第2話 教えて!大塚さん
翌日、パパは隣の101号室に住む大塚さんを訪ねていた。
大塚さんは一人暮らしの老婦人で、とても親切な人だ。
天野さんちにとって、地球での生活についていろいろ教えてくれるので、とても頼りになる存在だった。
「……そうですか。咲良ちゃん、七五三なんですね」
パパにお茶を出しながら、大塚さんが柔らかく微笑んだ。
「そうなんです。それで大塚さんにアドバイスが頂きたくて。私も妻も不慣れなもので、普通の七五三はどうすれば良いのかと、考えあぐねてしまって」
「こうした行事は地域で違いがありますものね。お気持ち、分かりますよ」
大塚さんは何度も頷いて、パパに理解を示してくれる。
この地域差が、銀河の果てまでだとは、知る由もないだろうが……。
「この辺りでは、七五三のお子さんがご近所にご挨拶に行くんです。その時に千歳飴をお配りするんですよ。飴は商店街の『うぐいす屋』さんという和菓子屋さんで調えてもらえます。お参りは……」
大塚さんが教えてくれることを、パパは「ふんふん」と聞きながらメモにとって行く。
「お写真は『
パパは手を止めて、「はぁ〜」とため息をついた。
「それがですねぇ、咲良は手持ちのワンピースでいいって言うんですよ。私はぜひとも和装をして欲しいんですけど、『嫌だっ!』って突っぱねられてしまいましてねぇ……」
上官命令で却下されてるとは言えないけど……。
「せっかくだから、娘の振袖姿を見たいと思ったんですけど……当の咲良が嫌だと言うんじゃあ、諦めるしか無いですし……」
口に出してみたものの、やっぱり諦めがつかないことで、パパはがっくりとうなだれてしまう。
「天野さん、このあとお時間ありますか? 御徒さんへ撮影の予約をしに行きましょう、咲良ちゃんも一緒に」
ふいに、向かい合わせに座っていた大塚さんが、パパの方へと前のめりになった。
「咲良も、ですか?」
「はい。アルバムは種類がいくつかあるので、咲良ちゃんにも選んでもらえば良いかと思うんです。ね、ね、そうしましょう?」
普段は控えめな大塚さんにしては、めずらしく押しが強い。
パパは押されるがままに「はい」と返事をした。
「わたしの行事なのだから、わたしが行く必要があるのだろう」
意外とすんなり、咲良は一緒に行くことを了承した。
大塚さんへの信頼度の高さからだろう。
銀河ハイツの入口で待っていた大塚さんは、どこかへ電話をかけていた。
「……そう、そうなのよ。だからね……」
大塚さんはパパたちに気がついて、「ああ、それじゃあ、また」と、電話を切った。
「ごめんなさいね、さあ行きましょうか」
ニコッと笑った大塚さんは、咲良と手をつなぐ。
そして「駅前商店街」へ向かって歩いて行った。
駅前商店街はアーケード街だ。
昔ながらの個人商店が、ずらりと軒を連ねている。
そのなかほど、美容室の隣に「御徒写真館」があった。
咲良の同級生、
少々古ぼけてはいたが、風情のある写真館のショーウィンドウには、額に入った写真がいくつか飾られている。
ドアを開けると店内にチャイムが鳴り渡って、奥から初老の男性が笑顔で出てきた。
「いらっしゃい、大塚さんから連絡を頂いてますよ、七五三のお写真でしたね。私がカメラマンの御徒です」
どうやら、先ほどの電話で、写真館に話を通してくれていたらしい。
「天野です。それと、娘の咲良です。よろしくお願いします」
パパが頭を下げると、
「咲良ちゃん、七五三おめでとう。良い写真にしようね」
御徒さんは、咲良の目線に合わせるように背中を曲げてくれた。
「お子さんがご一緒で良かったです。できるだけ事前に、撮影スタジオを見てもらっているんですよ。当日の緊張が少なくなりますからね」
言いながら御徒さんは、パパたちを奥へと案内する。
撮影スタジオには、撮影用の機材やバックスクリーンが設置されているほか、小道具に使うのか、椅子やおもちゃなども置かれていた。
その一隅に、ずらりと七五三用の和装が並べられている。
「こんにちは、天野咲良ちゃんね。七五三おめでとうございます」
衣装の近くの引き戸が開いて、御徒さんと同じくらいの初老の女性が顔を出した。
つづく
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