天野さんちと七五三を祝おう
矢芝フルカ
第1話 七五三は誰だ!
天野さんのパパは、会社員だ。
11月のある日、同僚女子社員の高田さんが、お菓子を配っていた。
「あ、天野さん。これ実家のお土産です、よかったら」
パパの机の上に、お饅頭が置かれる。
「ありがとうございます。高田さん、ご実家に帰ってらしたんですか?」
「そうなんです、七五三でした」
「しちごさん?」
お饅頭の包み紙をさっそく剥きながら、パパは目を丸くした。
しちごさん?
しちごさん、って何者だ?
「姪っ子、姉の子のなんです」
言いながら、高田さんはスマホに指を滑らせる。
「こんな感じでした」
差し出された高田さんのスマホには、可愛らしい和服姿の女の子が写っていた。
「この子がしちごさん、ですか?」
「はい、これでも3歳なんです。大きいって、よく言われるんですよ〜」
次の写真は、大人たちが和服の女の子を囲んでいる。写り込んでいる座卓には、たくさんのご馳走が並んでいた。
それにしても、着飾った女の子がとても可愛らしくて、パパは心を奪われる。
「しちごさん、本当に可愛いですねぇ〜」
「……そういえば、お嬢さんの
「へ?」
またまたパパは目を丸くする。
高田さんの姪っ子のしちごさんと、うちの咲良と、何か関わりがあるのだろうか?
「咲良ちゃんの七五三、きっと可愛らしいでしょうね」
高田さんがニッコリ笑った。
これは……マズイですね。
お饅頭は美味しいですけど。
残りを口に押し込んで、パパはさっそく、自分のスマホで検索を始めた。
「大佐! 七五三をしましょう!」
その夜、銀河ハイツに帰ってきたパパの第一声に、咲良はキョトンとした顔を返した。
「藪から棒に何を言うのだ、中尉」
「地球では『七五三』という子供の成長を祝う行事があるのです! これは我々の諜報活動の一環として、早急に執り行う必要があります!」
パパはスマホで「七五三」についての画像を見せながら、熱を込めて訴えた。
「見て下さい、7歳の七五三です。和装がとても可愛らしいでしょう?」
「ああ、綺麗な衣装だな」
振り袖姿の女の子が笑顔をむけている画像に、咲良も感心しているようだ。
「ですよねぇ。咲良にもきっと、似合うと思うんですよ」
「…………ちょっと待て。わたしが似合うとはどういうことだ?」
「この衣装を着て、神社にお参りするんです。女の子は3歳と7歳、男の子は5歳。幸いうちには7歳の女の子がいますから……」
「7歳の女の子とは、わたしのことか!?」
「他に誰がいるんですか?」
途端、咲良は真っ赤な顔をして首をブンブン振った。
「な、何を言うか! わたしはこんな格好しないぞ!」
「これが普通の七五三なんですよ! この姿で無いと、七五三はできません! 正しい諜報活動に必要不可欠なものなんです!!」
パパも決して譲らない。
「むぅ」、と口を曲げた咲良だが、すぐにママに振り返って
「ママ! 七五三についてデータ解析。本当にあの衣装でないと決行できないのかを即時回答せよ!」
と、命じた。
パパが「チッ」と心の中で舌打ちしたが、もう遅い。
「回答します。七五三に服装の規定はありません。神社への礼節に欠けない服装であれば、問題ありません」
ママの迅速な回答に、咲良は勝ち誇った笑みをパパへと向けた。
「結論は出た。わたしにあの衣装を着る義務は無い」
「……ですが!」
「反論は認めない! それとも中尉、君はママの回答に異を唱えると言うのかね? 他ならぬ君が、ママの能力を否定するのかね?」
それを言われると痛い。
「ママ、悲しい」
ママにそれを言われると、胃が痛い。
パパは膝の上で「グッ」と拳を握り締めて、下を向いた。
「……パパは、咲良にきれいな着物を着てほしいんだ。咲良の振袖姿を見たいんだよ……」
哀切を込めて、弱々しい声でつぶやく。
「却下!」
なのに、咲良にバッサリ切り捨てられる。
「咲良ぁ〜」
「くどい! 上官命令である!」
伝家の宝刀、最終兵器。
これを出されてしまっては、もう何も言い返せない。
唇を噛み締めて、命令を飲み込むパパの肩を、咲良がポンと叩いた。
「気を落とすな、中尉。何も七五三をやらないと言っているのでは無い。わたしはワンピースを持っている。それで七五三に参戦しよう。いいな」
けれどパパは、どうしても「了解」することができない。
台所で、おにぎりを握りつつ「我関せず」を通していた大雅が、「……はぁ」と小さくため息をついた。
銀河ハイツ102号室に住む天野さんちは、会社員のパパ、専業主婦のママ、中学2年の大雅兄ちゃん、小学2年の咲良の、どこにでもある4人家族。
しかし彼らの本当の姿は、地球侵略をもくろむ宇宙生命体なのだ。
地球人に擬態して、地球のあらゆる情報を収集している諜報部隊、大佐(咲良)、中尉(パパ)、軍曹(大雅)、ママ、である。
彼らは地球人に察知されないよう、「普通の家族」擬態することに、全力を傾けている。
天野さんちの秘密を、地球人は誰も知らない。
つづく
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