EP10 イントゥ・ザ・サン ③ =作戦共有=

 ララ→ララが本気を出せば光の速さで移動する事も可能とのこと。・・・だが現在はエネルギーを過度に消失しており省エネモードで運行中。さらに光速を出せないワケもあり、今はあえてその速度を出さずに太陽を目指している。

 その理由はララ→ララを無きものにしようとする敵=刹那主義者の存在だ。



「この宇宙には当機を無きものにしようとする存在がたくさんいます。」

「それは当然だよ」

「六郎太も彼らの味方をするのですか?」


 手を取り宇宙を進む運命共同体の心中をララ→ララは問う。

 聞かなくても僕の考えていることなど分かっているはずなのに。以心伝心を可能とする計算機<カリキュレーター>と選択者<パイロット>の関係にあって僕らは自身の考えを確かめ合うために話を続ける。



 話をしてお互いの意志を確認し合う行為は人と人が相手を理解するうえで重要な事・・・、最後の地球人となった僕はそう考える。

 もしかするとテレパシーによる意思疎通が可能なララ→ララにとって、それはとても遠回りなやりとりなのかもしれない。



「彼らの視点で考えれば僕とララ→ララがやろうとしている事は、自分たちが住む星系の恒星を奪う行為だ。それは彼らにとっては恒星の簒奪以上に、その星系に住むすべての生命を殺す事と同義だ」

「ですがそれは宇宙の終焉を救う代償としてはとてもささやかな犠牲です。数億の犠牲で新たな宇宙に生命が萌芽するのです。そのためには必要な数と判断します」



 そうだこれが決定的な価値観の違いだ。

 宇宙を救うというララ→ララの使命に対して、一介の星系とそこに住む一介の惑星で暮らす命などあまりに少なく格安で、そしてあまりに軽すぎる犠牲だ。



「でもそうだとしても星系を滅ぼされる人たちの気持ちに立ってみれば、ララ→ララの行為は破壊以外の何物でもない。それは分かるだろう?」

「それは確かに六郎太の言う通りですが・・・」



 比較対象の重みが天文学的に違いすぎるあまり、宇宙を救うというララ→ララの行動は小さな惑星に住む生命にとって過激な思想を元にした破壊行為以外の何物でもないのだろう。



「大きな視点で見れば宇宙を救う行為が最優先されるべきです。」

「でもミクロな視点で見れば今ある命とその文明こそ最優先されるべきじゃないかな」


「・・・まったく、六郎太は刹那主義よりの思想を持つのですね」



 プクっと頬を膨らませララ→ララは不貞腐れる。

 この計算機は感情が実に表に出やすく精神年齢自体はお子様なのかもしれない。



「刹那主義?」

「刹那主義者は当機の敵です。」


 刹那主義者とは言い得て妙だし、ララ→ララの思考の大きさを端的に表している。



「刹那主義者ね。たしかに宇宙全体のタイムスケールに照らし合わせて考えればそうかもしれない」

「宇宙全体で見れば文明の栄華などたかだか数千年~数億年程度です。当機の観測とアーカイブした情報ではそれ以上文明が続いた記録はありません。そんな刹那的な物の為に宇宙の救済を阻むなどどうかしています」



 生まれが違えば価値観が違うという事の極端な例を前にしても存外僕は驚かない。なぜなら今や僕はそう言ってのける彼女の手をとり、全地球人類の生命を彼女に差し出したのだから。


「でも、その小さな生命の重みも理解しているからララ→ララは選択を僕に託したんだろう?」

「そ・・・そうではありますが・・・」



 そう、この計算機の少女は生命の尊厳を踏みにじるような選択を提示しつつもその選択の行使をためらい、僕にその選択肢を委ねているのだ。


 一面的に見ればそれはすべての選択の責任を丸投げしているように見えて、その実は命を選別する行動に踏みとどまり躊躇し少なからずその行動に罪悪感を感じているのだ。

 計算機<カリキュレーター>にも良心は存在する。ララ→ララが機械でなく生命体であることに100ポイント追加。



 天文学的な生命を救済するために小さな生命を犠牲にする、その判断と価値観のズレを理解し戸惑いながらもララ→ララは使命を果たそうとしていた。


「ララ→ララはキミが思っているよりもずっと命の事を大事に思っているんだね」


 そういって僕はララ→ララの頭を撫でてやる。思わぬ方向から褒められララ→ララは頬を赤らめる。


「な!?何をしているのですか?」

「地球では人を褒める時にはこうするんだよ、知らなかった?」

「し・・・知っているに決まっています。人類をプロファイルしたときにそれも学習しました」



 こうしてみればララ→ララは実に可愛い、年端もいかぬ少女であり見た目通りなら僕と同じぐらいの年齢なのだろう。

 といっても僕=波多野六郎太はまだ0歳児でララ→ララは見た目だけなら10歳前後の少女。しかし惑星間航行を可能とする異星人だ。見た目の年齢なんかきっとあてにならない。


「ところでララ→ララは歳はいくつなの?」

「その情報は秘匿項目に該当します」


 その言葉と同時にララ→ララから伝わるあらゆる思考情報の伝達が遮断される。



「どうして?僕たちは運命共同体でしょ?」

「乙女に歳を聞くなどデリカシーのない発言はどうかと思います。運命共同体にもプライベートは必要です。」


 ・・・これも地球人の思考を学習した弊害なのだろうか?

 とりあえずララ→ララの年齢は年齢<見た目通りの・・・>という事にしておこう。



 そんな他愛ない話をしながら当機らはようやく太陽へと到着した。

 と同時にララ→ララは僕の脳内に情報を送り込んでくる


 ≪太陽吸収と同時に光速移動による銀河間航行を開始します。同時に刹那主義者に情報を探知され戦闘になります≫



 いきなり脳内に直接とんでもない情報を送り込んできた。

 まったくこの計算機は・・・


「銀河間航行っていう事は他の宇宙を目指すっていう事?」

「その通りです」


「別の銀河ってアテはあるの?」

「目下の目標は遺伝情報と恒星の収集にあります。ミレニオン傘下の銀河では些か行動に支障があるので、まずはミレニオンの手の及ばない銀河への航行を提案します。」



 容易く提案される銀河間航行。しかしララ→ララが出来ると言えばきっとそれは訳もなく可能なのだろう。計算機<カリキュレーター>とはそういう存在だ。


 地球を離れて20と余時間。太陽の次は別の銀河への銀河間航行だという。まったく天文学的スケールはいつも人類の想像を容易く超えてくる。





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【Tips】

 銀河間航行


 文字通り銀河から別の銀河へ移動する行為。

 通常一等惑星文明でも膨大なエネルギーと航行時間を要するが、ララ→ララの質量運用能力をもってすれば隣の星系へ行く程度の間隔で銀河間航行が出来る。


 航行には恒星複数個分のエネルギーを必要とするがララ→ララは省エネ。

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