二度と恋をしないと誓った僕が二度目の恋をし二度目の恋を失ったお話
清ピン
第1話…出逢い編…六人が揃う日
蝉の声が、地面の奥底から湧き上がるように響いていた。
夏の空は、やけに青くて、なのに少しだけ胸を締めつけるような色をしていた。
僕――勇気が施設に来たのは、そんな午後だった。
葬儀のあと、現実とも夢ともつかない日々を過ごし、気がつけば世界は音をなくしていた。
足音すら自分のものじゃないみたいに感じる。
そんな僕を迎え入れたのは、北川施設長の明るい声だった。
北川施設長「今日からここが勇気くんの家だよ。好きにしていいからね」
家、という言葉が胸の中で変な形に響いた。
家族はいない。僕一人だけで、またここで他人と馴染まないといけない。
……正直、嫌だった。
誰とも関わりたくなかった。
だけど。
真夏「ねぇ、君が勇気くん?」
振り返ると、目がくらみそうなほど明るい笑顔がそこにあった。
真夏「私、内田真夏!今日からよろしくね!」
ポニーテールが跳ねるたびに光が弾けるみたいだった。その眩しさに、心臓が少しだけ動いた。
その隣からそっと覗くような視線。
千夏「……千夏。よろしく」
真夏の双子の妹らしい。
控えめで静かで、でも優しい雰囲気が漂っている。
そして、それはまるで季節が二つ並んでいるようだった。
太陽みたいな真夏と、静かな木陰のような千夏。
まだ何も知らない僕の新しい日々は、この二人との出会いから始まった。
内田真夏(うちだ まなつ)
――太陽みたいな出逢いーー
真夏との出会いは、最初から嵐だった。
真夏「勇気くん、荷物持つの手伝う!」
勇気「いや、自分で……」
真夏「いいからいいから!ほら、千夏も!」
千夏「真夏、お節介しすぎ……」
玄関に入るやいなや、僕のリュックを奪い取って中身を勝手にチェックし始めた。
真夏「わっ、めっちゃ本入ってる!えらい!!」
勇気「返して……」
千夏がため息をつきながら僕にそっと返してくれる。
千夏「お姉ちゃん、距離感というものを学ぼうね」
真夏「え〜?でも仲良くしたいじゃん!」
それだけを言って、真夏はまた全力で笑った。
……なんでだろう。
初対面なのに、彼女の笑顔を見ているだけで、息がしやすくなる気がした。
灰色の世界に、少しだけ色がついた気がした。
-
内田千夏(うちだ ちなつ)
――静かな優しさの出逢いーー
真夏に比べて、千夏はとても静かだった。
千夏「部屋、分からないよね。案内する」
それだけ言って、すっと先を歩いていく。
控えめなのに、不思議と頼りになる背中。
千夏「……勇気くん」
勇気「なに?」
千夏は足を止めた。
千夏「辛かったら、無理しないでいいからね」
その声は小さかったけど、胸の奥に静かに落ちた。
人の気持ちに寄り添うのが上手い子なんだと思った。
真夏のように明るく照らすんじゃなくて、
暗いところにそっと灯りを置くような優しさ。
勇気「ありがと」
そう言うと、千夏はほんの少しだけ笑った。
山田茂(やまだ しげる)
――ゴリラみたいな男子との出逢いーー
翌日の朝。
食堂で朝ごはんを食べていると、後ろから背中を叩かれた。
茂「おお!お前が勇気か!!」
何かが背骨まで響く衝撃。
振り返ると、肩幅が僕の二倍はありそうな男子が立っていた。
茂「山田茂!同級生な!よろしく!」
勇気「い、痛い……」
茂「ハハハ!体細いなぁ!鍛えようぜ!!」
うるさい。
でも嫌いじゃない。
体育系の犬みたいなやつだ。
その瞬間、また別方向から声が飛んできた。
岡本元気(おかもと げんき)
――うるさすぎる男子との出逢いーー
元気「茂〜〜!!勇気くんビビってるじゃん!もっと優しく行けって!」
金髪に近い茶髪、歯を見せて笑う男子が飛び込んできた。
元気「俺、元気!よろしくな勇気!」
勇気「名前とテンションが一致してる……」
元気「でしょ!!よく言われる!!」
茂と元気は一瞬で僕の両肩を抱きかかえた。
元気「今日から俺ら三人で“3バカトリオ”名乗ろうぜ!」
勇気「いや、僕はバカじゃ……」
茂「細けぇことはいい!!」
元気「勇気、もう逃がさないぞ!!」
……この人たち、距離感がバグってる。
真夏が笑いながら言う。
真夏「茂も元気も、仲良くなったらほんと楽しいよ!」
確かに、うるさいけど嫌な感じはしなかった。
むしろ“知らない誰か”だったはずなのに、
初めて会ったのに、昔からの友達みたいに近かった。
-
飛鳥南(あすかみなみ)
――鋭いツッコミとの出逢いーー
その直後。
南「おい男子!!朝から騒ぐな!!」
ピシィィィィ!!
空中に見えるほど鋭いツッコミが飛んできた。
振り返ると、黒髪のショートカットで、キリッとした目をした女の子が立っていた。
腕を組み、眉間にシワ。
南「あんたらほんとにバカでしょ。勇気くん怖がってんじゃん」
元気「南……」
茂「南ちゃん……」
元気と茂「す、すみません……」
あの茂と元気が黙るレベルの迫力。
飛鳥南。
真夏と千夏の親友らしい。
南「勇気、変なやつらだけど悪い子じゃないからね」
優しい声で話しかけてくれた。
真夏と千夏と仲がいいというのも納得できる。
南はツッコミも鋭いが、人を見る目はもっと鋭い。
僕が緊張しているのを、一発で見抜いていた。
……六人が揃う瞬間……
その日のお昼休み。
僕は施設のテラスで、一人でパンを齧っていた。
騒がしいのは好きだけど、
昨日今日で新しい環境に疲れていた。
風鈴の音がちりんと鳴り、
庭で真夏と千夏が笑いながら追いかけっこをしていた。
そこに、全員が集まってきた。
茂「おっ勇気ここか!!」
真夏「ちょっと休憩してる?」
千夏「勇気、パン好き?」
元気「昨日の夜眠れた?」
南「体調大丈夫?無理してない?」
六人が順番もなく口を開くから、
誰の声なのか分からなくなった。
気づけば僕の周りが彼らで囲まれている。
勇気「……なんでみんな来るの?」
ぼそっと言うと、真夏が当然みたいに答えた。
真夏「だって勇気くん仲間でしょ!」
その一言が、
胸にドン、と落ちた。
仲間。
そんな言葉を、
僕に向けて言ってくれる人がいるなんて思わなかった。
気づけば六人で円になって座っていた。
風が吹いて、真夏のポニーテールが揺れる。
千夏のスカートがかすかに揺れ、南がそれを押さえてあげる。
元気と茂は意味もなくじゃれ合って笑っている。
千夏が小さく手を差し出した。
千夏「勇気くん、これからよろしくね」
真夏、千夏、南、茂、元気。
五本の手が重なる。
僕は迷った。
でも。
心はもう決まっていた。
僕も、そっと手を重ねた。
勇気「……よろしく」
その瞬間。
六人の手が重なったその一瞬。
風が止まり、蝉の声だけが響いていた。
夏の匂いが濃くて、
太陽が強くて、
胸の奥が熱くて。
ああ、この瞬間はきっと忘れない。
そう思った。
……放課後、六人で歩く道……
放課後、六人で商店街を歩くことになった。
初めて見る景色なのに、
どこか懐かしいような、居心地のいい時間。
元気「なぁ勇気!アイス奢ってやるよ!!」
勇気 「いや、なぜ……?」
元気「入所祝い!!」
南「金は私が払うからやめて!」
南が即座に止める。
真夏は店のウィンドウに顔をくっつけて興奮しているし、千夏はそんな姉の服の裾をそっと掴んでついていく。
茂と元気は相変わらず言い合いしながら走っていく。
そのにぎやかさの中心に、
自然と僕も混ざることができていた。
気づけば笑っていた。
誰に気を使うでもなく、
無理に明るくする必要もなく、
ただ笑うだけでよかった。
夏の陽ざしに照らされながら、
六人で歩く道はどこまでも続いているように見えた。
……夜、勇気と千夏の静かな時間……
施設に戻ると、騒がしい六人は夕飯でも大盛り上がりだった。
そのあと――
風呂を済ませて廊下を歩いていると、
千夏が窓辺に座って外を見ていた。
勇気「寝ないの?」
千夏「……勇気くん」
千夏は振り返る。
千夏「今日、楽しかった?」
その声には、かすかに不安が混じっていた。
勇気「うん。楽しかったよ」
そう言うと、千夏の顔がほんの少しだけほころんだ。
千夏「よかった。勇気くん、少し心が疲れてるように見えたから……」
その優しい言葉に胸が詰まった。
勇気「千夏って、なんでそんなに人の気持ちが分かるの?」
聞くと、千夏はほんの一瞬だけ寂しそうに笑った。
千夏「……私、ずっと真夏の影だったから」
勇気「影って……」
千夏「ううん。嫌いって意味じゃなくてね。真夏は太陽で、私のこといつも照らしてくれる。だから私は、誰かの影になっても、そっと支えられるようになりたいって……思ったの」
静かな強さがあった。
その横顔は、真夏とは違う光を持っていた。
千夏「勇気くんも、辛いときは言ってね」
勇気「……うん」
千夏の温度が、心に沁みた。
……六人が生まれた日……
翌日、真夏が突然宣言した。
真夏「今日から私たち六人は――」
真夏は両手を広げる。
真夏「“太陽チーム”!!」
茂「だせぇ!!」
南「やめろ!!」
元気「なんか強そう!!」
千夏「……真夏、それは……」
勇気「……太陽……?」
真夏が胸を張って言った。
真夏「だってさ!みんなで一緒にいると、世界が明るくなるじゃん!!」
その言葉に、
全員が一瞬だけ黙った。
そして。
茂「……まぁ、悪くねぇ」
元気「確かに明るいしな!!」
南「……認めるの悔しいけど、分かる」
千夏「うん……私もそう思う」
みんな笑った。
自然と僕も笑った。
こうして――
六人は『六人(一緒)』になった。
真夏、千夏、南、茂、元気、そして僕。
この夏の始まり、
この出会いが、
これからのすべてを決定づけるなんて。
まだ誰も知らなかった。
けれど確かに、
この日の空の青さは、
何かを暗示していた。
六人の日々が、
眩しくて、愛しくて、
そしてあまりにも壊れやすいものだということを。
僕たちはまだ知らなかった
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