第1話

 いつも通り、五時半のアラームで目が覚めた。

 少し目の端の方が腫れてる気がしたけれど、気にしない。

 アラームを止めてから布団をかけ直し、再び目を閉じたが、十秒もしないうちに起き上がった。

 二度寝なんかしてはいけない。

 手を組んで伸びをして立ち上がる。

 深呼吸すると、肩の方から全身に疲れが押し寄せるような気がするのは、私だけだろうか。

 疲労感にうんざりしながら、ワークを開き、ルーズリーフを取り出す。

 最初の五分を過ぎたら集中モードになると信じて、シャーペンを二回ノックした。


   ◆


 一時間ほど勉強をし、お気に入りのスウェットとヨネックスのジャージに着替えて、一階に下りる。

 「おはよ」

 「おはよう。ピザトーストでいい?」

 「ん、お願いします」

 ここでお母さんの作る朝ごはんを食べて、としたいところだが、今どきの学生はビジュを良くしなければならない。

 正直よく分からない洗顔料とか何やらを塗って、髪はアイロンでストレートに。

 触覚は少し巻いて、前髪にはケープを。

 何が正解かは分からないけど、みんなと同じ風になってれば、それでいいんだと思う。

 本当はこんな面倒なことに時間をかけたくない。

 でも時間をかけないと。みんなに馴染まないと。浮かないように。

 鏡の向こうの自分を見る。

 相変わらず笑顔が下手だ。

 「バジルソース買ってきてみた。ちょっと食べてみて」

 「やった。いただきます」

 ピザトーストが好物の私は、お母さんに「飽きるでしょ」と言われながらも、週に一回ほど朝食で食べている。

 「ごちそうさま」

 ちゃちゃっと歯磨きを済ましてから、もう一度コームで前髪を整える。

 「いってくる」

 落としたら困るからと有線にしたイヤホンをつけ、最初の好きなバンドのプレイリストを再生して家を出た。


   ◆


 学校につくと、思いの外 人がいた。

 週明け締め切りの課題をやるために、早く来てはみたけど、やっぱやる気出ないわ、としゃべってる集団も少なくない。

 私のロッカーの前にも。鞄を戻したいのに、一番後ろの陽キャの席に集まるバスケ部たち。

 「ごめん、後ろちょっといい?」

 「あ、ごめん。ほら、お前ら課題どうせ終わってないんだろ。やれやれー」

 別に、少しどいてくれるだけでよかったのに、陽キャが取り巻きに呼びかける。

 「別に、かいもやってねーだろ」

 「あー課題だりー」

 と言いながら、それぞれ自分の席に散っていく。

 「ありがと」

 「いや」

 陽キャは何か言いたげだったが、早く勉強したかったので、その場は立ち去った。

 そもそも、そんな関わりのないやつに言うことなどないだろうから、私の気のせいだな。

 ……ふう。やっと解き始めることができる。


   ◆


 「授業終わったけど?」

 シャーペンを走らせる手を止めて、目線を上げると、柚杏ゆあんがいた。

 ほぼジャージ姿の私に比べて、彼女はいわゆる なんちゃって制服だ。

 ワイシャツにベスト、そして膝上十センチくらいのチェックのミニスカート。

 「うん、知ってる?」

 「次、体育だよー。そんな疲れてんのに無理したら、倒れるて」

 「まじで勉強してないのー」

 机の上を簡単に片付け、運動着を取り出す。

 「一緒に行こ!今日陸上か?えー、焼けるんだけど」

 教室を出ようとする私の後ろから柚杏が言う。

 「ね、暑いし」

 柚杏は今年からの仲で、入学当初席が隣になり、彼女から話しかけてくれたのがはじまりだ。

 私は高校で、ずっとくっついて行動するような親友をつくる気はなかった。

 今も必要とはしてないのだが、拒否する理由もなく、彼女と一緒にいることが多い。

 だからと言って彼女としか喋らない訳ではない、比較的男女関係なく誰とでも接している。

 「ちょい、更衣室通りすぎるって」

 「えっ?あ、」

 最近ぼーっとすることが多い。

 このまま過ごしていたら、いつか柚杏の言う通り、倒れてしまいそうだ。

 「まじで大丈夫?無理しないでよ。見学してもいいんじゃないの」

 「いや、陸上なら自分のペースで出来るし。大丈夫」

 「そう?倒れそうだったら私が先生に言いに行くから」

 「うん、ありがと」

 よく気づく彼女のことだから、もし私が倒れそうになって元気なふりをしても、きっと見抜いてしまうだろう。

 「時間やばいかも、急げー」

 おいていかれないように、柚杏の背中を追った。

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