第2話…六人の日常―学園生活の始まり

夏休みが終わり、二学期が始まった。

施設から中学校までは歩いて十五分ほど。

六人で登校するのが、いつの間にか当たり前になっていた。

朝の空気はまだ少し暑くて、アスファルトがじんわりと熱を持っている。

元気「なぁなぁ勇気!昨日のテレビ見た!?」

勇気「……え、なに?」

元気「心霊番組!!」

勇気「見てない」

元気「マジかよ人生半分損してる!!」

南「はいはい、朝から不吉な話すんな」

茂「俺、ああいうの平気だけどな!」

南「じゃあ今夜一人でトイレ行ってみ?」

茂「……それは別」

即答だった。

真夏はそんなやり取りを聞きながら、前を歩いている。

振り返って、にっと笑った。

真夏「ほらほら、遅刻するよー!」

その声は、朝の眠気を一瞬で吹き飛ばす力があった。

千夏は真夏の隣を歩きながら、僕の方をちらっと見る。

千夏「……勇気くん、制服慣れた?」

勇気「うん、大丈夫」

千夏「よかった」

それだけ言って、また前を向く。

必要以上に踏み込まない距離感。

でも、確実に気にかけてくれているのが分かる。

この六人の中で、

真夏が“中心”で、

南が“舵取り”で、

茂と元気が“騒音”で、

千夏が“支え”で、

そして僕は――まだ、どこか空白だった。

けれど、その空白を誰も責めない。

それが、救いだった。

◆教室――席替え事件◆

二学期最初のホームルーム。

担任「はい、じゃあ席替えするぞー」

その一言で、教室がざわついた。

元気「来たァァ!!運命の席替え!!」

茂「隣が女子だといいなぁ……」

南「静かにしなさい」

くじを引き、席を確認する。

勇気(……え)

黒板に貼られた座席表を見て、少し目を見開いた。

僕の席の右隣――

内田真夏。

そして左斜め後ろ――

内田千夏。

元気「おおおお!!勇気ハーレムじゃん!!」

南「語弊がありすぎる」

茂「羨ましすぎて殴りたい」

勇気「やめて……」

席につくと、真夏がすぐに話しかけてきた。

真夏「よろしくね、勇気くん!隣だ!」

勇気「……よろしく」

近い。

思った以上に、距離が近い。

ノートを広げる音、ペンの動く音、

それだけで意識してしまう。

真夏はまったく気にしていない様子で、

授業が始まる前から落書きをしている。

真夏「ねぇねぇ、勇気くん」

勇気「なに?」

真夏「この先生、声眠くならない?」

勇気「……分かる」

真夏「でしょー!」

笑うたびに、肩が軽く触れる。

心臓が、少しだけうるさくなった。

後ろから、千夏の視線を感じた気がした。

振り返ると、千夏はノートを取っていて、

目が合うと小さく会釈した。

……気のせい、だと思いたかった。

◆昼休み――六人の定位置◆

昼休みは、校舎裏のベンチが六人の定位置だった。

元気「今日の給食、神じゃね!?」

茂「唐揚げ最高」

南「野菜も食べなさい」

真夏「勇気くん、それ一口ちょうだい!」

勇気「……どうぞ」

真夏「やった!」

躊躇なく箸を伸ばしてくる。

間接キスだとか、

そんな言葉が頭をよぎって、

慌てて振り払った。

千夏は静かに弁当を食べながら、

その様子を見ていた。

千夏「……お姉ちゃん、人のもの取りすぎ」

真夏「えー?勇気くん優しいもん!」

勇気「……別に」

南「照れてる」

勇気「照れてない」

即答したのに、

なぜか全員がニヤニヤしている。

元気「これはアレだな」

茂「フラグだな」

南「余計なこと言うな」

六人で笑う。

何気ない時間。

でも、この何気なさが、

どれほど貴重かを、

まだ僕たちは知らなかった。

◆放課後――寄り道◆

放課後、施設に戻る前にコンビニに寄るのも日課になった。

元気「アイスジャンケンな!」

茂「負けたやつな!」

南「くだらな……」

真夏「やるやる!」

じゃんけんの結果、負けたのは――

勇気「……僕か」

元気「ごちでーす!!」

レジで会計を済ませ、

アイスを配る。

真夏「勇気くん、ありがと!」

千夏「……ありがとう」

その言葉が、なぜか胸に残る。

帰り道、夕焼けが校舎を赤く染めていた。

真夏「ねぇ勇気くん」

勇気「なに?」

真夏「ここに来て、どう?」

少し真剣な声だった。

勇気「……最初は、正直つらかった」

真夏「うん」

勇気「でも、今は……」

言葉を探す。

勇気「ここに来てよかったって、思ってる」

真夏は一瞬黙ってから、

満面の笑みを浮かべた。

真夏「そっか!」

その一言が、

なぜか胸をいっぱいにした。

千夏は少し後ろを歩きながら、

夕焼けに染まる二人の背中を見ていた。

その表情は、誰にも見えなかった。

◆夜――施設の廊下◆

消灯前。

廊下で、千夏と二人きりになった。

千夏「……勇気くん」

勇気「どうしたの?」

千夏「最近、少し元気になったね」

勇気「……そうかな」

千夏「うん。前より、笑ってる」

そう言って、安心したように微笑む。

勇気「千夏が気にかけてくれたからだよ」

千夏「……私は、何もしてない」

勇気「そんなことない」

千夏は少しだけ目を伏せた。

千夏「……真夏が、すごく嬉しそうだから」

勇気「え?」

千夏「勇気くんが来てから、真夏、毎日楽しそう」

その声は、穏やかで、

でもどこか寂しさを含んでいた。

千夏「だから……ありがとう」

勇気「……?」

意味はよく分からなかった。

でも、

その背中が少し小さく見えて、

胸がちくりとした。

◆六人の日々は、続いていく◆

笑って、

喧嘩して、

一緒に帰って、

同じ夜を迎える。

それが、ずっと続くものだと、

疑いもしなかった。

真夏の笑顔が、

当たり前にそこにあって。

千夏の静かな優しさが、

変わらず隣にあって。

茂と元気が騒いで、

南が呆れて。

そして僕は、

少しずつ、この世界に根を張っていった。

――この日々が、

失われるなんて、

想像もしないまま。

夏の終わりの風が、

少しだけ冷たくなっていた。

それが、

最初の“予兆”だったのかもしれない。

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