マスクの女

 楽屋裏へ足を運ぶと、入口付近でスタッフと談笑する拓海の姿があった。

 成功の余韻に浸っているのか、とても充実した顔をしている。声をかける前に彼が気づく。

「あ、麗子さん!」

「拓海さん、お疲れさま。本当に素晴らしかったわ」

 賛辞を贈ると、拓海は満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう。そう言ってもらえるとうれしいよ。みんなで死ぬ気でがんばった作品だからね」

「わたし、拓海さんの演技に鳥肌が立ったわ」

「それは褒め過ぎだよ」

「そんなことないわ。インテリ風の殺人鬼って、怖いけど、何だか惹かれるものがあった」

「殺人鬼らしからぬキャラクターを目指したからね。そういえば麗子さん、前のほうで観てくれてたよね?」

「あ、やっぱり気づいてた? 何だか恥ずか——」

 と、そのときだ。急にゾクッと背中に悪寒が走り、麗子は慌てて振り向いた。

 視線の少し先に、小柄な女が立っていた。白いニット帽を目深にかぶり、赤いセルフレームの眼鏡と不織布マスクで顔を隠している。表情は読み取れなかったが、遠目からでも強い嫉妬心が伝わってきた。

 女は多くの人でごった返している廊下の壁際に張りつくようにして立っていたが、麗子の視線に気づくと背を向けて去っていった。

「拓海さん、今の人、見た?」

「ん? どの人?」

 拓海が遠くを見るように廊下の奥へ視線を向ける。

「白いニット帽子をかぶってて、眼鏡とマスクしてた人」

「いや、わかんなかったな。その人がどうかした?」

「……何だか、じっと見られてた気がして」

 拓海が怪訝そうに眉をひそめる。

「気のせいじゃない?」

「……だったら、いいんだけど」

「それより、これから打ち上げなんだけど、麗子さんもどう?」

「え、いいの? わたし、部外者だけど」

「だいじょうぶだよ。麗子さんさえよければ、ぜひ参加してほしいな。話したいこと、いっぱいあるし」

「そう? なら、参加させてもらおうかしら」

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