悪役令嬢が婚約破棄を恨んで悪魔に魂を売ったら、魔王に溺愛されました

久遠れん

悪役令嬢が婚約破棄を恨んで悪魔に魂を売ったら、魔王に溺愛されました

「ヴィクトワール・トリアドウ、お前との婚約を破棄する!!」


 夜会の会場で朗々とした声で紡がれた宣告に、ヴィクトワールは小刻みに震えながら青ざめる。


 彼女は王太子であるアナクレトの婚約者だ。

 たった今、婚約破棄を宣言したのが彼女が心から慕ってやまないアナクレト本人である。


「どうして……ですの……!」


 かすれた声を絞り出す。

 アナクレトの隣には、彼女が魔法学園で邪険に扱っていた聖女だという平民のクララが怯えた眼差しで縋りついている。


(殿下はわたくしの婚約者ですわよ……!)


 ギロリと睨むと、彼女は肩をすくめてなおさら強くアナクレトにしがみついた。

 苦言を呈そうと口を開き替えたヴィクトワールを黙らせたのは、アナクレトの強い言葉だ。


「そうやってお前は! 何の罪もないクララを虐めるのだな!」

「人の婚約者に色目を使う方が悪いと思いましてよ!」


 叩きつけるような非難のセリフに、思わず言い返してしまった。

 できるだけアナクレトの言葉は肯定しようと努めているヴィクトワールでも、こればかりは看過できない。


「最初の頃、私はただクララを気遣っていただけだった。それに嫉妬して、教科書を破いたり、水をかけたり、足を引っかけたり、あまつさえ階段から突き落とすなどの醜い行為を行ったのはお前だ!!」


 全て事実だ。

 三人を取り囲んでいた周囲がざわりと騒いだけれど、ヴィクトワールは気にすることなく、必死に食い下がる。


「だって! 殿下の婚約者はわたくしなのに! 平民風情が殿下のお傍にいるから!!」

「そうやってお前は人を差別するのだな。そんな者は王妃に相応しくない!」

「っ」


 そうは言われても。

 平民と貴族の間には明確な身分の差があり、王族ともなればなお一層壁は高くなる。


 聖女とはいえ、貴族らしい振る舞いを身に着けていないクララが、遠慮なく人の婚約者の隣で笑っていれば、面白くないのは当たり前だ。


 べたべたと引っ付いて、下品にも歯を見せて満面の笑みで笑う。

 そこに申し訳なさそうな態度は一切ない。

 腸が煮えくり返るような気持ちに何度させられたことか。


 パレードで守るべき民に笑いかける程度ならば、ヴィクトワールだってここまでの嫉妬を抱かなかった。

 パレードならば、手を振って視線があったとしても一瞬だし、アナクレトの記憶にだって残らない。


 だが、クララは違う。

 無邪気にアナクレトを名前と敬称で呼び慕って、傍でずっと笑っていた。


 距離が近すぎて、本当の婚約者はクララの方ではないか、などと囁かれていたほどだ。

 彼女の方がお似合いだと、そんな心無い噂を何度耳にしたことか。


 だから、ヴィクトワールは彼女を排除しようとした。

 自身の身分を守るため、なんて綺麗ごとは言わない。


 ただの嫉妬だ。

 恋に狂った女の行動など、歴史が証明している。


「差別ではなく、区別です! 人には身分の差があります!!」

「クララは聖女だ!」

「だとしても! 生まれは平民です! 殿下にはふさわしくありません!!」

「それはお前が決めることではない!」


 もっともではあるが、この局面では押さえつけられているように感じる。

 さらなる反論をヴィクトワールは口にする。


「尊き青き血の誇りをお忘れになったのですか?!」

「人の血は赤い! 私も、お前も!」


 目を見開いて、大声を出す姿は普段の品行方正な王太子の姿からは想像できない。


 ヴィクトワールが恋に盲目になってクララを排除しようとしたように、アナクレトもまた恋に全力を尽くして愛するクララを害するヴィクトワールを駆除しようとしている。


(どうして! 殿下にわたくしの声が届かない……っ)


 いくら言葉を重ねても、どんなに訴えかけても。

 アナクレトの心は、もうヴィクトワールを見ていない。


 悔しくてたまらない。泣きたくて仕方ない。喚きたくてしょうがない。

 けれど、どれも公爵令嬢としてのヴィクトワールの矜持が許さない。


 だから、彼女は。


「浮気をする! 殿下たちが悪いのです!!」


 開き直って、そう告げた。






 最終的に、夜会で大騒ぎしたヴィクトワールは婚約破棄の上、王都を追放になった。


 そもそも騒ぎを起こしたのはアナクレトの方だが、王太子である彼を守るためにヴィクトワールは生贄となったのだ。


 これで浮気相手がただの平民、あるいは下級貴族ならば話が違ったのかもしれないが、彼女にとって運の悪いことに、アナクレトが愛したのは『聖女』であったのだ。


 国にとって数百年に一度現れるかどうかという聖女は重要な存在である。

 瘴気の発生を抑え、魔物を駆逐する聖女の力の恩恵は大きい。

 聖女を保護することは、国の安寧につながる。


 だから、切り捨てられた。使い捨ての駒のように。

 王都から北の果ての修道院に向かう道中の馬車の中で、ヴィクトワールは歯噛みする。


(もっとうまく立ち回るべきだったのです。味方の取り巻きを使い、噂を操作して孤立無援に追い込み、とっとと殺してしまえばよかった!)


 ヴィクトワールは腐っても王太子妃になる予定だった公爵令嬢だ。

 厳しい王太子妃教育に幼い頃から耐えてきた。


 泣き言も弱音も口にせず、アナクレトへの愛だけで、ずっと背筋を凛と伸ばし続けた。

 全ては彼に相応しい妻になるためだ。


 だからこそ、許せない。

 浮気を許した自分の怠慢も、他の女に靡いたアナクレトも、彼女から彼を奪った悪女の存在も。


(聖女とは名前ばかり。とんだ性悪ですわ!)


 次があればもっとうまくやる。

 けれど、人生に『次』などないのだ。

 ならば。


「報復をさせていただきましょう。あの方を取り戻すためなら、わたくしは……!」


 ヴィクトワールは心からアナクレトを慕っている。

 彼が王太子だからではない。幼い日に誓った約束があるからだ。


 ずっと心の支えにしていたその『約束』がある限り、彼女は彼を諦められない。


『ずぅっといっしょにいようね』


 遠い地に伝わるという小指を絡める契約をした。

 その思い出を大事に抱えて生きてきた。


 いつの間にか恋は執着になっていたけれど、それに気づいていないのはヴィクトワール本人だけ。

 だから。


「悪魔とだって、契約しますわ!」


 公爵家から持ち出した少ない荷物。

 その中に紛れ込ませた魔道具のナイフを振りかざして、腕に突き立てる。


 味わったことのない裂傷の痛みに頭がクリアになる。

 指先に落ちる血を滴らせて、闇の魔法陣の文様を馬車の床に描いていく。


「悪魔と魔王が本当にいらっしゃるのなら! おいでくださいませ! わたくしと契約を! 対価に命を捧げます!!」


 悪魔より恐ろしい形相で、血で描く闇の魔法陣。

 父である公爵の金庫に仕舞われていたものを、こっそりと盗み見た。


 王太子妃教育では褒められるばかりだった、一度見たものは大抵のことなら覚えられる優秀な頭脳が、この時ばかりは仇になったのだ。


「おいでくださいませ!!」


 描き終わった闇の魔法陣に、魔力を流す。

 奇しくもヴィクトワールには表向きに公表している水の魔力以外に、闇の魔力が宿っている。


 物心つく前から「絶対に隠し通すように」と両親から何度も念を押され続けた、闇の力。

 魔力を通された魔法陣は光り輝き。そして。


「おやおや、必死な呼び声に応えてみれば。ずいぶんと可愛らしいお嬢さんで」


 にこりと胡散臭い笑みを浮かべて、一人の黒づくめの青年が、そこに現れた。






 艶やかな漆黒の髪に血が滴るような真っ赤な瞳。彼はなぜか執事服に身を包んでいる。

 魔王や悪魔の伝承で語られることの多い、人ならざる外見の青年が突如現れてもヴィクトワールは動揺ひとつしなかった。


 突然光輝いた馬車に驚いて、御者が大声を上げていた。

 だが、悪魔がパンと手を叩いた途端、御者の声が消え、怯えた馬の嘶きもまた聞こえなくなった。


「お嬢さん、魂の対価に一体何がお望みで?」

「殿下と聖女を語るあの女を! 呪い殺して!!」


 鬼気迫る表情で口を開いたヴィクトワールの訴えに、ぱちりと悪魔がわざとらしく瞬きをする。


「おや、殿下とは。――ああ、アナクレト・バンシロン。この国の王太子にして、元貴女の婚約者。そしてもう片方は――聖女クララ。彼女が死ねば国が傾く。そんな方々を呪い殺いてよいのですか?」


 諭すような口調に反して悪魔の声音は楽しげだ。ヴィクトワールは大きく頷く。


「もちろんよ。国なんてどうでもいいわ。わたくしを裏切ったあの方を、許しはしない。わたくしから殿下を奪ったあの女を、許さない。対価ならいくらでも差し上げます。だから」


 切実さを孕んだヴィクトワールの訴えに、悪魔はくすくすと笑うばかり。


「おやおや、王太子妃となるはずだった令嬢が口にするには、いささか過激な言葉。ですが、貴女の無念、よくわかりますとも」


 うんうんと頷く姿に、だらだらと血を流しながらヴィクトワールは唇を噛みしめる。


「しかしながら、王太子と聖女を呪い殺すには、私の力では少々力及ばず。いえ、王太子は問題ないのですが、聖女が厄介でして。これは困りましたねぇ。お嬢さんが呪い殺したいのは、どちらかといえば聖女の方でしょう?」

「ええ、その通りよ」

「でしたらば! ぜひ我が主に直接訴えて下さればと! 我が主ならば、赤子の手をひねるより簡単に殺せるでしょう! 呪いなどという迂遠な方法をとらずとも!」


 高らかに告げられた言葉は、つまり「魔王に直談判せよ」という意味だ。

 だが、ここまできたヴィクトワールに怖いものはない。彼女は即座に頷いた。


「わかったわ。では、魔王の所まで連れて行って!」

「かしこまりました」


 ニヤリと悪魔が笑う。

 この瞬間、魂を対価にしたヴィクトワールの願いは書き換えられた。


 賢い彼女もそのことに気づいたが、もはや後戻りはできない。

 唇を噛みしめる。ギリギリ、血が出るほどに噛みしめて。


 一瞬の瞬きの間に、その場からは誰もいなくなっていた。




▽▲▽▲▽




 眩い光から眼球を守るように目を閉じたヴィクトワールが、再び瞼を押し開いた時には見慣れぬ広間にいた。


 一段高い場所には、今まで彼女が見たことのないほどの大男がいる。

 悪魔と同じ漆黒の髪に赤い瞳を持った麗人だ。

 明らかに人間と違うのは、二本の立派な角が生えていること。


 整った顔立ちをしているように見えたが、薄暗がりの中に玉座があるので、はっきりとは視認できない。


「何用だ」


 ひびきの良いバリトンボイスが広間に響き渡る。

 腹の底が震えるような、今すぐ膝をつきたくなる恐ろしい声。


 だが、ヴィクトワールは欠片も怯えることなく優雅にドレスの裾をつまんだ。

 綺麗なカーテシーを披露した彼女に、悪魔が「ほう」と感嘆の声を上げる。


「わたくし、ヴィクトワール・トリアドウと申します。魔王様に王太子殿下と聖女を名乗る不届きものを殺していただきたく、参上いたしました」


 魔王の遠慮のない視線が突き刺さる。

 射抜くようなそれにもひるまず彼女は頭を下げ続けた。

 一拍おいて、パチンと魔王が指を鳴らす。


「血がそのままではないか。出血死されては、対価も受け取れぬ」

「まあ」


 見る間にふさがった腕を見て、思わず声がこぼれた。

 ドレスに伝って染みになった部分は戻らなかったが、傷ひとつない綺麗な腕に戻ったことは純粋に嬉しい。


 血を流し続けたせいで、少し足元がふらつくが、その程度は些末なことだ。

 ヴィクトワールは再び深々と頭を下げる。


「ご温情、感謝いたします」

「よい。願いは聞いた。だが、其方の魂はすでに契約済みのようだが」


 先ほど、悪魔に対して『魔王に会わせる』という契約を交わしたばかりだ。

 魔王の言葉は最もだ。だから、ヴィクトワールは頭を下げたまま言葉を並べる。


「わたくしに差し出せるものでしたら、なんなりと」

「我が主、この娘中々面白いのです。ぜひ訴えを聞いてみてくださいませ」


 慇懃無礼に一礼して口をはさんだ悪魔の言葉に、魔王が「ふむ」と頷いた。


「こんなにも性根の腐った悪女は中々おりません。きっと我が主の好みかと!」


 中々に失礼な紹介のされ方をしたが、ヴィクトワールは異論を口にしなかった。

 眉がピクリと動いたことくらいは、許されたい。


「そうだな。死を願う動機を聞こう。顔を上げてよい」

「は」


 許しを得て、カーテシーの体勢を解いて顔を上げたヴィクトワールは楽しげに笑う悪魔を視界から消して、にこりと微笑んだ。


「わたくしは何も悪くないのです。理不尽に婚約を破棄されてしまい、やり場のないやるせなさに心が苦しいのです」

「聖女が死にかけるようなことをしたらしいな?」

「まさかそんな。ちょっとよろけた拍子にぶつかってしまい、彼女が勝手に階段から転がり落ちたのです。ドジな方ですわ」


「それだけではないのだろう」

「わたくし、火の魔法が不得手でして。魔法の練習をしているところに、運悪く通りかかられたのです。髪を焦がしてしまいましたが、折角なら顔を溶かしたかったですわ」


「もっとあるだろう」

「ええっと……ああ! わたくしに盛られた毒を、代わりに食べてくださったことがありますわ。あの時ばかりは聖女らしく優しい方だと思いました」


 すらすらと悪辣なことばかり口にするヴィクトワールにさすがの悪魔もちょっと引いている。

 気持ち彼女から距離をとった悪魔とは対照的に、魔王は心底楽しげに笑った。


「はっはっは! それはいい! この魔界において、瘴気にさらされながらも正気を保っているあたり、根っから腐っているのも気に入った!」

「だって、それくらい図太くないと王太子妃は務まりませんもの」


 ものすごくディスられたが、ヴィクトワールは気にしていないとい言いたげに軽く右手の指先で口元を抑えた。


 彼女が受けてきた教育の一つに「どんな侮辱にも心動かさず優雅にさばききる」というものがあったが、要らぬところで発揮されている。


 そんなヴィクトワールの反応に、ますます魔王は楽しそうに笑うのみ。

 悪魔の方は「人間界って恐ろしいですね」とちょっと困った顔をしていた。


「よかろう! 其方がこの魔王城で、聖女と王太子を殺すにふさわしい働きをするならば、その願い引き受けよう」

「ありがとうございます」


 再び綺麗なお辞儀を披露したヴィクトワールを、赤い瞳に愉悦を乗せて、魔王は満足げに見ていた。




▽▲▽▲▽




 その後、魔王城にてヴィクトリアに魔王が言いつけたのは「魔王の話し相手」だった。


 公爵令嬢だったヴィクトワールは家事も炊事もしたことがない。

 やる前から「できません」と申告した彼女に、では、と振ったのがそれだった。


 最初はさして期待していなかったが、彼女の話は存外魔王を楽しませた。


 毎日、魔王の膝の上に乗せるとヴィクトワールはここぞとばかりに語りだす。

 それは、学園での理不尽な日々の数々。


「それで、殿下がせっかくドレスを贈ってくださったから、とパーティーに着ていきましたら、わたくしより品のいい流行のドレスをあの聖女もどきがきていたのです!」

「それは腹が立つな」

「ええ、ですからそのドレスはずたずたに引き裂いて馬糞の中に突っこんでやりましたわ」


 からころと笑いながら、全く悪びれることもなく己の悪事を話すヴィクトワールをすっかり魔王は気に入っていた。


 相手からすれば悪辣な好意の数々を「正義の行い」として話す彼女の認知は歪んでいるが、それこそが面白くて心地いい。


「ねえ、魔王様。殿下と平民を呪い殺してくださいましたか?」


 きゅるん、と愛らしいおねだりスタイルで魔王を見上げてくる姿は、どこまで狙っているのやら。


 王太子妃たれと教育されてきたのだから、どこまでも狙っているに違いない。

 だからこそ、魔王はにやにやと笑いながら意地の悪いことばかり口にした。


「我が伴侶になれば考えてやろう」

「わたくし、殿下が好きなので」


 悪戯半分、本気半分だ。

 この一か月、ヴィクトワールの話し相手をしていて、彼女を心から気に入っている己を自覚している。


 だからこそ、残念に思う。

 彼が突き出した、彼女の願いを叶える対価は「魔王の話し相手」だ。それ以上でもそれ以下でもない。


 ぷうと頬を膨らませたヴィクトワールの丹念に手入れされたすべすべの頬をつつきながら、間違えたな、と内心で愚痴る。

 こんなことなら「伴侶」を条件にしておけばよかった。


「殺したいのにか?」

「殺したいほど愛しているのです」


 にこりと笑って告げるヴィクトワールは一切の嘘をついていない。

 澄み渡った魂の色でそれがわかる。だからこそ、魔王は可笑しげに笑うのだ。


「殺したら遺体をくださいね。あ、殿下のですよ。聖女もどきはいりません」

「死体が残る殺し方か」

「ダメですか?」

「検討しよう」


 再びきゅるんと見上げられて、魔王は肩をすくめた。

 最近ヴィクトワールに甘すぎる、と彼女を連れてきた張本人の悪魔から苦言を呈されている。


(それにしても、だ)


 人間にしておくのが惜しい逸材だ。

 まぁ、ヴィクトワールはすでに人間ではないのだが。


 彼女が魔王城を訪れた時に施した治療は、聖女のような聖の力ではない。

 魔王が行使したのだから、当たり前だが闇の魔力だ。


 あの時に、印を施した。

 すでに彼女は悪魔と契約した後だったからたやすかった。


 今のヴィクトワールは半分は人間だが、もう半分は魔族だ。


 彼女自身は自覚がないようだが、魔の国は人間界の十倍の速度で時間が進む。

 彼女はここにきてまだ一か月だと思っているし、それは事実として正しいのだが、人間界ではすでに一年が過ぎている。


(いまさらこの娘を探したところで、見つかるはずもないのになぁ? 人間とは斯くも愚かな生き物だ)


 忽然と姿を消したヴィクトワールが探されているのは、今まで彼女が防波堤となってせき止めていた悪意の波が王太子と聖女を襲っているからだ。


 ヴィクトワールは全てをうまくさばき、時には国王に奏上して取り込んでいたが、彼らはそうは上手く立ち回れない。


 今更ながらにヴィクトワールの有用性を理解して、必死に捜索をしているが、すでに彼女は魔王の手の中だ。


「時間はたっぷりとある、か」

「どうされましたの?」

「こちらの話だ」


 時間をかけて口説き落とせばいい。

 あと二ヵ月も過ぎれば、人間界では合計三年が過ぎて、国も適度に荒れるだろう。


 ヴィクトワールが「偽の聖女」と口にする娘は、実際本物の聖女だが、神に仕える娘は純潔でなければならない。

 先日、愛に目がくらみ処女を散らした聖女が『元・聖女』になる日も近い。


 そうなれば、ますます彼らの立ち位置は悪くなる。そうなったら。


(望み通り、目の前で首を跳ねてやろう)


 そうして、死体を前に求婚するのだ。伴侶となれ、と。


 きっとヴィクトワールは喜んで了承してくれる。

 未来を思い描いて、魔王は上機嫌に笑みを深めた。


 膝の上のヴィクトワールは、今度は「殿下がいかに素晴らしいか」を語りだしたので、しばらく放置すことにする。



 恋に目がくらんでいる姿も愛おしいが、早くこちらを見てほしいものだ。



◤ ̄ ̄ ̄ ̄◥

 あとがき

◣____◢



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