第55話 鶴田町事件

 黄金の座薬によって「聖域」の痛みから解放された変美は、心身の平穏を取り戻すため、宇都宮市鶴田町にある**「野口雨情旧居」**を訪れていた。

​ 童謡詩人・野口雨情が晩年を過ごしたその場所は、喧騒から切り離され、古き良き時代の静寂が守られているはずだった。

 ■ 静寂の散策:雨情の残り香

​「……いい匂いね。古い木材が湿気を吸い、ゆっくりと呼吸しているような、『時の堆積した香り』……」

​ 変美は、かつて雨情が愛した庭を歩く。

 微かに漂う**「墨汁」と、庭に咲く山茶花の「清廉な花の匂い」**。新田やハイエナたちの脂ぎった臭いにまみれていた彼女にとって、それは究極のデトックスだった。

​ だが、その平穏は、背後から忍び寄る「不協和音」によって破られる。

 ■ 異変:歪んだ「執着」の匂い

​(……っ!?)

 変美の鼻腔を、針で刺すような鋭い臭いが突いた。

​「……背後30メートル。生け垣の影。……嗅ぎ慣れない、でも吐き気のする匂い。『数日間洗っていない偏執的な脂汗』と、『現像液の薬品臭』。そして……」

​ 変美は足を止めず、建物の縁側に沿って歩を進める。

「……『私のシャンプーと同じ、偽物のバラの芳香剤』。私を模倣しようとしている、下劣なストーカーね」

​ 犯人は、変美が黄金の座薬を巡る死闘で名を馳せたことで現れた、狂信的な「匂いフェチ」の追跡者だった。

 ■ 追跡:雨情の庭の影踏み

​ 変美は、あえて旧居の奥にある竹林へと誘い込んだ。

 ガサリ、と落ち葉を踏む音が聞こえる。

​「……出てきなさい。あなたの持っているそのカメラ、**『盗撮した写真を現像したばかりのインクの匂い』**が隠しきれていないわよ」

​ 竹林の影から姿を現したのは、全身を黒いジャージで包んだ、痩せこけた男だった。その手には望遠レンズを装着したカメラと、変美の「使用済みティッシュ」を模したと思われる、奇妙なコレクションが握られていた。

​「……変美さん……。君の匂いを、アーカイブしたいんだ……。黄金の座薬を使った後の、あの『神々しい香り』を、僕のコレクションに加えさせてくれよ……!」

 ■ 迎撃:詩の如く美しく

​「……私の『痛み』を娯楽にするなんて、一万年早いわ」

​ 男が飛びかかろうとした瞬間、変美は懐から、雨情にちなんで用意していた**「特製・七つの子スプレー」**(強力なカラス避け成分を配合した刺激臭ガス)を取り出した。

​「雨情さんの詩を汚す、その腐った根性……この匂いで洗い流しなさい!」

​ シュッ、と放たれたガスが男を包む。

「ぎゃああああ! 鼻が、鼻がもげるぅぅぅ!」

​ 男が悶絶しているところへ、遅れて駆けつけた武尊と新田が合流した。

「変美さん! 大丈夫ですか!」

「遅いわよ、武尊。新田、この男をさっさと連れて行って。……それと新田、この男が持っている私の盗撮写真、一枚でもあなたのコレクションに加えたら、次はあなたの『黄金の座薬』を強制排出させるからね」

​「……ギクッ。な、なんのことだい? 僕はただ、犯人の『アナル的な心理』を分析しようと思っただけで……」

 ■ エピローグ:しゃぼん玉のように

​ 男は連行され、旧居に再び静寂が戻った。

 変美は、雨情が愛した窓辺に腰を下ろし、遠くの空を見つめる。

​「……しゃぼん玉、飛んだ。屋根まで飛んだ。……消えてしまったのは、お父さんの背中かしら。それとも、私のまともな日常かしら」

​ 彼女の鼻が、風の中に新たな匂いを捉えた。

 それは、旧居の床下のさらに奥、隠された地下室から漂う、**「戦時中の極秘軍用文書」と、「父が愛用していた万年筆のインク」**の匂いだった。

​ ついに父の足跡を「雨情旧居」の隠し地下室で発見しました!

​ 地下室へ潜入し、父が遺した「宇都宮の真実」を暴く。

​ 地下室で見つけた「暗号文」を解読するため、再びオリオン通りの暗号屋へ向かう。

​ どちらの「匂い」を追いかける?

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