第3話 評価される線
最終週に入ると、時間の流れが、少しだけ速くなる。
花子は、美術室で最後の授業の準備をしていた。
二週間という期間が、数字として、現実味を帯びてくる。
今日の授業は、評価対象になる。
板書の構成。指示の出し方。生徒との距離感。
指導教員の佐藤は、後ろで、メモを取る。
花子は、それを見ないようにした。
見ると、声が変わってしまうからだ。
「今日は、前に描いた下書きをもとに、色を入れていきます」
声は、出た。
大きくはないが、教室の端までは届いている。
生徒たちは、それぞれの机で作業を始める。
美咲は、迷いなく筆を動かしている。
メグは、何度か消しゴムを使いながら、
慎重に線を残している。
花子は、机間を回る。
——見る。
——聞く。
——必要なときだけ、言葉を足す。
それ以上は、しない。
「先生、これ、どう思う?」
聞かれたときだけ、立ち止まる。
評価されるのは、“どれだけ話したか”ではない。
そのことを、花子は、何度も自分に言い聞かせる。
授業の終わりに、佐藤が、短く言った。
「落ち着いてましたね」
それだけだった。
褒め言葉とも、指摘ともつかない一言。
でも、花子は、それで十分だった。
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