強くてニューゲーム:リスタート・インフィニティ ~Lv.9999のステータスと全アイテムを持って「全滅したあの日」に巻き戻った俺、今度は幼馴染も村も、世界ごと一人も死なせず救い抜く~

kuni

第1話

空が、燃えていた。


視界のすべてを埋め尽くすのは、どす黒い赤色。

世界樹は焼き払われ、大地は亀裂から溢れ出した魔力によって崩壊していく。


その地獄の中心で。

俺、カイルは、腕の中にいる少女を抱きしめていた。


「ごめん……ね、カイル……」


幼馴染のリーゼが、力なく微笑む。

かつて黄金色に輝いていた彼女の髪は、泥と血に汚れ、その瞳からは光が失われつつあった。


「喋るな、リーゼ! 今、回復魔法を……!」


「いいの……。あなたは、生きて……」


彼女の手が、俺の頬を撫でる。

その温もりが、ふっと消えた。


崩れ落ちる手。

動かなくなった体。


「あああああああああああああ!」


絶叫は、空を覆う絶望にかき消された。


勇者だ、救世主だともてはやされ、二十年。

ようやく辿り着いた結末が、これか。

仲間を失い、家族を失い、最後にはたった一人の幼馴染さえ守れなかった。


俺の人生は、何だったんだ。

こんな無力な結末なら、いっそ――。


熱い魔力の奔流が、俺の体を飲み込んだ。

意識が、白い光の中に溶けていく。


最期に願ったのは、ただ一つ。

もし次があるのなら。

今度は、絶対に誰も死なせない。


     ◇


小鳥のさえずりが聞こえる。

鼻をくすぐるのは、干したばかりの寝具の匂い。

頬に触れる風は、あの日見た地獄とは似ても似つかないほど、穏やかで温かい。


俺はゆっくりと目を開けた。


「……ここは?」


見覚えのある天井。

使い古された木製の机。

壁にかけられた、不恰好な木剣。


そこは、俺が十二歳まで過ごした辺境の村、レムの自宅だった。


「夢……か?」


俺は震える手で、自分の顔を触った。

髭もなく、肌は張りがあり、手足はずいぶんと思春期特有の細さだ。


バカな。

俺は確かに、魔神との戦いで死んだはず。


その時だった。


「カイルー! いつまで寝てるの! 遅刻しちゃうわよ!」


心臓が、跳ね上がった。


階下から聞こえてきたのは、鈴を転がすような、少女の声。

二十年間、一秒たりとも忘れたことのなかった、愛しい声。


「リーゼ……?」


俺はベッドから飛び出し、窓を開けた。


庭には、十二歳の頃のリーゼが立っていた。

エプロンドレスを揺らし、腰に手を当てて俺を睨んでいる。

その背後には、平和そのものの村の景色が広がっていた。


生きている。

彼女が、笑っている。


目頭が熱くなり、視界が滲む。

今すぐ下へ降りて、彼女を抱きしめたかった。

だが、戦士としての本能が、俺の脳を冷静に支配した。


これがもし幻覚でないのなら。

俺は、過去に戻った。


ならば、あの力を。

地獄を潜り抜け、世界の果てまで至ったあの力はどうなっている。


俺は深く息を吐き、虚空に向けて呟いた。


「ステータス」


脳内に、馴染み深い音が響く。

半透明のウィンドウが、空間に浮かび上がった。


名前:カイル

レベル:9999(限界突破)

HP:計測不能

MP:無限

所持金:100億ゴールド


「…………は?」


思わず声が漏れた。

二周目。いわゆる回帰現象だとしても、これはおかしい。


レベル9999。

それは、俺が二十年の歳月をかけ、数多の死線を越えて辿り着いた人類最高到達点だ。

本来、十二歳の少年が持っていていい数値ではない。


それだけではない。

俺は念じ、異空間の倉庫――アイテムボックスを開いた。


中を確認した瞬間、俺は確信した。


前世の最終決戦で使っていた「神話級」の武装。

神の牙から鍛え上げた聖剣、アストライア。

一振りで都市を消滅させる魔杖、ヴォイド。

そして、数えきれないほどの最高級ポーションやレア素材。


そのすべてが、この小さな体に引き継がれている。


「くくっ……」


喉の奥から、乾いた笑いが込み上げてきた。


なるほど。

運命が俺に二度目のチャンスをくれたというわけか。

それも、これ以上ないほどの完璧な初期装備を揃えて。


前世では、多くの遠回りをした。

無能な騎士団に振り回され、卑怯な貴族に利用され、救えるはずの命を何度も取りこぼした。


だが、二度目は違う。


俺には未来の知識がある。

そして、この世界を何度でも作り直せる圧倒的な力がある。


もう、悲劇はいらない。

不必要な修行も、無駄な犠牲も、すべて排除する。


俺は鏡に映る、幼い自分を真っ直ぐに見つめた。

瞳の奥には、十二歳の少年には似つかわしくない、冷徹なまでの決意が宿っていた。


「待ってろ、リーゼ。今度は、指先一つ触れさせない」


俺は、神話級の指輪を一つ取り出し、透明化の魔法をかけて指に嵌めた。


これは救世の旅ではない。

レベル9999の俺による、ただの効率的な運命のねじ伏せだ。


カイルは微笑み、かつて自分を裏切った世界へと、静かに最初の一歩を踏み出した。

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