新撰組は呪われたがる。-呪われたがる前のこと-

陸前フサグ

土方・沖田

バレンタインもたかりたがる。


「土方はバレンタインもらったのか?」


 高校の昇降口。沖田は棒付きキャンディを口の中で転がしながら、ローファーに足を入れた。

 時代遅れと言われたルーズソックス、太もも丈の校則違反なミニスカート、紺色のブレザーの中には浅葱色のパーカー。


 制服の意味を成さない格好は、学校でも悪い意味で目立っていた。


「もらってない」

「そうなの? モテないんだな、土方」


 バカ。モテないんじゃなくて――断ってるって言ったらどうなるんだ?


 実際渡されはしたが断ったし、机の中に入ってたピンク色の包装紙に包まれた物は教卓の上に置いてきた。


 受け取れば返さなきゃいけないし、余計な手間が増えるだけ。好きでもない相手にかける心労はない。

 ましてやチョコレートは特別好きじゃないし、もらうなら少人数……1人くらいでいいんだ。


 まぁ俺は? 別に、貰いたい相手もいないが?


 大体バレンタインデーなんて訳のわからんイベントに乗るのが悪い。本当の意味は確か――


「土方?」

「ん?」


 いつの間にか校門を出て、帰り道を歩いていた。いかん。考え事をしていたせいで「チョコ貰えなくて悲しい奴」だと思われてるぞ。


 どうせ揶揄ってくるんだろと思いながら返事をすると、沖田は通学路にあるコンビニを指差した。


「腹減ったからコンビニ行こう」

「今日は自分で金出せよ」

「そらそうよ。任せろ任せろ!」


 何が任せろだ。財布を見せて来るが、それの信憑性がどこにある。なんだかんだと払わないくせに。今日は何も買わん。騙されるな、あの財布に金が入ってるかもわからんぞ。


 店内もバレンタインデー商品が主力商品となり、チョコが並んだ売り場が目についた。


 沖田はあっという間に姿を消す。


 どこ行った。まぁいい。俺は飲み物だけ買ってさっさとレジを通そう。

 そうすれば沖田の物まで買わずに済むからな。


 冷蔵庫の中にあるカフェラテを手に取り、レジの方を向くと、沖田がちょっとモジモジしながら後ろに立っていた。


「驚かすな。さっさと買い物しろ」

「土方ァ……あの……これ……」


 後ろからゆっくりと差し出して来たのは、少し高いチョコレートブランドのブラウニー。


 気品あるバレンタインデーのラッピングがされているのだから、つまり、その……そういうチョコレートだ――!


「は……ッ、お前!」

「いつも悪いな……土方」


 沖田は照れくさそうに外へ駆けて行く。


 そうか、俺にこれを渡すためにさっさと居なくなって会計していたのか。

 何も店の中で渡さなくたっていいだろう。まあ、いい。仕方がないからもらってやろう。


 常日頃奢ってやってるんだから、このくらい高い物を貰っても割に合わんくらいだ。


 俺は少し体に熱を持たせながら、レジにコーヒーだけを置いた。


「あの、そちらもですか、ね?」


 店員が困惑した表情で、小脇に抱えたブラウニーを指差した。これは沖田が会計したんじゃないのか?


「あ、それ会計すんでねぇから。あとピザまんよろしく!」


 ピンポンと、開閉音が鳴る。なんだ。俺、またアイツに――!


「沖田――ッ!」


 たかられてただけだった。期待していたみたいで恥ずかしいし、自分でバレンタインチョコを買う寂しい奴みたいで恥ずかしいし。


 挙げ句の果てにピザまんまで要求され、いつもより高くついた。


「おぉ、美味いな! リッチな味がすんぞ!」

「そりゃあ一箱2000円もすりゃあな!」

「ホワイトデーは控えめでいいぞ」

「誰がやるか!」


 悔しいが、美味い。不機嫌にブラウニーを貪り、沖田の額を小突く。

 騙されて買ってしまう俺もバカだ。


 自分で金を払ったのに、チョコレートを貰った気分でいるのが不思議だがな。

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新撰組は呪われたがる。-呪われたがる前のこと- 陸前フサグ @rikuzen_fusagu

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