EP09 イントゥ・ザ・サン ② =使命共有=
「と・・・とにかくさララ→ララの事をもっと教えてよ」
「むぅ・・・なにやら情報を秘匿された気がします」
どうやらさきほどの事の一部は感づかれてしまったようだ。
「それでは何から話しましょう。何でもいいですよ、当機と六郎太の間に隠し事は無しですからね」
「そ、それじゃあ、ララ→ララはどうして旅をしているの?」
「この宇宙を救うためです」
そう、地球人類に選択をもちかけるときにも彼女はそう言っていた。
「それはあれかな宇宙はいずれ終焉を迎えるとかそういうヤツ?」
「地球人の研究でいうところの“熱的死の未来”ですね。それは半分正解半分不正解です」
と同時にララ→ララは僕に宇宙の熱的死の概念を頭に直接流し込んでくる。膨張し続ける宇宙がいずれその熱を失い、生物が住めなくなるという理論だ。ながらく地球でも学会でもその真偽が争点であった有名な学説で未だ結論は出ていない。だが、かくして計算機のお墨付きを得て熱的死理論はその確実性を証明されたことになる。
・・・直接脳内に情報を送り込んでくれるの、こういうとき助かるなぁ。
「熱的死は地球でもよく話し合われていたけど、他の宇宙でも同じ結論で証明されていたんだね」
「その通りです。この宇宙に存在する星団、惑星同盟、超銀河連合ミレニオンの研究者もこれが宇宙の終焉だと結論付けています。そしてほかならぬこの当機もその計算に至りました。」
「それでララ→ララ、半分正解で半分不正解というのは?」
「熱的死だけでは宇宙は死にません。」
「どういう事?」
「熱的な死だけでは宇宙が冷却され生物は死んでも宇宙は存在を続けます。」
いまいちララ→ララが言おうとしている事の本質が分からない。
「生命にとっては熱的な死が終焉だけど、宇宙にとってみればそれは終わりじゃないと?」
「そうです。しかしそれでは連綿とした生命の営みを続けられなくなるので宇宙の死と同義です。」
「────生命のゆりかごとしての宇宙の在り方が終わる。宇宙の死とは本質的には生命の営みが途絶える事です」
それは熱的な死と同じ意味なんじゃないか・・・、とも思ったがララ→ララが言いたいのはもっと哲学的な事らしい。
「その宇宙の営みをどうやって救おうとしているの?」
「当機が行おうとしている事は宇宙の種子たる遺伝情報を外宇宙へと送り出す事です」
この計算機はとんでもないことを言い出した。
自分の種を増やし後世に伝えていこうとするのは地球も宇宙も関係なくすべての生命の本能だ。
それをこの少女は宇宙規模でやろうとしているらしい。
「ララ→ララがやろうとしていることは分かった。でも外宇宙への脱出って実際にどうやってやるの?」
「・・・残念ながらその計算に必要なアーカイブが欠けています」
この計算機はまたとんでもないことを言い出した。
「確証もない事をやろうとしているの?計算機の癖に?」
「うるさいですね!アーカイブがと計算に必要な論拠がないので再計算はできないですが、外宇宙への脱出が可能なことは前に計算した時に出来ました!一度計算してやり方が分かったのできっとできる!」
この計算機は本当に大丈夫なんだろうか?
「万全な状態の当機であればこんな計算簡単に出来るんです。完璧な当機が計算してそれが唯一宇宙を救う手段だと計算した。なので間違いないのです!」
この計算機は粗を突かれると急に幼稚なしゃべり方になるなぁ。<情報遮断>
「分かった、分かったから。それでその計算に必要なアーカイブはどうして欠けちゃったの?」
「・・・この太陽系へやってくる前に超銀河連合ミレニオンと戦った時に奪われました」
珍しく自信なさげな言い方をする。
「超銀河連合ミレニオン?・・・それに、戦った?」
「はい。そうです」
「超銀河同盟ミレニオンっていうのは、国際連盟みたいなもの?」
「はい。この宇宙にはおよそ2兆の銀河がありそこには100𥝱の知的惑星文明がありますが、そのなかで星間・銀河間航行可能な10億の惑星が加盟する連合が超銀河同盟ミレニオンです。」
天文学的規模の数字が飛び出した。𥝱って事は億・・・兆・・・京・・・垓よりもさらに上の数字じゃないか。100𥝱の知的惑星文明、そんな数の文明がこの宇宙にはあるのか。
「へ・・・へぇ、そんなものがあったんだ。」
「はい。ですが4等惑星の地球人では知り得ぬ事実です。」
4等惑星・・・。この広い宇宙の中では地球文明なんてまだまだ下等だという事か。
「それでララ→ララはそのミレニオンと戦ったと?」
「はい。そして負けました。」
────それはつまりララ→ララはこの宇宙の多く・・・、少なくとも銀河を敵に回したっていう事じゃないか?
「ですが当機が外宇宙へ種子を運ぶためには、種子の遺伝情報と膨大なエネルギーの両方が必要です。」
「それで恒星のエネルギーとその周囲の惑星に住む生命の命をもらおうとしたら返り討ちにあったと?」
「当機のアーカイブを読んだのですか!?」
そんなこと少し考えれば誰にでも分かる、つまりこの計算機は真面目で馬鹿正直なのだ。<情報遮断>
「そのときに奪われたエネルギーとアーカイブには宇宙を救うやり方や当機が判断するのに必要な論拠たる情報が書かれていました。そしてその論拠の中には当機自身の出自と出生情報も含まれています。だから・・・」
「だからその手伝いを地球人の僕にしてほしい。そういう事?」
「・・・はい。今の当機には計算して判断することは出来ても、選択することは出来ないから・・・」
判断と選択、似たように聞こえる言葉だがそこには大きな違いがあるらしい。
ララ→ララが行えるのは計算して物事の未来を予測推測し行動をすること。それが判断。しかしそれでは機械的な良し悪しは判断できてもそれ以上のことは選べない。
対して僕=選択者<パイロット>に求められている選択は良し悪しを超越し、自分の手で未来を選び取ること。
先の地球人類の生命を奪う時に全世界へ発した選択もそうだ。
つまりこういう事だ。宇宙を救うためには地球人の遺伝情報と価値観が必要だが、彼女にはそれを選択するためのあと一押しが足りない。宇宙を救うという使命感はあってもそれを実行し痛みを伴う選択をできずにいる。
ララ→ララは機械ではないが選択ができない。
選択をするのに必要なアーカイブと論拠は、超銀河連合ミレニオンとの争いで奪われてしまった。
そしてそのときに奪われてしまった論拠の中にはララ→ララの記憶ともいえる出生情報も入っている。例え大きな使命と志を持っていても、自分の出生すら知らない少女に宇宙の命運をかける選択なんて出来るわけない、・・・と地球人代表の僕は思ったりもする。
ララ→ララに欠けている部分を補うのが選択者である<パイロット>の役割。もしララ→ララが失われたアーカイブと論拠を取り戻し、宇宙を救うための正確な方法とそれを行うための選択をする決定権を取り戻したら、そのとき僕は不要になるのだろうか?
いずれにせよ目下の急務はララ→ララが外宇宙へ脱出するためのエネルギーの獲得と種子の遺伝情報の収集だ。さながらララ→ララはこの宇宙にとってのノアの箱舟といったところだ。
「それでララ→ララ、その遺伝情報を外宇宙へと送り出すために必要な遺伝情報と膨大なエネルギーっていうのはどれぐらい必要なの?」
「はい、1~5等惑星文明10億個分の遺伝情報と恒星千個分のエネルギーが最低限必要な分量になります。」
・・・気が遠くなりそうになる天文学的な数である。
「そ・・・それをこれから集めるの?」
「はい!二人で一緒に集めましょう六郎太!」
天文学的な数字には天文学的な努力が必要となる事だけは分かった。
そしてそのための第一歩は太陽系の中心部にある恒星=太陽のエネルギーを吸収し太陽系外を目指すことらしい。
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【Tips】
計算機<カリキュレーター>ララ→ララ ③
外宇宙に生命の遺伝情報を送り出すのがララ→ララの使命。
そのためのアーカイブと論拠は超銀河同盟ミレニオンとの戦いで消失。
必要なものは1~5等惑星文明10億個分の遺伝情報と恒星1千個分のエネルギー。
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