第13話 ​宇都宮の最底辺:チンピラ津田、見参

 宇都宮城地下の緊迫した空気を切り裂いたのは、爆発音ではなく、無数の「原付バイクの排気音」と、下品なまでに騒がしいクラクションの音だった。

​ アジトの天井が激しく揺れ、通気口から一人の男が派手に落下してきた。

 金髪を中途半端に逆立て、着古したスウェット姿で現れたのは、宇都宮のあらゆる犯罪の端々に顔を出す「宇都宮の歩く公害」こと、チンピラ津田だった。

​「イテテ……なんだぁ? この暗っ苦しい地下室はよぉ!」

​ 津田は、かつて変美に「万引きした餃子弁当の匂い」を嗅ぎ当てられて逮捕され、出所したばかりの男だ。その背後からは、各地でカツアゲ、空き巣、信号無視を繰り返してきた宇都宮のろくでなし軍団が、地下への侵入口を無理やりこじ開けてなだれ込んできた。

​「おい、掃除屋の姉ちゃん! あんたらか? 俺たちの溜まり場だった『オリオン通りのゲーセン地下』を勝手にコンクリートで埋めやがったのは!」

​ 掃除屋の女が、初めてその端正な顔を不快そうに歪めた。

「……何なの、この**『安煙草と、数日洗っていない体臭、そして安物のエナジードリンク』**が混ざったゴミのような匂いは」

​「ゴミとは失礼じゃねえか! 俺たちはなぁ、国がどうとかプルトニウムがどうとか知らねえが、俺たちの『シマ』で勝手にコソコソされるのが一番腹立つんだよ!」

​ 津田が叫ぶと同時に、彼が率いるチンピラたちが、テロリストの工作員たちに向かって、大量の**「使い古したカラス除けのロケット花火」**を水平発射した。

​ アジト内に火薬の煙と、目に染みるような悪臭が立ち込める。

 その混沌の中、変美の鼻が動いた。

​「……チャンスよ、唐桶刑事! 津田が撒き散らしたこの『雑多な生活臭』が、あの女が完璧に計算していた『臨界のシミュレーション』を狂わせている!」

​ プルトニウムの冷却装置は、微細な塵や異物を検知してエラーを吐き始めた。掃除屋の女が持つデバイスのランプが、赤く点滅する。

​「津田! その右側の制御パネルに、お前が持っているそのベタつくエナジードリンクをぶっかけなさい!」

 変美が叫ぶ。

​「あぁ!? なんだ変美の姐さんか! しょうがねえなぁ、これ高かったんだぜ!」

​ 津田が投げつけた液体が、精密機器に火花を散らす。

 宇都宮の秩序を守るのは、正義の味方ではない。この街に根付く、泥臭く、しぶとい「人間の生活の残り香」だった。

​「おのれ……宇都宮の掃き溜めどもが……!」

 掃除屋の女が初めて声を荒らげ、懐から銀色のナイフを抜く。

​ だが、変美はすでにその先にいた。

「……終わりよ。あなたの『無臭』という偽りは、この街の『悪臭』に飲み込まれたわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る