EP07 こんにちは赤ちゃん

「────わかった。全地球人類の命をキミにあげよう。」


その宣言をしてすぐ、地球は滅亡を始めた。



「それでは・・・」


とララララがヒラリと手で宙をなでると僕らは宇宙にいた。

先ほどまで住み馴染んだ街。どこにでもあるような学校のよくある教室の中ではない。

よくある宇宙空間に僕らはいた。



見回すと良く見知った地球が眼下にある。

僕の知っている地球との大きな違いは、その球体を射抜くようにして大きな穴が穿たれている事だけだ。

穴からは灼熱の溶岩とマントルが良く見え地球の内部構造がよく分かる。そしてそのよく見知った地表は赤い霧で覆われている。



やっぱり本当に地球は滅亡するんだ・・・。

その事実を前に僕は不思議と冷静だった。



僕の隣に立つ・・・この場合並ぶと言うのが正解なのだろうか?

僕の隣に並ぶのは隕石の少女ララ→ララだ。


気付けば僕はララ→ララと手を結んでいた。いつから結んでいたのだろう、すこし気恥ずかしい。

その視線に気づいたのかララ→ララは言う。


「手を通じてあなたに酸素やエネルギーを共有し生命活動を維持しています。まだ同化が不完全なのでこの手は離さないでください。」



理屈は全く分からないが、この手を放したら僕は死ぬらしい。


そりゃあそうか、だってここは宇宙空間なのだから。酸素だけじゃない。有害な宇宙放射線や極低温の環境など、そもそも宇宙は人類に優しい場所ではない。


僕たち人類は地球という殻に守られているのだ、そして僕はそこを飛び出し今宇宙にいる。いまや地球は滅亡寸前、僕を守ってくれるのはララ→ララただ一人。


その手を取るという重みをあらためて実感する。



僕の不安を察したのかララ→ララが微笑む。


「それではこれから全人類の生命を奪い当機の力と変えます。」



やっぱり異星人だなララ→ララは、そんな恐ろしいセリフを臆することなく言いのけてしまうんだから。


ララ→ララの言葉に続き地表を覆う赤い霧が蠢き始める。

衛星軌道から見るそれはまるでスライムのようにゆっくりとしていて、その実台風のような速度で人類の生命を奪っていく。



宇宙から見るだけでは地球の終わりの実感が薄いかもしれない。このとき地表ではいったい何が起こっているかと言うと。


世界中を覆っていた赤い霧は、艶めかしく震え蠢きだし瞬く間にその見た目を赤いゲル状の物体に姿を変えていた。ゲルというしかないその見た目は、グツグツと煮えたぎる溶岩のように沸騰し、この世のありとあらゆる生命をドロドロと溶かしてゆく。


ドロドロとした溶岩のような赤いゲルが台風のような速度で人類を飲み込んでいくのだ。その光景はきっと地獄の様相だっただろう。

人間を溶かし吸収した赤い霧はその密度を増す様に蒸気を噴出する。その蒸気がまた赤い霧となり、地表を包む赤の濃度はさらに増していく。


赤いゲルはすべての人類を残さず吸収してゆく。それはまるで生き物のように有機的な動きで近くにいるすべての生き物・・・人間を飲み込んでゆく。



ララ→ララが合図してからものの1分もせず地球人類はみな赤い霧に飲み込まれ、地表を覆う赤い霧はまるで血を吸ったかのようにその色を深い真紅色に変えていた・・・ように僕の目には映った。



「────全人類の生命の吸収が完了しました。」


相変わらずララ→ララは罪悪感の欠片もないような表情で報告を告げる。

ララ→ララの言葉を合図に地表を覆っていた赤い霧は衛星軌道へと離脱をはじめ、僕らの方へと集まりだす。


なるほど、これが全人類の生命を力に変えるという事か。

赤い霧はまるで太陽フレアのように地表から立ち上る。一つの惑星の、一つの種族の終焉としては実に鮮やかで息を吞む光景だ。


これが隕石の少女ララ→ララの力、そして僕の責任。




「────そういえば、六郎田の誕生のお祝いがまだでしたね」

「え?」


人類の終わりを前にしてずいぶん場違いな発言に僕は驚く。



「地球人の思考を解析して知りました。地球人は生命が生まれた時にお祝いするのでしょう?」

「・・・確かにそうだけど」



僕は経験上は17歳の知識と記憶を有しているが、実際に生まれたのは72時間前だ。

生まれた瞬間僕の両親は祝ってくれたのだろうか?そして僕の誕生した瞬間に地球に隕石=ララ→ララが衝突。お祝いなんかする余裕ないよな。



「────六郎太は祝福されて生まれてきましたよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


きょう何回目のえ?だろうか。



祝福されて生まれてきた。その言葉を喜ばない人類がいるだろうか?

ララ→ララは慈母のように優しい表情で教えてくれた。



『おめでとう六郎太。』


「それがあなたが生まれた瞬間、あなたの母親が言った言葉です。」


「・・・え?」


なんで?、言葉がすぐに出なかった。それよりも、何故という疑問よりも早く、僕の頬を熱い涙が伝う。

頭の中で17歳になるまでの両親との思い出がフラッシュバックする。それはララ→ララが見せたという促成人生計算によるまやかしの記憶。



「当機が地球に衝突して0.0000001秒後から地球で起こる全ての事象の観測を始めました」



ララ→ララが説明を始めるが言葉が頭に入って来ない。

さっきまで自分の存在の全てが嘘だと思って絶望していたのに、今はその嘘の記憶を思い出して涙を流す自分がいる。その原因はララ→ララが教えてくれた僕がはじめて聞いたという言葉。



記憶にはない、しかしその言葉は紛れもなく真実だろう。ララ→ララは嘘をつく少女ではない、それは彼女とのこれまでのやり取りで確信している。



「六郎太はきっと愛されて生まれてきました。もしお望みであればその時の映像をプレビュー・・・」



その言葉はもう僕には聞こえていなかった。

地球滅亡と同時。その瞬間僕は自分が愛されて生まれてきたことを知れた喜びで年甲斐もなく大粒の涙を流していた。



────ハッピーバースデートゥーユー♪


宇宙に声が響く、それは僕の誕生を祝う優しい声。ひとりの人間の誕生を祝うのは決して天使などではなく、地球を滅亡させた張本人だ。そして祝われているのはそんな少女に全人類の命を差し出した人間。



「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー」


滅亡する地球への手向けに、そして僕とララ→ララの旅の始まりに


「ハッピーバースデー ディア 六郎太♪


僕は涙を拭き笑顔で祝うララ→ララに笑いかける。

歌の続きを思わず僕も口ずさむ。




────ハッピーバースデートゥーユー



地球の滅亡する宇宙にそんな祝福の詩が響き渡っていた。




P.S. 空気を呼んだのかララ→ララは僕が生まれたときの様子をプレビューすることはなかった。




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【Tips】

  計算機<カリキュレーター>ララ→ララ②


ララ→ララの使う赤い霧は情報解析・情報遮断の他、戦闘でも使用が可能。

赤い霧は生命を吸収解析し、そのコピーを即座に生成する。赤い霧もララ→ララと同様に亜光速で移動が可能。


地球衝突時の衝撃が比較的軽微だったのは赤い霧が衝撃を吸収したおかげ。

そうしなければララ→ララと” もう一つの隕石”が衝突した瞬間に地球は爆発四散していた。

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