第3話 異世界転移、最初の敵は誤解と暴走
何処だか分らない森の奥底に飛ばされたうえに、気付いたときには強制女装の辱め。メイドによる拉致誘拐に遭った挙句に、貴族令嬢による茶会を騙った尋問。
わずか数時間でどれだけ波乱万丈なんだと突っ込みたいところに、とどめとばかりの魔法使いの出現! しかもショボい!
「と、とにかく!」
レオノーラが掌で扇子をパチンと叩くと、仕切り直しとばかりに姿勢を正して肩を何度もグルグルと回す。
「いまので分かったでしょう。クラッガリの大森林がどれだけ危険極まりない場所なのか」
「いや。なにが分かったのか解らないけれど、オレがいま非日常と非現実に晒されていることだけはよーく理解した」
人外魔境にいるだけでも不条理なのに、意味不明な出来事はそれだけに留まらない。強制女装をさせられるわ、拉致られたうえに尋問を受け、さらには魔法を目の当たりにと、僅か数時間の間に起きたとは思えない内容の濃さ。これを現実世界や常識の枠内で理解するのがそもそも間違い。
「意味分かんねーけど、うん、アレだ。うわさに聞く神隠しってヤツだ。いや、むしろ、異世界転移と呼んだほうがいいのか? それともひょっとして、オレって事故かなにかで死んだ?」
「はあ、なにを言ってますの?」
「拉致った侯爵令嬢が両手を広げて「この世界を救うために召喚した勇者よ」みたいなことを言わなかったってことは、召喚されたというよりは神様的なパワーかなにかで転移したってことなのか?」
暴走した挙句の優理の妄言に、レオノーラが「言いませんわよ!」と秒で否定。
「なぜわたくしが、そんな恥ずかしいセリフを喋る必要がありますの?」
苦虫を嚙み潰したような渋い顔でレオノーラが首を振るが、明後日の方向に推理を始めた優理の妄想はブレーキがぶっ壊れている。
「実は教会みたいなところから〝聖女〟の任務か〝勇者召喚〟の密命を帯びている。なんて事実がないのかなぁ、と考えたんだけど……」
「頭にヘンな虫でも湧いています?」
「異世界転移なのは当確として……使った魔法がショボかったから、実はオレに大魔法の隠れた才能があって後々披露するための布石? ひょっとして「オレ、スゲー」を実践できる……って!」
「いい加減になさい!」
レオノーラが投げた扇子が〝バシィッ!〟と優理の頭頂部にクリーンヒット。あまりのウザさにキレたレオノーラの物理攻撃がさく裂したのだ。
「お嬢様の投げ扇はニードルよりも遥かに強力」
「それを先に言えよ」
ぼそりと語ったヒルデ向かって、優理は涙目で訴えた。
*
そして三度「とにかく」と始めてテイク3。
「たった一人でクラッガリの森にいたから、てっきり世間知らずの蛮勇か舐めた旅をする蛮勇のどちらかかと思っていたのだけれど、世迷言を言う痴れ者だったとは予想外だわ」
「痴れ者とはなんだ! 痴れ者とは!」
小バカにしたような物言いに優理はムッとするが、レオノーラが扇子を持った途端「ナマ言ってすみませんでした!」と平身低頭。また投げ扇を食らったら堪らない、優理はちゃんと学習できる男なのだ。
「分かればよろしい」
上から目線でレオノーラが鷹揚に答えて扇子から手を離す。
「だいたいこんな森の奥底に、たったひとりで入ってくるのが自殺行為ですわ」
「道に迷うからか?」
「一本道を歩いて迷子になるのは、そうとうアレじゃない」
「お嬢様は遠回しにバカにしている」
「前に出ろや。おい!」
あからさまなディスりに優理は青筋を立てるが、レオノーラが扇子に手をかけると「いいえ、オレがバカでした」と掌返しで平身低頭。優理の学習能力はミトコンドリア以下だった。
「森奥に一人で入ればどうなるか? そこを狩場とする獣に襲われることもあるし、先ほどのような毒虫に遭うかもしれない。領主として不本意ではあるけれど、森を根城とする野党の類に狙われる恐れだってあるわ」
指を折りつつレオノーラが、単独行為がいかに危険な行為かを説く。
美少女が真顔で説くだけに説得力がありすぎ。横でヒルデが「怖がらせて楽しんでいる」と呟いていたが、レオノーラの話を聞く優理の耳には入ってこない。
ひとしきり説明すると「お分かり?」と言葉を区切り、そのうえで高圧的に口調を改めると「それに」と話を続ける。
「森の奥底とはいえ此処はヴァルフェリア侯爵家の領地。あまり行使はしたくないけれど、わたくしには森で見かけた不審な者の出自を詰める権限を有してますわ」
「待て待て待て! それって個人情報保護法違反にならないのか?」
プライバシー保護はどうしたと訊くと、鳩が豆鉄砲を食ったようにキョトンとした顔。
「こじんじょうほう……なにを言っているのかしら?」
そんなものは知らぬと断じると、ティーテーブルを指先で軽く叩きつつ「改めて訊きますわ」とマジモンの詰問。
「クラッガリの森奥に一人でいた理由は何ですの? 何処から来て何処へ行くつもりだったのかしら?」
口調は穏やかだが目は笑っていない。
青き血の力が放つ貴族オーラに圧倒されつつ、優理は「分からないから、絶賛遭難中って言っている」と繰り返し述べるのであった。
「気が付いたら木々が鬱蒼と茂る奥深い森の中。もちろん此処が何処かも分からないし(以下略)で、いまこうして尋問を受けている」
ひとしきり喋ると、レオノーラが腕を組んで「う~ん」と唸る。
「ウソをついているようには思えないけれど、いろいろとヘンなことを口走っている娘だし……」
「ウソなんか言っているか」
正直に答えたのに半信半疑にされて憮然としたら、今の今まで沈黙を守っていた執事のバットラーが「ひょっとしてですが、人攫いに遭ったのではないでしょうか?」と意見具申。
「見れば器量良しの娘です。どこかの町で攫われて奴隷市場に運ばれる途中運良く逃げ出したものの、何かのはずみで記憶が混濁しているのかと」
「いや、そういう事実はないから」
「なるほど、それなら辻褄が合うわね」
人の話を聞かないのはレオノーラも同じ。ユウリの否定をスルーしてバットラーの仮説に納得する。
「いくら蛮勇があっても、女の子が丸腰でクラガッリの大森林に挑まないでしょうし」
「左様でございます」
「だから、違うって!」
「見つけたからには、ヴァルフェリア家の娘として看過できないわね」
「だから、聞けよ!」
「安心なさい。ユウリはこのわたくしが侯爵家の名に懸けて、町まで無事に届けて差し上げるわ」
「おい!」
凄まじいカン違いで優理は森の迷子から救助される。
訳も分からぬまま馬車に乗せられる刹那。片付けに勤しんでいたヒルデが表情ひとつ変えずにボソりと呟やく。
「またヘンなのを拾った」
「さあ、出発ですわよ」
レオノーラが高らかに宣言する中、優理は「どうしてこうなった?」と揺れる馬車の車内でひとり呟くのであった。
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