転生悪役令嬢の推し活日記~私は空気、ただし破滅は回避する~

音坂 周

第1話転生先はまさかの


続編っ、続編っ、待望の続編っ!!

大好きなゲームの続編発売日ということで、私は浮かれに浮かれていた。

アラサーに足を突っ込んだいい大人のくせに、嬉しさのあまりノリノリで鼻歌を口ずさむくらいには。

『運命の十字路クロスロード』——私の人生を救ってくれたゲーム。推しを筆頭に登場人物が全員、最高に尊くて……ああ、続編ではどんな展開が待っているんだろう!


ついさっきゲームショップで購入したソフトが入ったビニール袋を、ウキウキな気持ちでぶんぶんと前後に揺らしながら、赤信号が青に変わるのを今か今かと待っていた——その刹那。


「——っ!?」


車線から逸脱してきたトラックが、目の前に迫っていた。

なぜか、その光景が妙にスローモーションに見える。だが、体は動かなかった。

強い衝撃。

そして、意識がブラックアウトした。

 



 

 

——————————————————

 



 

 

「……お嬢様……お嬢様……ダルトワお嬢様……お目覚めでしょうか?」

扉の向こうで、誰かが呼びかけている。

声は聞こえるが、まだ眠い。マシュマロのようにふかふかなベッドの上で寝返りを打ち、二度寝の甘美な誘惑に身を委ねようとした……。


が、それは叶わなかった。


コンコンコンッと扉を叩くノック音が響いた後、

「ダルトワお嬢様! そろそろお目覚めになってください!」

ガチャリと音を立てて、扉が開く。

……どうしてこんな朝早くから起こされないといけないのよ。

頭がぼんやりして状況が呑み込めないが、部屋に入ってきた人物の気配が少しずつ近づいてくる。心地よい布団の中から、しぶしぶ上体を起こした。眠たい目を擦りながら、声のした方向へ体を向ける。


すると——

ハウスメイドのような格好をした女性が、銀色のトレーに紅茶を乗せて目の前に立っていた。

「お嬢様、おはようございます。本日はアールグレイをご用意いたしました」

メイド……いや、コスプレイヤーかな? 女性が穏やかな表情で紅茶を差し出してくる。

お嬢様? どういうこと? 朝一から紅茶? なんで?

疑問が次々と浮かぶが、反射的に差し出された紅茶を受け取ってしまう。

まあ、ちょうど喉も渇いていたし……と、ひと口含むと、ベルガモットの爽やかな香りが口の中に広がり、だんだんと意識が覚醒してくる。


「ダルトワお嬢様、そろそろ身支度に取り掛かりませんと、学院に遅れてしまいますよ」

さあ、早く鏡台へご移動なさってください——そう促されるがまま、鏡台の前に座った。

鏡を覗き込んだ瞬間、私は息を呑んだ。


「——っ、え?」

そこに映っていたのは、見知らぬ美少女だった。

輝くような銀髪に、キリッとした強気な目元。上品にスッと伸びた鼻筋。

強い既視感が胸を突いた。

ああ、そうだ——この顔、知ってる。

ある映像が頭の中に流れてくる。夜通しゲームをする自分の背中とその背中越しに見えるゲーム画面。そこに映る人物と、今、鏡に映っている少女の顔が、ぴたりと重なった。


その瞬間、一気に記憶が流れ込んできた。

ダルトワ・グレイス。十六歳。公爵令嬢。皇太子セドリックの婚約者——

そして、『運命の十字路クロスロード』に登場する、悪役令嬢。


「ダルトワお嬢様? ……ダルトワお嬢様っ!?」

バタッ。

膨大な記憶の奔流に、私の脳はショートした。


再び、意識がブラックアウトした。

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