第2話 胸に灯った小さな火
部屋に辿り着くと、私は勢いよくグラスに水を入れ、一気に飲み干した。
ベッドに横たわり、天井を見つめる。
「なんなん、あの人」
胸が落ち着かん。
体が熱い。
赤いコートを着たままだからじゃないねん。
外側じゃなく内側からやねん。
……新井・マイケル・良太郎……
雪が舞う夜に、タンクトップ、半パン。
アイスクリーム片手に新宿二丁目を散歩する人……
絶対に変人やんなぁ。
でも、なぜか暖かい匂いがした。
私はさっき彼に握られた手をじっと見つめた。
まだ優しさの残り香が左手に残っている。
胸の奥がチクリと痛い。
一目惚れ?
まさかね?
――私にそんな気持ちが残っているの?
私みたいなおかまがまた恋?
「……あかん、あかん」
またいつもみたいに、都合のええように利用されて、捨てられて、傷つくだけやんか。
私みたいな半端モンは人並に恋なんてしたらいかんねん。
ひとりで生きて行くって決めたやん。
「ほんま、なんなん、あの笑顔。
あかん、あかん、あの笑顔が頭から離れへん」
倒れてたところを助けてもらっただけ。
ただ、それだけのこと。
彼からしたら、変なおかまがたおれてたから同情か興味本位で助けてくれただけ。
せやのに……
マッキーって呼ばれたときの優しい声が耳から離れへん。
「考えれば考えるだけパニクるわぁ。
今日はさっさとシャワー浴びて寝たほうがよさそうやな」
シャワーを浴び、冷蔵庫から350ミリの缶ビールをとり出す。
「おっとっと」
バタン ゴロン ゴロン
「油断してたわ」
床に落としたビールを拾い上げ、缶を開ける。
シュパッ
シュババババー
「あわわわわ、もう、せっかくシャワー浴びたのにビシャビシャやんかさぁ」
私は姿見に写る自分に突っ込んだ。
「……ほんま、アホみたいやな。
こんな、おかま……
好きになってくれるわけないっちゅうねんなぁ。
あんたアホやろ、勘違いしたらあかんで、マッキー。
クマみたいな体型で、フライパンに卵割ったみたいな顔してからに。
何ひとりでもりあがってんねん!
それに、それどころやないわなぁ。
お父ちゃん……」
私は茶色い封筒を握りしめた。
そっと枕元にある貝殻に目をやる。
淡路島を出るとき、海岸で拾った貝殻。
辛いことがあったときは、貝殻にそっと耳を近づける。
そうすると、懐かしい海の声が聞こえてきて、不思議とざわついた心の波が穏やかになる。
いつものように私は貝殻を耳に押し当てた。
「……一回、淡路島に顔出さなあかんなぁ」
ずぶ濡れのまま、ベッドに横たわり、枕を抱きしめながら目を閉じる。
「マイケルやったら、私の話、聞いてくれるんやろか?」
私はボソッと呟く。
あかん、あかん、偶然、街で会っただけの人やん。
どこの誰とも分からへん、冬空にタンクトップと半パンの変人やで。
……でも……
なんだか暖かい人……
「また、会えるかな?
おやすみ、マイケル……」
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