絶世の美貌(呪い)を盾に、僕はダンジョンでピクニックがしたい ~異世界で二度目のハーレムはお断りなので、魔物と相棒を甘やかして生きていく~
尚秀
第1話 美貌という名の呪い
網膜も焼き切られるのかと錯覚するほどの眩い光。それと同時に耳に届いたのは、地鳴りのような歓声と仰々しい祈りの言葉だった。
「おお……! 成功だ!
ついに我が聖シュトラール王国に《救世主》が降臨されたぞ!」
強烈な光に視界を焼かれ、閉じだ瞼を右手のひらで覆う。熱を持った網膜の裏側で極彩色の残像が暴れまわっている。
召喚された青年ーー
覆っていた手のひらをどけて、ゆっくりと目を開いた。
まず最初に視界に映ったのは、高い天井がそびえる大聖堂。足元には複雑な幾何学模様が描かれた魔法陣が淡く発光している。
そしてその周囲には、これでもかと着飾った貴族たちと跪く魔導師たちが群がっている。
レンの姿は、まさにこの世界の神話に謳われる《聖なる象徴》そのものだった。
夜明けの空を閉じ込めたような、銀光が混じる艶やかな黒髪は、肩まで滑らかに流れている。
透き通るような白磁の肌は、僅かな血色さえも許さない完璧さで、陶器のように繊細な印象を与えている。
そして、その端正な顔立ちの中央で最も目を引くのは、見る角度や光の加減で色を変える“
深く澄んだ青から、淡い藤色、あるいは神秘的な黄金へと揺らめくその瞳は、まさに宇宙の神秘を宿したかのように、一度見れば決して忘れられない。
細身ながらも、彼の背筋は一点の揺らぎもなく真っ直ぐに伸び、まるで天界の存在がそこに降り立ったかのような、常人離れした気品と、どこか冷徹なまでの完成された美しさを放っていた。
「はぁ」
レンの口から、無意識にため息が漏れる。
ずっとそうだった。どこへ行っても、何をしても、狂喜し、あるいは嫉妬に狂い、勝手な幻想を押し付けてきた。
この圧倒的な“美貌”は、恩恵などではない。人生を蝕む質の悪い呪いだった。
「ねぇ見て、なんて神々しいお姿なの……」
「これまでの召喚者とは格が違う。あれこそ“救世主”の名にふさわしい」
一段高い玉座から、一人の女性がこちらに歩み寄って来る。
金糸や宝石をふんだんに使ったドレス纏い、高慢な笑みを浮かべた女性ーーこの国の第一王女・フランチェスカ。
彼女は、レンの前に立つと品定めするように彼の顎を右手でクイと持ち上げた。
「顔を上げて、その美しい顔を見せなさい。
……ああ、貴方のその美しさは神が我が国にお与えになった宝よ。
貴方は今日から、この国の、そして私の“所有物”なのよ。
その美しさを我が王室の権威として、一生、籠の中で愛でてあげるわ。感謝なさい」
熱を帯びた粘りつくような視線。今まで何度も向けられたその視線の真意など想像に難くない。
レンはそれを正面から受け止め、それに冷たく突き放すような無表情を返した。
なんで僕は異世界に来てまで、周りの顔色を伺っているんだ。もうここには、
……いないなら、もう好きに生きてもいいよね。ここには僕を縛る人はいない。縛る権利のある人はいない。
みんな他人だから。
もう周りの顔色を伺って生きるなんて、御免だ。
その瞬間、レンの中で何かが静かに、音をたてて外れた。
彼は王女の右手を払いのけることはせず、ただじっと瞳を見つめた。
その時、レンの
「……鏡はお持ちですか?」
鈴の音のように清澄でありながら、ゾッとするような冷ややか雰囲気を含ませた声が聖堂に響き渡った。
王女の動きが止まる。
「な、なんですって……」
「お持ちではないのですね。
……では今すぐにその汚い化粧を剥ぎ取って水たまりにでも、そのお顔を映すといいですよ。
あなた、醜悪な欲がこびりついていて、見ていて非常に不愉快です」
聖堂内が水を打ったように静まり返った。
王女が口をパクパクさせながら、目を大きく見開いてこちらをじっと見ている。
「なっ……、なっ」
王女の顔が、驚愕と屈辱で真っ赤に染まっていく。
しかし、レンの言葉は止まらない。
彼は一歩前へ踏み出し、周囲を見ながら、”王族”以上の気品を漂わせて言い放った。
「王女だろうと、誰のだろうと……たとえ神だろうと関係ありません。
僕を“物”として扱うなら、僕は貴方を“ゴミ”として扱います。
……僕の許可なく視界に入らないでいただけますか?
吐き気がしますので」
レンから放たれる威圧的な拒絶の波動が、物理的な圧力となって周りに広がっていく。
王女は悲鳴を上げる間もなく、その場に膝をついた。彼女だけではない。
貴族や魔導師たちも、さきほどまでの群れぐらいが嘘のように静まり返り、レンの姿を視界に捉えたまま、微動だに出来ないでいる。
その異変に一目散に対応すべき周囲の騎士たちも、レイの美しさと気品に当てられている。
そして同時に“底知れない恐怖”に支配され、手に持っていた武器を落として戦慄している。
「ああでも、あそこから自由にしてくださった事だけは感謝していますよ」
レンは周囲の混乱を、他人事のように冷ややかに見渡した。
「せっかく異世界に来たんですから……。
僕は……僕の好きなように生きてもらいます」
動けない人々を背に、レンは悠然と歩き出す。
大聖堂の重厚な扉を魔力で押し開く。
外には見たこともない広大な空が広がっていた。
ーーこうして、《伝説の救世主》となるはずだったレンの身勝手で自由な逃亡劇が幕を開けた。
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