死ぬまでの暇つぶし

茜雫桂香

第1話

人生は、突然始まり突然終わる。

終わりはいつ来るのか、予約制だったらいいのに…


そしたら、死ぬまでに自分のやりたいことを計画して動き出せると思うし

何より、死ぬまでの準備ができると思うんだ。


それに、大切な家族が死んでしまう事を前に知れたら、

心が張り裂ける痛みも、涙が枯れるまでの悲しみも

生きる力を失うことも…きっと無くなると思う。


予約制なら、大切な人が死ぬ、その日を一緒に予約することだってできる。



36歳の誕生日

まだ30代か…と一切れのショートケーキにロウソクを1本刺してライターで火をつける。ついでにラッキーストライクの箱から1本煙草を出して、火をつける。


「誕生日おめでとう私」


抑揚がない自分の声が、6畳の部屋に響く。




▽▼▽▼▽▼




「磯ヶ谷先生お誕生日おめでとうございます!!」


「あーありがとうございます」


担当編集者の小野さん28歳にして、 明るく太陽のような人になってほしいと願われつけられた名前 光汰(こうた)。その名に相応しい元気で明るくて、私には眩しい。


朝10時に電話がきた事に、若干の苛立ちを覚えつつ、耳に突き抜ける明るい声で誕生日を祝われた。


「本日は、打ち合わせを予定しておりますが、弊社に13時で変更なくよろしいでしょうか」


「…はい、大丈夫です」


「承知しました、ではお待ちしております」


切れた携帯を、またベッドに放り出して、一旦シャワーを浴びようと浴室へ向かう。

頭から熱いシャワーを浴びて、寝たのは8時なので重い瞼と動いていない頭を起こす。髪を乾かして、気持ち程度のオールインワンジェルを顔に塗る。珈琲を入れ煙草に火をつける。


ー時間までなにしようかな…


考えながら無意識に立ち上がりっぱなしのパソコンを操作する。そして、自分が創り上げた物語の世界へと入っていく。


カタカタカタ


物語は良い。自分の今の人生を無視できる。生きなくて済む。創っている世界で私は神になれる。皆に愛されてる主人公をもっと勇敢な誠実者にできれば、弱虫の裏切り者にもできる。


ピピピピ


家を出る30分前のアラームが鳴る。現実世界に戻った私は適当な外着を着て黒ぶち眼鏡をかけて前髪で伸びきった眉毛を隠し、淡いピンクのマスクをして家を出た。



「お疲れ様です。磯ヶ谷先生、お待ちしてました」


元気よく純粋100%です。という笑顔を向けられて、ぺこりと軽く会釈する。


「お疲れ様です」


小会議室に通されて、今もっている連載の進捗具合と今書いているプロット内容を大まかに話す。


が、なんだか今日は、いつも笑顔100%の小野さんが、120%の笑顔を向けてくる。


ーこれは何かあったな


担当になって1年ほどだ、何となく分かってきた。この話が終わったら嬉しい報告でもあるんだろう。


「ー以上です」


小野さんは説明が終わると、さて!とバインダーの下に隠していた冊子を渡してきた。


「君の指、ドラマ化が決まりました!!」


ー笑顔の理由はこれか


「あーありがとうございます」


「相変わらず、そこまで興味はありませんかね」


少し困った笑みをみせる小野君に、私は首を横に振った。


「いえ、ありがたいことです。嬉しいです」


「良かったです、今回はドラマなので期間も長いですし先生にも少し協力をお願いしたいのですがー」


「あーと、今回も同様、私は制作には関わりません。契約内容に沿って収入が入れば問題ないです」


食い気味にお断りをするが、気まずそうに


「それが、今回の監督や脚本家の方がアドバイスや現場にきてほしと希望がありまして…」


ー珍しい…


前に映画化された時は、口出してほしくないオーラ全開の人達だった。もちろん最初から関わる気は微塵もなかったので、相手側からしたら扱いやすい存在だったと思う。簡単なご飯会が撮影前に1回、次に呼ばれたのは完成試写会だった。どちらも行くつもりはなかったが、小野さんの顔を立てねばと参加した。映画が公開する前日にSNSでの宣伝をお願いされたが、上手いこと小野さんが行ってくれたので、私は本当に2回顔を出しただけだ。


ー前回みたいな対応じゃ駄目なのかな


「あのーとても原作を大切に考えてくださる方達なのは、伝わったのですが、私が関わることはないです。なので小野さん上手く言っといてもらえません?」


「今回の監督は、あの鈴原監督でして…」


あぁなるほど、鈴原清(すずはら きよし)監督は色んな小説を映画、ドラマ化してきた人で、何より原作に忠実で、原作ファンを大切に考えていて世間から人気だ。


「…では、ご飯会の時に私から断りますので、前向きではないということだけ、やんわり伝えておいてください」


怒られた子犬のように、うなだれる小野さんには悪いが面倒ごとに巻き込まれたくない、今創っている物語の方が私は興味がある。


「あ、そうだ!ちょっと待ってってください」


あらかた話が終わり出る準備をしていると、パタパタと走って会議室を出て数分したら戻ってきた手には小さな箱を持っていた。


「これ、宜しければ食べてください。甘い物お好きでしたよね?」


一切れのショートケーキが入っていた。


「わざわざありがとうございます」


お礼を言って会社を出る。


ー甘い物好きだったっけ?小野さんマメな人だなぁ





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