蟲たちの囁き

NIZ

第1話 三少年

 2010年9月1日

 夜の山道を、懐中電灯の光が照らしている。

 タク、コシロー、ムッチは、修学旅行先の宿舎を抜け出し、肝試しに来ていた。

「ここやな」

 先頭を歩いていたタクが、懐中電灯を傾けた。ごつごつとした岩肌が浮かび上がる。闇の中に、無機質な洞窟が浮かび上がった。

「やっぱり辞めようよ。危ないだろ」

 ムッチが引き止める。

「手前で引き返せば大丈夫だって」

 コシローも内心、異国の地での洞窟探検が怖かった。しかしそれよりも、中学最後の修学旅行を楽しみたかった。

 三人が通うのは中高一貫の男子校だったので、通常卒業しても離れ離れになることはないのだが、両親の都合で高校に進めないことになったコシローは別だった。

 三人の中でも特に悪さばかりするタクは、慣れた手つきで準備を進めている。

「お前ら、このロープ離したらあかんで。帰り道分からんくなって、死ぬぞ」

 『死ぬ』と言う言葉に、コシローは身震いした。

「本当に、奥まではいかないからな」

 ムッチは半分泣きそうになっていたが、この山奥、一人で取り残される方が危ないと分かっているのだろう。渋々ついてきた。


 洞窟の中はジメジメしていて、カビ臭かった。

「なあタク、ロープってこんなに長かったっけ」

「ちゃんと入り口に縛っとったはずやで」

 タクはロープを辿った。

「切れとる」

 ロープは尖った岩に引っかかり、切れていた。

「なあ、俺たちどっちから来たんだっけ」

 コシローは恐る恐る聞いた。

「知るか。一番後ろはお前やったやろ」

「俺はタクについてっただけだよ」

「は?俺のせいにするん」

 タクはキレやすい性格だった。

「落ち着けよタク。水も食料もあるんだし大丈夫だって」

 ムッチは自分に言い聞かせるように言った。


「スマホは?」

「圏外」

 タクは明らかに不機嫌で、ムッチはパニックになりかけていた。

 コシローの額に、一筋の汗が垂れる。

「熱いな」

 洞窟の中は蒸し暑かった。

「腹減ったよ」

 ムッチの無責任な発言は、タクの怒りに拍車をかけた。

「我慢しろ言うとるやろ、食料言うても朝の残りのパンしか持っとらんねん」

 コシローは泣きそうになった。しかし何故か、自分が死ぬとは思わなかった。きっと助かる。どうにかなる。確証のない自信が、彼にはあった。

 

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