TRPG馬鹿野郎

天野

【遊びでやってんじゃないんだよ!!】

「イヒヒヒヒヒヒ!!」


 ――人にとって、楽しい時とはどんな時だろうか?


 人の喜ぶ顔を見る時?好きなことをした時?自分の趣味をした時?


 いいや違う!!!それは!!


「これで、苦しんでくれるはずだ!なんてモノを作り出したんだ俺は!!ケケケッ!!」


 楽しい時――それは『人に苦しむことを考える時』だと、狂介きょうすけは今考え付いた。


「ああわかってる!苦しませるだけじゃない!!その後の幸福のための苦しみだ!!

 だが、その前に一度ぐらいは絶望に落とさないとなああああ!!」


 椅子に座りながら狂介はキーボードを激しく叩き、パソコンにドンドンと自身のアイディアを具現化させていく。


「クカカカキキキッ!!!」

 

 『傑作ができる』という確かな手ごたえから溢れ出す多様なホルモン。


 アドレナリン。

 ドーパミン。

 セロトニン。

 β-エンドルフィン。


 狂介の頭の中では様々な成分が、TRPGのシナリオという【物語】を作るため、駆け巡っていた。


「ぬ?電話か?」


 そんな絶頂期に、いきなりの電話。


 電話してきたのは、シナリオを発表し合おうと言った相手――平次へいじだ。


「ちっ、こんな時によぉ!電話するんじゃねぇぞ平次!」


「何で怒られてるの俺?」


 絶頂期を迎えテンションが最高潮に達していた狂介に、ドン引きながらもツッコミを入れる平次。


「で?どうだ進捗は?その様子じゃ結構進んだんだろ?」


「余裕よ余裕。もう100%ほどできたと言って差し支えない」


 頭の中では100%できている。


 だが、実際の進捗具合は甘く見積もっても50%ほど。


 ハイテンションになっていた狂介の口先は暴走していた。


「100%ってことは完成ってことか。じゃあ2日後に間に合うな」


「……2日後?なんかあったか?」


「はぁ?シナリオ回すって言っただろ、オンラインで。メンバーも集めたし、ハンドアウトも公開した。お前、GMするって言ったよな?」


(そんなこと言った覚えないんだが)


 全く心当たりがない狂介。GMの準備も全くできていない。


「あー……忘れてたわ。まぁ準備ぐらいちょちょいのチョイよ」


 2日もあるのだ。準備自体はどうにでもなる。


 ただ、一つ問題があるとすれば――


(これ、シナリオの完成しないな)


 肝心のシナリオが全く完成できる気がしないというだけだ。


(ハハッ、これあれだ。半分ぐらいはシナリオなしで回さなきゃいけないやつだ!!)


「おーい。狂介大丈夫かー?」


 問題が見つかり、現実逃避のために自分の世界に入っていた狂介だったが、平次の声が彼を現実に戻す。


「とにかく2日後な。夜の21時からだからまだ調整とかの余裕はあるだろ。メールでキャラシートも送ってるはずだし、確認しとけよ」


「楽勝と言っても過言ではない」


「そっか。じゃあ楽しみにしてるよ」


 そうして平次との電話が切れる。


「………」


 静寂が訪れる。


 狂介の頭は空っぽになった。シナリオは、確実に間に合わないと分かってしまったからだ。


 その間に合わないシナリオを今から書き続けるよりも、GMをする準備に色々ついやした方が幾分かのリカバリーになることを、狂介は知ってしまっているからだ。


(どーしよ)


 さっきまでのテンションはどこへやら。


 何もかも絶望しきったような顔をして、何も考えが浮かばない狂介。


(待ってくれよ。俺、シナリオ考えたいんだよ。GMなんてしてる暇ないんだよ……)


 GMできるテンションじゃない。GMする気も起きない。


 どうすればいいか、分からずに椅子の背もたれに身体を預ける。


(……2日しかないジャン。……いや、2日もあるのか?)


 そこから産まれる逆転の発想。狂気の一手。


「これからシナリオを書き切って、GMの準備をする。2日あればいけるか?」


 いけるわけがない。


 先程自分で『2日でのシナリオの完成は無理』という結論に辿り着いたはずだというのに、彼は思いついた狂気に任せてキーボードをたたき始める。


「『無理は嘘つきの言葉だ』。今わかりました。宇宙の心は彼だったんですね」


 自分でも理解していない狂気の言葉を吐き捨てて、狂介は進む。



 ~2日後午前10時~


「無理です。シナリオ間に合いません」


 涙を流しながら、机に突っ伏した狂介。


 シナリオは何とか70%ほどは完成したが、まだ荒もあり、完全な完成には程遠い出来。


「……どーしよ」


 1日だけ徹夜して作業を頑張ってみたが、思うように進まず、結局このザマ。


 仕方がないと、現状を報告するために平次に連絡してみると、平次はすぐに出てくれた。


「もしもしー平次―?」


「どうした狂介?今日だろ?」


「あー、あのさー」


「うん?」


「シナリオ完成しなかったわ」


「……え?100%できたとか言ってなかったか?」


「頭の中ではできてたんだ。頭の中では」


「お前!馬鹿野郎!!!」


 まさかのウソに、狂介の言葉を信じていた平次は激高する。


「いやー2日間の間に完成させようって思ったんだよー。何とか徹夜してサー、70%完成したんだよ?俺スゴイ。マジスゴイ」


「狂介」


「うん」


「70%できてるってことは、GMできるな?」


「……え?準備ほったらかしてて、何にもやってないんだけど俺」


「逃げる気か?」


「いやいやいや!シナリオもできてないし!」


「狂介。お前は嘘を付いたな」


「いや、それは悪いと思ってるけどさ……」


「だったら、嘘を付いた責任を取らないと」


「無理だって……」


「『無理は嘘つきの言葉だ』ぞ。狂介」


 その言葉に狂介は、ゾクリとした。


 2日前の自分に首元を掴まれた気分だ。


「………」


「皆待ってるんだ。分かるな?狂介」


「あ、ああ」


 更に言葉というナイフが首に突き付けられ、狂介は頷くしかなかった。


「大丈夫だ狂介。後11時間もある。なんとかなるよ」


 そうして、平次は一方的に電話を切った。


「……ま、マジで?やるの俺?」


 決まってしまった出来事にそう呟く狂介だったが、答えてくれる人はいない。


 ――後11時間。


 準備は正直言えば、他のものを使いまわせればできる。


 TRPGのプレイ素材というのは大体が使いまわし可能なモノであり、それを転用し、応用すればなんとかなる。


「え?でも、できるの?」


(このシナリオで?荒が滅茶苦茶ある70%シナリオだよ?)


 でも――やらなくてはいけない。


「ああ!!もうやればいいんだろ!!」


 半ばヤケになった状態で、準備を始める狂介。

 

(クッソ!!どうなっても知らないからな!!滅びろ平次!!地獄に落としてやる!!)


 こんな状態でシナリオをやれと言われたこの屈辱!


 その衝動を平次に叩き込むように、狂介は作業を進める。


 準備を手っ取り早く終わらせると、狂介はシナリオの推敲すいこうと共に足りないモノを次々と埋めていった。



 ~シナリオ終了後~


「ありがとうございましたー」


 パソコンの前、シナリオを完走して、狂介はニッコニッコだった。


 回してみればある程度はアドリブで何とかなったし、シナリオの評判も良かったからだ。


「ヒャハハハハ!!分かったか平次。これが俺のシナリオよ」


「あーうん。すごかった。なんだこれお前すごすぎるだろ」


 実際体験した平次も、狂介をたたえてくれている。


(つまりは俺が勝利したってことだよなぁ。ハッハッハッ!!)


「勝ったな。第三部完」


「じゃあ後は……」


「うん?」


 何故か、これ以上の平次の言葉を聞きたくなくなる狂介。


 言わないでくれ。頼む今は疲れてるんだ。そう狂介は切に願う。


 だが、平次は無慈悲に伝える。


「――100%完成させるだけだな」


 キュッと胸が締め付けられる一言。


「……俺が回せたんだから、もうよくない?」


 疲れ果てた身体から弱音がこぼれる。


「ダメデス」


「なんでだよおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 『まだ頑張らなければいけない』。


 そんな強迫観念きょうはくかんねんが狂介を叫ばせる。


「あーーーくそッ!!滅茶苦茶頑張ったのになぁ!!」


 それでも、そう簡単にシナリオ作りは終わらない。


 今回シナリオをやって荒があるところも見えてしまった。


 『良い』と思っていた場所にも、更なる修正が必要だ。


「平次ーこれ、しばらく終わらないんだけどーーーー!!」


「頑張れ狂介。シナリオ作りなんて、こんなもんだ」


 だが、頑張るしかない。


 自分の他の『誰か』がその『シナリオ』をできるように。


「俺のシナリオは、最高なんだああああああああああ!!!」


「ああ、だから、速く書き上げような?」


「ああああああああああああああああ!?」


 現実逃避をしようとする狂介に、平次の鋭いツッコミが的確に急所を刺す。


 こうして、狂介は身を削ってシナリオを書き上げる日々を送るのだった。

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