義男くんの巨大ロボット

魔山十銭

義男くんの巨大ロボット

 今年は暖冬という事で初雪も年末になろうとも降らずにいた。思えば数年前から異常気象が続き夏が長く〝初夏〟に〝夏〟から〝真夏〟を経て〝残暑〟に〝晩夏〟になりいきなり寒くなっていた。しかし、その寒さも極端に寒いかぬるいかだ。そして、クリスマスは雨の夜となった。

 幼い息子はリビングのクリスマスツリーにてるてる坊主を飾り始めた。

「何をしてるんだ」

「だってパパ。サンタさんびしょぬれになっちゃうでしょ」

「サンタさんは魔法が使えるわ、きっと」

 キッチンでディナーを用意していた妻が苦笑いをする。ダイニングにターキーレッグにホワイトシチュー、いちごのホールケーキが並び私たちは食べ始める。

 食後に私が息子を風呂に入れると彼は途端に眠たくなったようで子供部屋へ向かった。

 大人二人でワインを傾けつつ妻が用意してあった包装されたプレゼントを見せてきた。

「あの子が今、夢中になってるアニメのロボットよ」

「済まんね」

 ベッドの横で妻が寝静まった頃に私は少年時代を思い出していた。


   ◇   ◇   ◇


 小学校高学年の春に義男くんという転校生がやって来た。背は低く擦り切れたジーンズにぶかぶかのスカジャン、険しい眼付きに丸坊主の如何にも生意気そうな男子だった。

 転校生と言えばちやほやとされるものだったが、担任教師の紹介の後、義男くんは大声でこう言い放った。

「オレは誰とも仲良ぉせえへんからな。オマエら全員子分や!」

 呆気にとられる教室の全員を余所に義男くんはずかずかと歩いて空いている席、私の隣に座った。そして、並びの悪い歯を見せて私に言った。

「オマエ、ええツラしとるやんけ。オレの子分一号にしたる」

 不本意であった。

 義男くんの父親は町の板金工場に勤めて、母親は居ないようだった。

 彼は見かけ程、荒れた子供という訳でもなかった。万引きをしたり、窓ガラスを割ったり、そんな悪行はしなかった。しかし、態度が兎にも角にも悪く人望がなかった。〝子分一号〟の私を見る度に「ついてこい」と言ってきた。

 断ることも出来た。事実、周りはまともに相手もしていなかったが私は素直についていった。私はお人好しであったのもありクラスのグループに属する事も少なかったのも影響したかも知れなかった。

 学校帰りに彼と父親が住む安アパートに向かう。箪笥と作業服と型落ちの冷蔵庫。風呂とトイレはなく共同か銭湯だったのだろう。義男くんが巾着袋に入った古銭を卓袱台に広げて見せてきた。

「これが、十銭……これは古い五円やな、ギザ十はあんなもん価値あれへんど、知っとったか」

 適当に相槌を打つ。古銭と言っても二束三文のものばかりだった。しかし、彼にとっては宝物だったのだろう。

 義男くんが笑う。

「他にもいろいろあったんやで、死んだばあちゃんがくれたのもあったんや。きんぴかの金貨もあったんやからな」

 今では何処迄が本当で、何処迄が嘘かは解らない。子供なりの虚勢を張っていたものかも知れなかった。

 古銭を仕舞うと義男くんがひそひそと声を潜めた。

「オマエだけに言うけどな、オレのお父ちゃんはロボット作っとんねん」

 ――ロボット。

「せや、オレの家はテレビないけどな、流行っとるやろ。宇宙行ってたたかう巨大ロボや」

 私は、やっぱり虚言癖も持っていたかな、と呆れていたが義男くんは部屋の隅のドカヘルを被り箒片手にロボット操作ごっこを始めた。

「いけっ! ガイダー、敵をやっつけろ! ダダダダダ!」


   ◇   ◇   ◇


 その内に義男くんはガキ大将に眼をつけられるようになった。〝サル〟と揶揄され嘲笑われていた。ある日、教室の隅で彼はそのガキ大将に詰められていた。

「おらっ、サルよ。何がいいもん持ってるんだよ。汚ねえジャリ銭じゃねえか」

「ちゃうわい。値打もわからんのか、あほ」

「何だと、もういっぺん言ってみろ!」

 周りに促されて私が渋々、止めに入る。ガキ大将が難癖をつける。

「何だ、お前はサルの味方か?」

 ――暴力はやめろよ。弱いものいじめだろ。

 すると義男くんが泣きながら叫んだ。

「何が弱いもんじゃ! オレは、オレは……」

 そのまま彼は教室から出て行った。そして、彼は学校に来なくなった。数日後、担任から義男くんのお父さんの都合で転校しましたとだけ伝えられた。

 誰も義男くんの事を話さなくなった。まるで最初から居なかったように。


   ◇   ◇   ◇


 その年のクリスマスの夜、父親が新発売のテレビゲームとソフト数本を買って来た。ああでもないこうでもないと盛り上がりながらセッティングして遊ぶ。

「父さんが先だぞ」

「あなた、みっともないわよ」

「お父さんばっかりずるーい」

 父母姉、そして私の一家四人で流行りのゲームに夢中になった。

 その後、疲れて寝室で寝ていた。すると窓をノックする音に目覚めた。

「開けてくれ、オレや」

 義男くんの声だ。私が飛び起きて窓を開ける。そこにはチビっ子サンタクロースのような格好の彼が居た。

 どうしたのと問うと彼は誇らしげに胸を張った。

「オレはな、修行しとったんや。ガイダーのパイロットや!」

 義男くんが空を見上げて指差して笑う。

 そこにはアニメに出てくるような巨大ロボットが立っていた。私は呆気にとられながら彼と見較べる。義男くんがポケットをまさぐり何かを渡した。ずしりと手のひらに重みがかかる。

 夜明かりに翳すと、それは金貨だった。

「オマエは子分一号から昇格や、アレやな……トモダチや!」

 ロボットから排気音が聞こえ熱い風が吹いてきた。機械の手が義男くんを乗せる。彼が叫ぶ。

「メリークリスマス!」

 義男くんがロボットの胸に収納されて消えていく。そして背中のブースターで飛び去っていった。

 気が付けば朝になり私は布団の中で寝ていた。枕元には金貨、の包み紙の丸チョコがあった。


   ◇   ◇   ◇


 懐かしい夢を見た気がする。クリスマスの翌朝は綺麗に晴れていた。息子が鼻息も荒くプレゼントを抱えてやって来た。

「パパ! ママ! サンタさんきたよ!」

「良かったわねえ」

「みて、ネオ・ガイダー!」

「パパが子供の頃にもガイダー居たぞ」

「それってしょだいでしょー、あとチョコ!」

「え?」

「あなた、金貨チョコって……」

「いや」

 息子が誇らしげに金貨チョコを見せた。私には義男くんが今でも巨大ロボットに乗っている気がした。

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