を浮かべている。
剣を直接掴み、剣ごと相手を吹き飛ばす。彼は壁に叩きつけられ動かなくなった。しかし息はあるようだ。
「くっ!」
残ったのは後衛一人。急いで目を走らせている。
「撤退するよ!急いで!」
「そんな!彼は!?」
「言ってる場合じゃないでしょ!」
動ける少女たちだけで、撤退していく。俺はその背中を追いかけずに、彼の方へと歩み寄る。
「ゼェゼェ」
内臓がやられたようで、息が苦しそうだ。
「楽にしてくれ」
馬鹿野郎。まだ彼は生きている。
機甲のコンピューターによれば、彼はまだ助かる確率がある。
そうだ、ならば俺がやるべきは一つだろ。
ひょいと少年を持ち上げる。機甲の身体は、少年一人くらい楽に持ててしまう。
米俵を抱えるように肩に載せ、俺は初めて上の階へと向かう階段に足を踏み入れた。
<=>
道中いろんな敵に遭遇したが、そのすべてをブースターによる加速で撒いた。おかげさまで直線距離で出口まで向かうことができた。
「門だ」
遠くからでも存在感を感じる門を前に、俺は少し浮足立っていた。
だから、最初の一撃をくらうまで気づくことができなかった。
カツーン
ヘルメットに走る衝撃。それが銃弾だとデバイスに表示されるまで、なにか飛んできたくらいの認識だった。
「止まれ!何者だ!」
目の前には、十人十色な獲物を装備した人間たち。いわゆる門番というやつだろう。
脅威レベルは……機甲の計算によるとそう高くはないらしい。
「……」
会話は、意味をなさないと理解できてしまった。
彼らにとっては、俺は脅威としか映らないのだろう。すでに先程撃たれているし、人間たちはいまにも飛びかからんとする勢いでこちらを睨みつけている。
俺は肩にのせた少年をゆっくりと下ろす。敵意と見られないよう、ゆっくりだ。
無事に少年を床に置いて、さっと踵を返す。背中を無防備に晒せば、きっと彼らも襲いかかってこないはずだ。
「ば、バケモノめ」
そんな言葉を背中に受けて、ちょっとだけ嬉しいとおもってしまったのは内緒だ。
<=>
「ていうことがあったんだよね」
「はぁ……知ってるっす」
「え、なんで?」
目覚めた場所で待っていた俺を迎えに来た紬ちゃんは、なぜか頭を抱えていた。
「そりゃもう、ニュースになってるからっすよ!」
腕時計型デバイスからホログラムが飛び出てきて、一大記事に俺の機甲姿が取り上げられていた。
「なになに、『人助けをするリビングアーマー現る。保護された少年は一命をとりとめた』か。良かった。彼殺しちゃったかちょっと不安だったんだよね」
「だったんだよね、じゃないっすよ!証言によって敵性存在判定されて、いまやお尋ね者っすよ!」
「なんかこう、いいなそういうの。懸賞金とか掛けられてたりする?」
「ああもう、悪いこと覚えたての男の子っすか!?」
「へへ」
「褒めてないっすよ!?」
まったく、気持ちのいいツッコミしてくれる良いやつだ。
「紬。それよりも早く本題に入ろう」
「うう、小春の言う通りっす。紹介するっすね。うちの学園のエンジニアの小春ちゃんっす」
「よろしく~」
「ああ、よろしく」
握手をする。少女の身体になった俺に負けず劣らずの小さな手だ。
「てか紬ちゃん、学生だったんだな」
「といっても養成校だから高校は卒業してるっすよ?」
「よ、養成校?」
「あっ知らないんだった。ダンジョン探索者の養成校っす。探索ライセンスの発行も請け負ってるっす」
「なるほど、そんな風になったのか」
ダンジョンができて30年のうちに、そういったシステムが急速に出来上がったのだろう。政治家さんたちもよう頑張っとる。
「それで、エンジニアを連れてきた理由とは?」
「答えは簡単。これをみて」
小春ちゃんが腕時計型デバイスを操作すると、隣に銀髪の美少女が浮かび上がる。
「ホログラム?」
「そう。高精度のね。紬から聞いた情報であなたを再現した」
「もしかして、来た理由って」
「察しがいいね」
小春ちゃんはにやりと不敵に微笑んだ。
「あなたが『私たちと一緒にダンジョンに入った』ということにした。もちろん身分証もある」
「これは……学生証?」
どういうことかと紬ちゃんの方を見ると、えへへとはにかんでみせた。かわいいなちくしょう。
「寝床と金銭の保障って言ったのは実はうちの学園に編入させるってことだったんだ」
「ちくしょう騙された!」
「だ、騙してなんかないよ!……ちょっと情報を意図的に不足させただけで」
「十分な余罪があります裁判長!」
「うむ、判決死刑、地獄行き」
小春ちゃんがどこからともなくガベルを取り出してそう言う。案外ノリいいなこの子……。
「ともかく!寝床はうちの寮使えばいいし、探索者になれば多少金銭手当もでる。生活に必要なものは揃ったでしょ!」
「まあそれもそうか。ありがと」
住所不定一文無しを脱却できるというのだから、感謝してもしきれない。
にしても、養成校ねぇ。なんとなく、以前好きだった学園バトルもののアニメを思い出す。
「なあ、探索者にランク付けとかあったりする?」
「あるっすよ。私はランク3、小春ちゃんはランク2っす。そして聞いて驚いてくっす!うちの生徒会長はランク4の秀才なんすよ!」
「へえ、あるんだランク。ちなみに4ってどのくらいなんだ?」
「ああ、そりゃすごさもわからないっすよね。今日本にランク4は100人程度しかいないっす」
「ひゃ、100人!そりゃすごいな!」
「そうっすよ!うちの生徒会長はすごいっす!」
「じゃあさ」
俺はちょっと恥ずかしがりながら、言葉を紡ぎ出す。
「俺ってどれくらいかな」
「……えっと、ランク3は硬いっす。ランク4も……なんならランク5さえ」
「えっそんなに?」
「普通、スライムの物理抵抗を拳で突き破るなんてできないっすよ……」
「そんなもんなのか……」
ランク4の更に上のランク5とやら、俄然気になってきた。
地上に出たらいろいろと調べてみよう。
「よし、じゃあ地上に向かうってことでいいのか?」
「もちろんっす。生徒会長も紹介したいから早く帰るっす!」
こうして俺達は、門へと向かい始めた――
「あっ、言っておくけれど、外ではその機甲は禁止っす」
「えっそんなぁ」
「あたりまえっす。平穏に暮らしたいなら身バレしないことっすね」
――そんな制約も追加されながら。
<=>
「止まれ!」
聞き覚えのあるその声に、思わずビクッとする。
しかし今は銀髪ロリの姿だ。バレるはずがない。
「養成校か」
「そうっす。今日は警戒が強いっすね。なんかあったっすか?」
「知ってるだろ。例のリビングアーマーの件だ。というわけで身分証チェックさせてもらうぞ」
「え~面倒っすね」
小春ちゃんがそっと耳打ちしてくる。
「口裏合わせてれば大丈夫。紬の言うことにただ頷いて」
そっと頷いて紬ちゃんの様子を見る。すると飄々とした態度を崩さずに、言葉を発した。
「実は中の戦闘でバッグを損傷したっす。学生証もそのときに紛失したっす」
俺は全力でそうだと頷く。しかし本当にそんな言い訳で行けるのか?
「だがそれで仕方がないとはならないぞ。ちょっと待ってろ」
門番の一人がどこかへ電話をかける。話の内容的に、身分の照会をしているようだった。
「茶髪と、蒼髪……それから銀髪」
じろりと門番の目がこちらを穿つ。思わずたじろきそうになるが、ぐっと我慢する。
「……学校に確認がとれた。入場記録もあるな……。通って良いぞ」
「ご苦労さまっす」
おいおい、ほんとに行けちゃったよ。大丈夫かここのセキュリティ。
「まあちょっと裏技っす。じゃあ行くっすよ」
そう言って紬ちゃんは門に入っていった。小春ちゃんもそれに続く。
ゴクリ
俺は喉を鳴らして、門に触れた。
TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな? 畑渚 @hatanagisa9
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