花びらの名前は
@ai_tatsuhana08
第1話 無に還る
「あなたは、音楽を創ることしかできないもんね」
年末のライブが終わり、気分も高揚した。上手くできたんだろう。周りも誉めていたし、自分としても納得したライブだった。
今の気分なら、長年、つき合っていた彼女にプロポーズできる。そう思ったのに、あり得ない言葉を今、聞いている。
ー音楽を創ることしか……?
不思議な顔で彼女を見つめる。今までマスコミを気にして、自分のイメージを気にして、外に出かけることも出来なかった。仕事が入ればそれに没頭し、連絡も返すことが出来なかった。そんな自分に、彼女は微笑んで言ってくれた。
『伸治は音楽に全部、かけているもんね』
その言葉、優しく見つめてくれる笑顔にどれだけ、救われたことか。不器用で、口べたで、顔も格好良くない自分。自分でも好きなところがなく、欠けてばかりの俺。そんな俺が、君の言葉や笑顔で支えられてきた。だから、音楽も続けて来れた部分があった。
誰かに誉められれば誉められるほど、多くの人に聞かれれば聞かれるほど嬉しい。ただ、同時に疎まれ、蔑んだ目でも見られる。賞賛の嵐とともに生まれる誹謗中傷。それに耐えてこられたのは、君がいたから。
ーなのに、どうして……?
「私ね。子供ができたの。ーあなたじゃない人との子供」
彼女が自分の知らない人に見えた。自分はきっと、悪夢を見ているのだろう。
それなら、この夢は早く終わって欲しい。
本当は見なきゃいけないことを見ないまま、ここまできた。ゆっくり、ゆっくりと自分に近づく陰に気づくことから逃げて、今の事態にに至った。うっすらと気づいていた。
……それでも、逃げたかった。
逃げることが出来ないのに、目を閉じた。目を閉じれば、現実もなかったものになると信じたかった。
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