第3話

 図書館の学習室は、思ったより混んでいた。

 受験生はまだだろうし、長期休みでもないのに、席は七割以上埋まっている。

 端の方の席に着き、リュックから筆箱とルーズリーフとワークを取り出す。

 ルーズリーフが残り十枚ちょっとしかないから、二時間やったら切り上げよう。

 イヤホンをして、一つだけ曲を流してから勉強用BGMになる設定にした。


   ◆


 もう十二時だ。

 荷物をまとめて、席を立つ。

 お昼休憩をとる人が多いのか、学習室の人はまばらになっていた。

 「……っ」

 私がいた方の反対側の端の席。

 見覚えのある、いや、いつも頭のどこかで考えてしまう人。

 マットな色のヘアクリップでまとめた髪。

 あの頃のハーフアップ姿よりも、大人びて見える。

 声をかけることはできない。

 彼女はこちらに気づいていない。

 私は焦るように学習室を出た。


   ◆


 休日の駅前は、じめじめとしている。

 雨上がりの湿気がたくさんの人で、こもっている。

 今日はルーズリーフしか買わなかった。

 今使っているシャーペンの限定色と、好きな作家さんの新作を見つけたけれど、何だか気が向かなかった。

 「え、だよねー!」

 「東高の鈴鹿くんでしょ?」

 「スマッシュめっちゃかっこよかったの!」

 最近出来たパンケーキ専門店の前に、女子高校生のグループがいる。

 柚杏を含む、うちの学校の女子テニス部だ。

 複雑な気持ちになる。

 先週、柚杏に二人で行かない?と誘われ、甘いの苦手で、と断ったのは自分だ。

 柚杏も部活の友達と行った方が楽しいし、話も弾むだろう。

 でも何故か、取り残されている気がする。

 いつも柚杏が私といるのは同情なのか。

 本当は別の人といたいのか。

 考えても答えはでないことだ。

 何も変わらなくていい。

 今は、このままでいい。

 自分に言い聞かせながら、深呼吸をする。

 感じられるのは、疲労感とはまた違った何かだった。

 彼女たちが近くに来ないうちに、ここから移動しよう。

 お腹もすいてきたし、スタバでバニラクリームフラペチーノだけ買って帰ろう。

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