虹の彼方に ~もしも同性愛と異性愛が逆転した世界なら~
佐久間 譲司
第一章 デート
横浜駅へと到着し、京浜線から、みなとみらい線へと乗り変える。そこから青空のようなブルーの車体に揺られつつ、馬車道駅を目指す。
今日は休日なだけあって、列車内は混雑していた。当然座ることなどできず、僕は出入り口のそばで、窓のほうを向いて立っていた。
この列車は地下鉄を走っている。そのため、窓の外は暗闇に包まれており、ちょうど窓ガラスが鏡のように周囲を反射していた。
僕はそれを使って、自身の姿をチェックする。
よし。問題なし。家を出る時にも、散々確かめたのだ。髪や服装に乱れなどはなかった。まかり間違えても、鼻毛など出ていない。僕の容姿は瑕疵なく、清潔感が保たれていた。僕はそれに満足する。
なにせ、今日は『デート』なのだ。身だしなみは特に重要だろう。
やがて、列車は小さく揺れながら、馬車道駅へと到着した。
大勢の人間が列車から吐き出され、僕はホームへと出る。人ごみに飲まれるようにしながら、エスカレーターで上へあがった。
改札口を通過し、さらに上へ進むと、万国橋出口から、外へと出る。
その途端、直射日光が顔を照らし、僕は思わず目を細めた。九月を過ぎ、近年の殺人的な暑さは幾分か和らいだものの、まだ残暑は相当厳しい。大通りは、サウナのように熱気を孕んでいた。
その中を、僕は歩き出す。みなとみらい通りを経て、交差点を渡り、万国橋通りへと入る。そこから直進した。
この先はみなとみらい地区であり、その中に有名な建築物、赤レンガ倉庫がある。そのためか、周辺の建物には、赤レンガをあしらったものが多い。ひときわ目を引く横浜第二庁舎も、レトロ風の赤レンガ造りで、美術館のように華やかだった。
その前を通過し、万国橋を渡る。みなとみらい地区に入り、万国橋交差点に差し掛かったところで、横浜ワールドポーターズが見えてきた。
横浜ワールドポーターズは、大型商業施設で、イオンシネマも併設されてある高校生にも人気のデートスポットだ。
僕はスマートフォンを取り出し、時刻を確かめた。午前九時五十分。待ち合わせは、午前十時だったので、ベストタイミングである。
横浜ワールドポーターズへさらに近づくと、エントランスがはっきり見えるようになった。横浜ワールドポーターズの万国橋側エントランスは、周辺と同様、レトロなレンガ造りに、ポップなアクセントを加えた可愛らしい外観をしている。
その中にある茶色い柱の影に、見覚えのある人物の姿があった。すでに、デートの相手は到着しているようだ。
横断歩道を渡りきる直前、向こうもこちらに気づく。相手は爽やかな笑みを浮べ、手を上げる。僕も笑顔をつくり、手を振って応えた。
横断歩道を渡りきり、エントランスへ向かう。そして、その人物と相対した。
「遅くなってごめん、タクヤ。待たせたかな?」
僕は、
タクヤは首を振った。
「俺もついさっき、きたところだ。それに、待ち合わせにはまだ早いから、遅くないよ」
タクヤは気を遣うように言う。そして、整った顔に心配そうな表情を浮かべ、僕へ訊いた。
「それより、ハヤト、ここまでくるのに暑くなかったか? 熱中症とか大丈夫?」
僕は微笑んだ。
「大丈夫。駅からすぐだったから、何ともないよ」
「そうか。よかった」
タクヤは安心したようにそう呟くと、さり気なく、僕の頭を撫でる。僕は少し恥ずかしくなって、目線を逸らした。
「それじゃあ中に入ろうか」
「うん」
僕は頷き、タクヤと並んで、横浜ワールドポーターズの中へと入っていった。
僕がタクヤと付き合い始めたのは、およそニケ月くらい前。
ちょうど夏休みが始まる直前だった。突然、クラスメイトであるタクヤから放課後、体育館裏へ呼び出され、そこで告白を受けたのだ。まるで恋愛ドラマのようなシチュエーションだった。
タクヤは長身で、彫りの深い役者のような二枚目である。そのため、上級生、下級生問わず、男子から非常にモテており、告白も何度か受けたことがある高嶺の花のような存在だった。
そのような人物からの告白に、僕は驚いた。これまで僕は告白などされた経験などなく、彼氏すら一度もできたことがない。そんな自分に、花形のようなモテ男が付き合おうと言ってくるなど、想像だにしていなかった。
タクヤは真剣だった。本気で僕のことを好きだという気持ちが伝わってきた。その気持ちが素直に嬉しく、気がつくと、僕は了承していた。
告白が成功した時のタクヤの喜んだ顔と、体育館裏に生えているモチの木の淡い新緑の色を、今でもはっきりと覚えている。
それから僕たちの交際がスタートした。夏休みの補習と部活の合間を縫って、僕らは何度かデートを重ねた。
次第に付き合い始めのぎこちなさは薄れていき、お互い、自然に接することができるようになっていった。
だが、それに反比例するかのように、僕の中にあったある違和感が、風船の如く膨らんでいくのを僕は自覚していた。しかし、そのことをタクヤに伝えることはできず、僕は思い悩んだ。
やがて、夏休みが終わりを迎え、休み明けに催された実力テストも済み――結果はイマイチだったが――僕らは、一息つこうと、こうして横浜ワールドポーターズへデートにやってきたのだ。
その違和感を心の中に、逆刺のように残したまま。
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