極寒の体育、クラスで唯一半袖ブルマーの彼女から目が離せない

祥花

寒空のブルマー

時間は少し遡る。チャイムが鳴り、真冬の体育の授業が始まろうとしていた時のことだ。


更衣室からグラウンドへと続く昇降口から、女子たちが続々と姿を現した。「寒い寒い」「絶対無理だって」と口々に不満を漏らしながら、誰もが指定ジャージを隙間なく着込み、まるでミノムシのように背を丸めて身を寄せ合っている。


そのモコモコとした集団の後方から、ひと際異質な影が現れた瞬間、場のざわめきがピタリと止まった。


全員の視線が、吸い寄せられるように一点に集中する。ヒュッと誰かが息を呑む音が、凍てついた空気に響いた。


恵美子だった。


完全防備の他の女子たちの中で、彼女だけが、真夏と何ら変わらない半袖の体操服にブルマーという姿で、平然とグラウンドに降り立ったのだ。そのあまりに非常識な光景に、教師すら一瞬言葉を失っていた。


そして今、準備体操を終え、教師の無慈悲な号令でランニングが始まってもなお、その衝撃は尾を引いていた。


「マジかよ……見てるだけで寒いわ」


隣を走る悪友の健太が、青ざめた顔を引きつらせて呻いた。


一月のグラウンドを吹き抜ける風は、冷たいというより「痛い」。顎まで上げたジャージの襟に顔を埋め、袖口で手を温めようとしても、体温は容赦なく奪われていく。俺たちの吐く息は白く濁り、灰色の空気に溶けて消えた。


だが、そんな極寒の景色の中で、俺たちの視線は、集合時から変わらずある一点に釘付けになっていた。


他の女子たちが寒さに背を丸め、身を縮こまらせて走る中、恵美子だけが正気を疑うような薄着で風を切っていた。


「あいつ、感覚イカれてんのか」

「鉄人かよ」


男子連中は呆れたように軽口を叩くが、その視線は正直だ。


鉛色の空、ひび割れた茶色の地面、乾いた砂埃。すべてが色を失った冬の世界にあって、彼女の存在だけが異質な光を放っている。


寒風に晒された四肢は、陶器のように白く硬質な輝きを帯びていた。それでいて、頬や膝頭、太腿の内側には、内側から滲み出るような濃密な朱色が差している。


剥き出しの皮膚が刻むリズム。収縮する筋肉の躍動。


そのあまりに無防備で、かつ圧倒的な生命の「色」は、凍えきった俺たちの目に毒なほど鮮やかに映っていた。

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