【第二十七章:最悪のランチタイム】
互いに敵意がないことが確認できたので、俺たちは休息を取ることにした。 場所は廃ビルの空中庭園の下。視界が開けており、遮蔽物もある、悪くない仮拠点だ。
魔王に詳細を説明しながら、「昼食」を摂ることにした。
昼食といっても、分隊員に残された数本の激甘栄養バーと圧縮食料だ。 彼女たち五人はとっくにこの味に慣れており、機械的に咀嚼してカロリーを摂取している。
魔王様は、手の中にある茶色くてネチャネチャした棒状の物体を凝視していた。 おそるおそる、一口かじる。
「……うぐっ」
彼は残りの半分をそっと膝の上に置き、二度と触れないという意思表示をした。
隣のネフヤは全く気にしていない。 空気中に充満する魔王由来の高濃度魔力のおかげで、彼女は完全に活力を取り戻していた。栄養バーを両手で持ち、リスのようにカリカリと齧りながら、幸せそうな顔をしている。
正直、俺は最初から最後まで何もしていない。ただ道案内をして、映画のような戦闘シーンを眺めていただけだ。 現実感がない。
魔王はため息をつき、嫌そうながらも何とかその物体を飲み込んだ。
「なら、私が転送してやるよ。どうせここにいてもやることないし、透明化してついていくわ……何か手がかりが見つかるかもしれんしな」
彼は手をパンと叩き、まるで「タクシー呼んでやるよ」くらいの気軽さで言った。
「ふぐっ……!? か、感謝します……! 準備でき次第出発します」
蜂鳥が食べかけの口を押さえて命令を下した。
分隊の五人は装備を外し、残弾を確認し、最後の移動準備を始めた。 俺と魔王、男二人は自然と、さっきT-73を倒した通りに出て、外周警戒に当たることになった(彼がいれば警戒など不要な気もするが)。
魔王はポケットに手を突っ込み、俺を見た。
「へぇ、お前もこっちの世界の人間なのか? どおりで私やネフヤを知らないわけだ」
「ああ……」
俺は周囲の瓦礫を見渡した。
「でも、俺もここの地理には詳しくないんだ……」
「ふーん……」
魔王は空を見上げた。厚い雲に覆われ、永遠に陽が差さない灰色の空を。
「ここは息が詰まるな。向こうとは全然違う。ま、久しぶりにゆっくりでき――ん?」
彼は突然動きを止め、腹の底から絞り出したような驚愕の声を上げた。
「……?」
俺は急に固まった彼を見て、嫌な予感がした。 魔王の顔色が、さっきまでの気だるげなものから、驚愕へ、そして絶望へと変わっていく。
「私の……幹部の……しかも一番頭の痛い奴の気配がする……。一番イカれてて、一番落ち着きのない、あの……」
彼は目を閉じた。
「終わった。あいつまでこっちに来てたら、マジで世界が終わる……」
彼は口元を押さえ、深くうなだれた。吐き気を催しているようだ。 俺はまだ状況が飲み込めていないが――。
ドォォォォォン!!!!
数キロ先で、天地を揺るがす爆発音が轟いた。 そして、その爆音が移動し始めた。
ドォン! ドォン! ドォン!
何かが直線距離で、建物を無視してこちらへ「破壊」しながら突っ込んでくる音だ。
「やっぱりあいつだ……嘘だろ……」
魔王は頭を抱えてしゃがみ込み、悲鳴を上げた。
「ヤウスの奴ら何やってんだよ……なんで見張ってなかったんだよぉ……」
爆発音が近づいてくる。 瓦礫が崩れる音と共に、甲高い、興奮した笑い声が聞こえてくる。
ネフヤも異変に気づき、中庭から走ってきた。
「魔王様魔王様!! これって……」
だが、魔王の死にそうな顔を見て、彼女は察して口をつぐんだ。 音はどんどん近づいてくる。 真っ直ぐ、俺たちの方へ。
「どうしよう……」
魔王が絶望的に呟く。
ズドォォォォン————!!
目の前の廃ビルの低層階が、突如として内側から爆発した。 支えを失ったビルが一瞬で崩落し、猛烈な土煙が舞い上がる。
その
赤髪の少女だった。 ネフヤより少し年上に見えるが、蚊よりは小さい。体中に得体の知れない装飾品をジャラジャラとぶら下げ、風に鳴らしている。
「やっほー! まさか魔王様がこんな面白そうな場所にいるなんて!」
少女は腰に手を当て、よく通る声で叫んだ。 魔王は今にも泣きそうだった。 俺は、あの機甲を一撃で葬った最強の男が、今やダンゴムシのように丸まっているのを見た。 どうする? 慰めるべきか?
ネフヤは少女を見て、姿勢を正して微笑んだが、言葉は発しなかった。
「あーっ!! ひどーい!! ネフヤだけ連れてってズルい! 私には連絡もなしかよー!!」
赤髪の少女が頬を膨らませた。 突然、背後でへし折れたビルから巨大な瓦礫が落下し、少女の頭上へと迫った。 少女は振り返りもせず、近くにあった
カッ!
街灯が弾け飛び、その破片が散弾となって落下する瓦礫を空中で粉砕した。 爆炎が彼女の興奮した顔を照らす。
「わはははは!! そこら中魔王様の魔力だらけじゃん! 出し過ぎだってば!」
「お前……なんで……なんでこっちに来ちゃったんだよぉ……」
魔王が顔を上げ、重病人のような声で言った。
「だって魔王様! 私が軍に入ったのは、世界一可愛い飾りを見つけるためでしょ!」
赤髪の少女はケラケラ笑いながらこちらへ走ってくる。
「こんな場所があるなら、面白いオモチャがないか探しに来るに決まってるじゃん! あ、ついでに魔王様の捜索もね!」
その時、蜂鳥たちが荷物をまとめてビルから出てきた。
「準備完了です、今の爆発音は……?」
蜂鳥の言葉が途中で止まった。
通りでは、ネフヤが大人びた態度で、うずくまって半泣きの魔王を慰めている。 そしてその向かい側には、盛大に爆破されて大穴の空いたビルを背に、満面の笑みで手を振っている赤髪の少女が立っていた。
この部隊の「カオス指数」が、この瞬間、測定不能の領域へと突入した。
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