雨上がりの廊下で、二人だけが知っている言葉にならない時間

柚宮

プロローグ

朝の光が教室の窓から差し込み、机の上には昨日のままのノートと教科書が散らばっている。スマホの通知音が小さく鳴るが、手に取るのもためらう。

「おはよ〜千雨!」

夏稀なつきの明るい声が教室の空気を一瞬で変えた。長い茶色の髪が揺れ、制服のブレザーにチェック柄の灰色スカートがよく似合っている。胸元には紺色のリボンがちょこんとついて、健康的で自然な可愛さを放っている。

私は顔が熱くなるのを感じながらも、自然に笑えなかった。理由は自分でも分からない。ただ、夏稀の笑顔を前にすると、自分の表情や声ばかり気になってしまう。

「うん、髪サラサラだね〜」

「制服も似合ってるし、さすがだよね」

クラスの女子たちが夏稀の机の近くで楽しそうに話している。私はその輪に入る勇気もなく、ただ静かに席に座る。

「今年の文化祭も、きっと目立つよ?」

「絶対、他校の子から写真撮られるって」

夏稀は笑いながらも謙遜し、周囲を自然に和ませる。千雨はその姿を少し羨ましく思った。自分も普通の女の子として友達と笑い合いたいのに、どうしても一歩引いてしまう自分がいる。

授業が始まり、教室の空気が少し静かになる。千雨はノートに鉛筆を走らせながらも、意識は隣に座る夏稀に向かっていた。

「ねぇ、今日の放課後、少しだけ一緒に帰ろうよ」

夏稀の声は軽く、でも確かに千雨に向けられている。千雨は少しだけ心臓が跳ねるのを感じた。普通の女の子として過ごしたい日々。だけど、夏稀の存在は、その普通を少しだけ揺さぶる――。

教室の窓から差し込む朝の光と、放課後の夕焼けの約束。

それが、二人の高校生活の、ほんの小さな始まりだった。


この物語は静岡市葵区にある常葉高校を舞台に、平凡な女子高生の青春と日常を描く物語。

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雨上がりの廊下で、二人だけが知っている言葉にならない時間 柚宮 @KISARAGI0701

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