第5話 小さな一歩
翌朝も、電車はぎゅうぎゅうで僕の心を押しつぶすようだった。
でも、昨日のユウのメッセージが少しだけ勇気をくれていた。
会社に着くと、いつも通りの朝礼。
上司の声が響く中、僕は自分の席に座った。
いつも通りの仕事、いつも通りの日常。
目立たない自分の存在は、変わらずそこにある。
……のはずだったが、心なしか昨日より少しだけ今日はポジティブになれている気がした。
ーーーーーーーーーーーーー
午後、会議が終わった後、書類を机の下に落としてしまった人がいた。
手に抱えていた書類が床に散らばった。
「……あっ」
彼女の小さな声が会議室に響く。
彼女の名前は高橋彩香。
同じ営業部で、営業事務の仕事を担当している。
いつも静かでコツコツと真面目に仕事をこなす女性だ。
同じ部署だが、実はまともに話したことがない。仕事の依頼はメールで済ませていたから。なんとも情けないことだが。
僕は迷った。手を差し伸べるべきか、無視するべきか。
——でも、昨日の勇気が胸の奥で囁く。
「……手伝おう。うん、そうしよう……」
しゃがんで書類を拾うと、彼女は少し驚いた顔で僕を見上げた。
「ありがとう……」
小さな声と照れた笑顔が、胸に突き刺さる。
「いや、別に……じゃ、じゃあこれで!」
「あっ……」
俺は書類をさっさと拾い上げて、素早くその場を立ち去った。
ぎこちない言葉しか返せなかった自分に、また少しだけもどかしさを覚える。
(こんなので良かったのか?)
その後の仕事は、高橋さんへのやり取りの事を何度も思い出し、あまり集中できなかった。
でも、小さな一歩だったが、自分の中ではそれが少しの自信になった気がした
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