農兵、出世街道へ突撃!

紅月蔵人

農兵、出世街道へ突撃!

戦乱の世、農民たちも農閑期には農兵として戦に参加しておりました。

その、とある農兵の1人の物語。


「あー……腹減ったぁ……」

そう呟くと、男はごろん、と寝ころび、まるで天井を掴むかのように左手を上げた。


「おい、喜助!干飯、もろてきたで!」

雑魚寝の兵舎で寝転がった男に、今入口から飛び込んで来た男が言う。


「えー?また干飯……これ、マズいんよなぁ……」

「ちょ!そんなん大声で言うたらあかん!」


飛び込んで来た男の名は千歳。

千歳は片手に一握の干飯、もう片手で口の前に人差し指を立て、声を潜める。


「もらえるだけマシやねんから……感謝してるフリはせなあかんで……。」

そう言うと、千歳は喜助に干飯の半分を握らせる。


喜助は子供のように唇を突き出して不満をもらす。

「せめてなあ……火ぃ使えたらええねんけどなぁ……」


そう言うと、その干飯を口に放り込む。

文字通りの干した米は固く、味気ない。

口の中にしばらく含んで、唾液で柔らかくさせてから食べる。


干飯は通常、湯で戻して食べるものだが、最底辺の農兵に与えられた兵舎では火事の防止のため火の使用を禁じられていた。


「そういえば喜助、表の貼り紙見た?旗の模様のやつ。」

千歳は早々に米を水で流し込み、まだ寝転がっている喜助に呼びかける。

喜助はまだ口の中で米を嚙みながら答えた。


「あー、なんか、敵の大将の旗の模様、覚えとけって言われたなぁ。」

「旗印て言うらしいで。、」

「そんなん聞いても知らんわ。オレらはそもそも農民やし。」


ようやく米を飲み下し、喜助は大きく伸びをしてから座りなおす。


「旗印のほう?旗の模様のほう?」

「いや、両方やろ。どうせオレらみたいな農兵は数合わせみたいなもんやん。」

「せやけどもし……もしやで?敵の大将の首取れたら、オレら出世間違いなしやで?」


そう言った千歳の前で喜助は大きくため息を漏らす。


「そんな一発逆転とか博打やんか。オレはそのへんでウロウロして賃金もらえたらそれでええわ。」

「夢のないやっちゃな!男やったらでっかい夢……」

「もうええわ、それ。オレもう寝るし。」


言うが早いか、喜助はまた寝転がって眠ってしまう。

千歳は不満のため息を洩らし、喜助の隣に横たわった。




「今日は谷を越えて砦まで向かいます。

砦につけば休憩になりますので、みなさん、足並み揃えて進むようお願いします。」


農兵40人に1人の指導役が就く。

指導役は馬上で紙の書付を読み上げていた。


喜助は大あくびをし、与えられたほぼ棒の槍を地面に突き立てて土を掘る。

その行動に意味はないが、退屈を持て余しての手遊びだ。


「お前……ちゃんと聞いとる?」

口に手を立て、喜助の耳元に小さく言う。

「きーとる。きーとるよ。」

もうひとつ、あくび。

「お前、もうちょっと真面目にせんと怒られるで?」

「判った判った。お前も聞いてへんやん。」




「谷では伏兵の可能性がありますので、充分注意して歩いてください。

では昨日と同じ並びで行きましょう。」


伏兵って、そんなん注意のしようがないやん。

声にもならない呟きを飲み込んで、喜助は前の列に続いて歩き出す。

その後ろに千歳。


だらだらと足音が響き、隊は少しずつ進んでいく。

今日は天気が悪くなりそうだ。

灰色の雲が厚く垂れこめる。


「なんや、雨になりそうやなあ。」

誰に訊かせるでもなく呟くと、後ろから千歳が首を伸ばしてきた。


「砦まで天気、もたへんかもしれんな。、」

「せやな。もうちょい速ぅ進めたらワンチャンありそうやけど。」


「私語は謹んでくださーい。隊列も乱れてきてますよー。」

指導役が馬を下げて声をかける。


農兵は士気が低い。

農閑期のほんの数か月、農兵として働いてわずかな賃金を得る。

もらえる賃金はお小遣い程度。

誰も本気で戦おうなどとは思っていない。

隊列の乱れは当然のことだ。


そして、遠雷。

確実に雨が近づいている。




「はーい!みなさん!ここからは二列になって進んでください。川を渡りますー。」


おいおい。

ここから二列で川渡るって、どんだけ時間かかるねん。


私語を注意されたので心の中でだけ思っておいた。


ただでさえ歩みの遅い農兵部隊。

二列に並びなおすだけでも時間がかかる。

喜助と千歳は最後尾につくことになった。


隊列が長くなると指導役の声も届かない。

前のほうで指導役が何かを言っていたが、ほどなく降り始めた雨音で聞こえなくなった。


「つめた!」

思わず叫んだ。

雨がみぞれに変わり、足元がぬかるむ。


「え?これヤバない?」

千歳も足元を気にしながら呟く。


喜助と千歳の居る最後尾では、みぞれを避けようと隊列を離れて木陰に向かう者が出始めた。

思わず千歳が声を上げる。


「ちょ!お前ら!ちゃんと並べや!」

「見張りおらんのやからええやろ!」


爺が1人、また1人と隊列を離れる。

千歳はまだ必死に彼らを止めようとしていたが、喜助はこう思っていた。


別に爺さんの1人や2人、おってもおらんでも一緒やろ。


みぞれは身体に堪える。

爺であれば尚更だろう。


「爺さん!あかんって!」

そう叫びながら、千歳はその後を追って走り出した。


「え!?千歳?!」

息を飲んだその一瞬で千歳の背中は小さくなっていく。

仕方なく、その後ろを追うしかない。


「千歳!千歳って!もうええやんか!」

そう叫びながら後を追う。

爺を追う千歳はめちゃくちゃに走り、もうどれくらい走ったか判らない。

兵士の訓練よりきつい。


すると、急に千歳が立ち止まった。

川の側で、どうやら爺を見失ったようだ。

追いかけていた喜助は勢いのまま千歳の背中を押す形で立ち止まった。

立ち止まったつもりだった。


「うわ!」

その叫びと共に千歳は体勢を崩し、思わず体を躱して喜助の腕を掴む。

そして、みぞれでぬかるんだ土に足を取られて2人はそのまま川へ落ちる。


「うわーーー!!!」

増水した川の流れに身体が絡みとられ、2人は為す術もなく流されて行く。

時々、水の流れに息を奪われ、ようやく川の流れから逃れた時にはもう日は落ち始め、赤い太陽の光が2人の顔を照らしていた。


ようやく息を継ぎ、喉の奥に入り込んだ水で咽て激しく咳き込みながら喜助は激しく千歳を責める。


「お前のせいやで!」

「いや……ごめんやで……」


同じことを何度言ったか。

その間にも辺りはすぐに暗くなり、みぞれは増して2人の体温を容赦なく奪っていく。


「……さむ…… オレら、ここで死ぬんかなぁ……」

思わずごちる。


土地勘が無い上、日も落ちた。

手持ちの食料は無く、身体は冷えてもう動けない。

ただ、身体中で震えることしかできなかった。


「……ほんま……ごめんやで……」

歯の根をガチガチ鳴らしながら千歳は項垂れる。

それを聞いて喜助は泣きそうになった。


「もう……そんなん言うなや……お前のせいとちゃう……」

言葉に出すと余計につらくなる。

しかし喜助の言葉は静かに千歳を苛んだ。


「……なんか……食えるもん探してくる……」

千歳はそう言い、いきなり立ちがると駆けだした。


「え!千歳?!なんでそうなる……!」

追いかけようとして立ち上がれず、顎から落ちた。


うそやろ?こんなとこで1人にするん?


顎を触るとぬらぬらとした手触りがある。

血だろう。

千歳の居なくなった今、ただ川の流れる音しかしない。


「オレ……ホンマにこんなとこで……」

思わず呟いた時、突然激しいドドド……という激しい足音が聞こえた。

驚いて暗闇を見つめる。


「きっ!喜助!喜助!」

それは千歳の慌てたような声。


「なんや、お前か……」

「喜助!大変!たい……へん」

叫んでいた声が、急に押し殺したように低くなる。

暗闇で表情が読めず、一瞬、狸に化かされたのかと思った。


「……あのな……ここの下、ちょっと覗いてみ。」

腕を掴まれるままその場から少し移動すると、緩い傾斜の坂になっており、下に明かりが見える。


「良かった。火に当たらせてもらえる……」

「ちゃうねん。旗の模様、見て。」


旗の、模様。

「……え?なに?」

「わからんのかい!」


千歳が声を潜めながらも最大限に息を吐く。

そして更に声を低くする。


「あれ、大将の模様やで。」

大将の、模様。


「……え?敵のってこと……やんな?」

「当たり前やろ!」


薄明りに映る千歳の顔は興奮冷めやらぬという表情に見える。

つまり。


「攻め込む……ってこと……やんな?」

「当たり前やろ!」

千歳は鼻息荒く、絶対勝てる、とでも言わんばかりに拳を固めた。


「でも、武器ないで?」

川で流され、持っていたほぼ棒の槍は手放してしまった。

千歳も同じ。


「そんなん……」

千歳は周りを見回し、大き目の石を掲げる。

「これでええやん。」


石?石?

相手は敵将。

周りを守る者も多いだろう。

それへ、石?

……ええ?


「ほら、はよ!」

急かされ、喜助は慌てて手頃な石を持ち上げる。

だが、まだ半信半疑だ。


「え?ホンマにやるん?」

「当たり前やろ!」

千歳の全身が小さく震えている。

それは寒さのためか、それとも武者震いか。


「ええかっ!いっせーのーで、で行くでっ!」

「え?マジで?」

「いっせーのーでっ!!」


ざっ……。

勢いで土を蹴り、坂道を駆け降りる。

……あれ?


思わず振り向くと、坂の上で千歳が慌てた顔でこちらを見つめていた。

えええええ!!!


「お前けえへんのかーい!」


思いきり土を蹴った勢いはすぐには止まらない。

自分の足音がバタバタバタと空しく響く。


敵陣が目の前にある。

こうなればそのまま行くしかない。


「ヤぁぁぁァ!」

声が裏返り、間の抜けた掛け声になった。

もう泣きそうだ。


「何!?」

「なにやつ!?」

陣の入口を守っていた敵兵が色めき立ち、本物の槍を構える。

対して喜助の装備は石。

勝てるはずがない。


あと少しで敵兵の槍が喜助の身体に触れる……という距離で、喜助は何か縄のようなものを投げつけられた。

足を取られ、倒れ込む。


「あ……、え?」

「え?」


陣の中から走り出た人と目が合う。

相手の手には、なぜか投網が握られている。

そして自分を見ると、その投網に全身を絡めとられていた。


「なんで網?!」

「なんだ!お前!?」


ほぼ同時だった。

網に絡まって倒れる喜助と、投網を持った不精髭のおっさん。


「あ……えと……オレ、喜助と言います……」

「あ……そうスか。ワスは寛太っス。」


…… …… ……


なぜ自己紹介をしているのだろう。


槍を構えていた兵士たちの誰かが吹き出すのが聞こえた。

それを合図に一気に緊張が解け、一斉に笑い声が上がる。


喜助は恥ずかしくて立ち去りたい思いだが、ミノムシのように網に手足を封じられ動くことが出来ない。

せめて顔面だけでも隠したく、土に額をつけた。


「あ……すまんスね。

ワス、漁師で、1日に1回は網を投げんと調子が悪くなるんス。

今、はずしまスんで、ちょっと待ってつかぁさい。」


寛太は喜助の側にしゃがみ、網を丁寧に外していく。

今は爆笑というわけではないが、堪えきれない小さな笑い声がそこかしこから続いている。

そして、網を外し終わったあと、喜助は大人しく縄をかけられた。

この状態で他に為す術があるだろうか。


「お前、農兵だろ。逃げないと誓えば縄を解いてメシをや……」

「誓います。」

「……はやっ……」


こうして喜助は敵軍の捕虜を集めた陣に捕らわれの身となった。




うっめ……。

敵陣で出されたのは梅干しが入ったおにぎりだ。

久し振りに口にする柔らかい食事に舌鼓を打つ。


「おかわりありますよー。どうですかー。」

「くれ!……ください……」


はいはい、とその兵が呆れたようにおにぎりが入った桶を差し伸べ、そこから喜助は追加のおにぎりを遠慮がちに取った。

いっそこのままここに居たい。


腹が落ち着いたところで喜助はようやく周りを見る余裕が出来た。

ここには自分を含む雑兵が捕らえられているらしく、皆が粗末な木の鎧や、木綿の擦り切れた着物を着ている。


そういえば千歳は?


辺りを見回すが、千歳の姿はない。

あのあと無事に戻れたろうか。

メシも食えたろうか。

自分だけが良い扱いを受けているのは心苦しい。

だが、あの時一緒に来なかったのは千歳の方だ。

そう思うと急に腹が立ってきた。


周りの捕虜たちも食事をもらって落ち着いてきた頃、兵士が大声で皆に声をかけた。


「明日早朝に、捕虜交換の予定でーす。早めに休むようご協力をお願いしまーす。」


その言葉を、喜助はぽかんと口を開けて聞いていた。

捕虜交換、と言うことは明日早朝には自軍に戻れるということだ。

返ったらまず千歳をとっちめよう。

そう思うと急に気が緩み、一気に眠気が襲ってくる。

土の上だろうと構わない。とにかく眠い。

喜助は倒れるように眠りについた。




翌朝。

ようやく日が登り始めた頃、鉄鍋を叩く騒音で目が覚めた。

寒い。とにかく寒い。

あわせて土の上で寝たせいで身体中が軋むように痛む。

寒さと痛みに身を震わせていると、鉄鍋を叩いた兵士が大声を上げる。


「起きてー!捕虜交換の時間ですー。速やかに並んでくださーい。」


兵士に促されるまま、捕虜が並び始める。

朝飯はないようだ。


並ぶと手を出すように言われ、縄がかけられる。

だが、形式上と言わんばかりにゆるゆるの縄に、喜助は笑いそうになった。


夜明けと共に、草原に捕虜が並ぶ。

あちら側にも捕虜が並び、不安そうな顔をしていた。


まずは地位のありそうな立派な鎧兜を着けた将が、一歩前に出、向こうからも同じように立派ないでたちの将が一歩出た。


そして、同時に縄を解かれ、気まずそうに自軍に帰っていく。

何人か同じように交換が終わり、いよいよ自分たちの番だ。


10人ごとに交換が進み、ようやく自分の番になったところで自軍の兵士が手を上げた。


「あとの雑兵は返還無用です。こちらも兵が余り気味なので。」

「そのようなことを言われても、こちらも手は足りております。」

「じゃあその辺で解放してください。勝手に戻るでしょうから。」


そう言うが早いか、自軍はさっさと踵を返し、帰って行ってしまった。

えええええ……。


憐れむような眼で敵兵が見つめてくる。

えええええ……。


こんなところで解放されても土地勘がない。

たとえ帰る方向が判ったとて、身を守るものもなく獣に襲われるかもしれない道を1人行くのは心細い。


「どうする?」

喜助の縄を握っている兵士が別の兵士に問いかける。

「いや……どうしようもないだろう。」

「捨ててく?」

「……どうだろう。兵長に聞いてみるか。」


そうして喜助を含む8人の捕虜は縄をかけられたままトンボ返り。

その場で座るよう言われ、まだぬかるんでいる土の上に正座させられた。


どれくらい時間が経ったか判らないが、腹は猛烈に減る。

昨日食べたおにぎりの味を思い出すと口の中で唾液がじゅわ……と涌いてきた。


冷たい土の上で足は痛み、腹は減る。

寒さと痛みで身体の芯が冷え切った頃、ようやく兵士がやってきた。


「全員立て。殿のお沙汰を仰ぎに行く。」


言われるがまま立ち上がり、痺れた足でようやく前に進む。

寒さで鼻水が流れ出るが、手は縛られている。

鼻を拭う暇もなく、ただ縄を引っ張られて歩いた。


いくつかの陣を尻目に喜助たちは一際立派な陣の前に連れて来られた。

中には赤い布が敷いてあり、その奥には一目で名のある武将と判る堂々とした風情の男が座っていた。

自分たちはその陣の手前に連れて来られる。


「控えい!殿の御前である!」


厳かな声が響き、正座で座るよう指示される。

膝の泥がまだ乾きもしないまま、また冷たい土の上に座らされた。


「この者たちのお沙汰をいただきたく、参じました。」

「そのような些事を殿に委ねること、相ならぬ。」


厳かな声の老兵がそう告げたが、その「殿」は軽く片手を上げた。

「良い。」


「殿」は膝の上の猫を撫でながら、何か値踏みをするような鋭い目で喜助たち捕虜を見つめる。

だが、まるで興味を失ったかのように短く言った。


「全員、解放せよ。」

「殿!この者たちは我らが陣の場所も存じております。

解放するのは危険ゆえ……」


うろたえたように老兵が「殿」に進言するが、「殿」はその鋭い瞳で睨みつけて黙らせた。

「良いと申しておる!」


その声はけして大声ではないが凛と通った。

まるで空気が振動したかのように喜助の身体を揺らした。


渋々という態度で老兵が顎を巡らせ、無言で喜助たちの縄を持つ兵に命じる。

兵は短くうなずき、捕虜の手を縛っていた縄を外した。

捕虜は戒めを解かれ、軽く頭を下げたり、礼を言ったりして散り散りに逃げて行く。


やれやれ。これからどうするか……。


そう思った次の瞬間。


「さ、サクラたん!」

その声と共に猫の鳴き声が聞こえる。

猫?


喜助の足元に猫が駆け寄り、その脛にふわふわの頭をこすりつけた。

「にゃあん」

「サクラ……ちゃん!」


そして、「殿」が目の前で必死の形相を見せながら猫を抱き上げた。

「え?」

思わず声が出る。


一旦は「殿」の腕に収まった猫が、少しの間のあと暴れて「殿」の手から逃れると、とん、と軽い音を立てながら地面に降り立ち、また喜助の足元にじゃれ始めた。


「サクラちゃん!ばっちいからいけません!」

「え?!」


その裏声は明らかに「殿」の口から聞こえている。

猫は再び「殿」の腕に収まった。


「え……?あの……。」


喜助が何か言おうとすると、「殿」が顔を真っ赤にしながらも鷹のような鋭い目つきで喜助を睨みつけた。


あの……殿さん……めっちゃ怖い……


「し……仕方ない。お前はワシの猫に好かれたようだ。

残って猫の世話をせい。」



目線を外しながら「殿」が口を突き出して言うのへ喜助は思わず笑いそうになるが、再度その鋭い目つきに刺し抜かれて思わず身震いした。


「は……はい……喜んで。」




「殿」の陣の隣に小さな陣を立て、喜助と猫の生活が始まる。

戦の間は猫を守り、戦の終了と共に殿の陣へと猫を連れていくのが喜助の仕事になった。


「にゃあん」

「はいはい。サクラたん、ごはんでちゅねー。」

つい、殿の口癖が移る。


陣の中に囲いがあり鳥が放たれている。

必要に応じて喜助がその鳥を調理をするようになり、喜助もそのおこぼれを頂戴することとなった。

必死で戦う兵より数段良い食事に喜助は少し罪悪感を覚えることもあったが、やんちゃなサクラたんの世話は思った以上に大変だった。




やがて戦は終わり、喜助は御猫番として城に一部屋を与えらえた。

いや、実際、部屋はサクラたんのもので、喜助はサクラたんの従者としてそこに住まうことを許されただけだが。


こうして喜助は一日の大半を猫と過ごし、幸せな日々が続いて行った。

時に穏やかに、時に戦場で、サクラたんを守って楽しく過ごす。


サクラたんは今日も、喜助の膝にちょこんと座っている。

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