『2周目の悪役令嬢は冷徹王子と組んで聖女をざまぁする』

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第一話:首を斬られた私が、愛した男と再会する日


第一話:首を斬られた私が、愛した男と再会する日


プロローグ:これから私は死ぬ


「これから私は、愛した男に首を斬られる」


断頭台に膝をつかされた私、リリアナ・フォン・エルヴァートは、月明かりの下でそう悟った。


目の前には、ギロチンの刃。足元からは、民衆の罵声が響く。


「悪役令嬢!」「聖女様を虐めた悪女!」「死刑だ!」


壇上には、冷たい目で私を見下ろす男――ディートリヒ・フォン・ヴェルナー第一王子。私の婚約者。いや、元婚約者。


「リリアナ・フォン・エルヴァート。悪役令嬢として、数々の罪を犯したお前に、死刑を言い渡す」


感情のない声。氷のような声。


「最後に言い残すことは?」


「私は……無実です」


「まだそんな嘘を」


彼の隣で、聖女アリシアが涙を流している。亜麻色の髪に青い瞳。清楚で可憐な少女。この世界の誰もが愛する聖女――そして、私を陥れた真犯人。


でも、誰も信じてくれない。私が彼女に優しくすればするほど、彼女の嘘は巧妙になった。


私は、アリシアを見た。彼女は泣いている。完璧な演技で。でも――その瞳の奥に、一瞬だけ冷たい笑みが見えた。勝利の笑み。


そして、彼女の背後に――影があった。人の形をした、黒い影。老人のような姿。長い杖を持っている。その影が、こちらを見て笑った。


『あれは……誰……?』


「執行」


ギロチンの刃が、落ちてくる――


冷たい。一瞬の痛み。そして――暗闇。


『ああ、これで終わり』


でも、最後に思ったのは――


『もし、もう一度やり直せるなら』『今度こそ、真実を証明したい』


『そして――あなたに、愛してたって、伝えたい』


暗闇の中、光が見えた。遠くに、小さな光。それが近づいてくる――いや、私が吸い込まれている。


まぶしい。熱い。そして――


第一章:2度目の目覚め


「リリアナ様! 起きてください! 舞踏会に遅れてしまいます!」


侍女の声で目が覚めた。


私は飛び起きた。「はっ……はっ……!」


首を押さえる。繋がってる。ちゃんと繋がってる。


「鏡……鏡を!」


侍女が持ってきた手鏡に映ったのは――15歳の私。18歳ではなく、15歳。処刑される3年前の私。


「戻って……きた……?」


いや、これは夢じゃない。首を斬られた感触。あの冷たさ。痛み。血の匂い。全部、鮮明に覚えている。


「リリアナ様、今日は婚約発表の舞踏会なのに……」


婚約発表の舞踏会。全ての始まりの日。この日、私はアリシアと出会い、彼女に優しくして――罠にかかった。


私は深呼吸した。落ち着け。整理するんだ。


私は死んだ。ディートリヒに処刑された。そして――戻ってきた。


「今度は……違う」


私はクローゼットを開け、奥から真紅のドレスを引っ張り出した。血のように赤い、派手なドレス。胸元が大きく開いた、悪役令嬢の象徴のようなドレス。


「え!? でも、王子様は控えめな女性がお好みだと……」


「知ってるわ。だから着るのよ」


1回目、私は「良い婚約者」を演じた。ディートリヒの好みに合わせて。優しく、従順で、空気を読んで。でも――何の役にも立たなかった。


真紅のドレスに着替えた私は、鏡の中でまるで別人だった。堂々として、挑発的で、美しい。


「さあ、行きましょう」


『待ってなさい、アリシア。そして、ディートリヒ。今度は、私が主導権を握る』


第二章:悪役令嬢の帰還


王宮の舞踏会場。私が馬車から降りた瞬間――会場の空気が変わった。


「あれは……リリアナ様?」「なんて派手なドレス……」「悪役令嬢そのものじゃないか……」


ヒソヒソと囁く声。刺すような視線。でも今は――心地いい。


「皆さん、こんばんは」


私は堂々と会場に入った。真紅のドレスが、シャンデリアの光を浴びて輝く。貴族たちが、道を開ける。


「あら、リリアナ様。そのドレス、随分と大胆ですわね」


マリア伯爵夫人。高慢な女性。1回目では、私を虐めた一人。


「お褒めの言葉、ありがとう。悪役令嬢には、これくらいがお似合いでしょう?」


「あ、悪役令嬢……?」


周囲がざわついた。リリアナ・フォン・エルヴァートが、自分を悪役令嬢と呼んだ。これは、宣戦布告。


私は会場を見渡した。そして――彼を見つけた。


会場の隅。誰も近づかない場所に、一人で立っている男。ディートリヒ・フォン・ヴェルナー。冷徹王子。


黒いスーツに身を包んだ彼は、ワイングラスを傾けながら、虚空を見つめている。


私の首を斬った男。そして――私が愛した男。


心臓が激しく打ち始める。怖い? いや、これは期待だ。


『彼も、戻ってきているのかしら』


私は、彼に向かって歩き始めた。周囲がざわつく。


「リリアナ様、冷徹王子に……」「無謀な……」


私は、ディートリヒの前に立った。彼は、こちらを見ない。ワイングラスを見つめたまま。


「リリアナ」


突然、低い声で名を呼ばれた。


「……様子が違うな」


やはり、気づいた。


「気のせいですわ。それとも、もっと怯えた婚約者がお好みでしたか?」


その瞬間――彼の手が止まった。ワイングラスを持つ手が、微かに震えた。そして、ゆっくりと私を見た。


深紅の瞳。冷たく、鋭く――そして、何かを探るような目。


「生意気な口を利くようになったものだ」


「ええ。だって――」


私は、彼の耳元に囁いた。周囲には聞こえないほど、小さな声で。


「私は悪役令嬢ですもの。原作通りに、ね」


彼の目が、見開かれた。ワイングラスが、彼の手の中で揺れた。


「……げんさく……?」


掠れた声。


『反応した』


「とぼけないで。あなた、覚えてるでしょう?」


「何を……」


「断頭台。月の光。私の血の色。そして――あなたが、私の首を斬った感触」


ディートリヒの顔から、血の気が引いた。彼の手が、私の腕を掴んだ。強く。痛いほどに。


「お前……まさか……」


「ええ。2回目よ、ディートリヒ」


第三章:転生者同盟


「テラスに来い」


ディートリヒは、私の手を引いて会場を出た。周囲がざわつく。でも、私たちは気にしなかった。


誰もいないテラス。月明かりだけが、私たちを照らしている。


ディートリヒは、手すりに手をついて深呼吸をしていた。「落ち着け……これは現実だ……」


しばらくして、彼は振り返った。


「詳しく話せ。お前、本当に……戻ってきたのか」


「ええ。目が覚めたら、15歳の朝だった。あなたに処刑された後、気づいたら――ここに」


ディートリヒの手が、激しく震え始めた。


「……俺も、だ」


やはり。


「同じだ。目が覚めたら、舞踏会の朝だった」


彼は、私を見た。その目には、涙が浮かんでいた。冷徹王子と呼ばれる男が、涙を。


「お前を処刑した記憶。全部、覚えている」


「私も、殺された記憶を覚えてる」


沈黙。長い、長い沈黙。


「なぜだ」


ディートリヒが、突然言った。


「なぜ、お前は最後まで俺を呪わなかった。『私は無実です』――それだけしか言わなかった」


私は、答えられなかった。なぜなら――


「愛してたからよ」


言葉が、口から零れた。


「1回目から、ずっとあなたを愛してた。だから、最後まで恨めなかった」


ディートリヒが、息を呑んだ。


「だからって――殺されてもか!?」


「ええ。バカでしょう? でも、本当なの」


長い沈黙。そして――


「俺も、だ」


ディートリヒの声。


「俺も、お前を愛していた。気づいたのは、お前を失ってからだった」


私の心臓が、止まりそうになった。


「お前を処刑した後、真実を知った。アリシアの嘘。お前の無実。そして――」


彼の目から、涙が流れた。


「俺が、愛していた女性を、自分の手で殺したことを」


「ディートリヒ……」


「アリシアと結婚した。3ヶ月後に。結婚初夜、彼女は本性を現した。笑いながら言ったんだ。『リリアナ? 全部私が仕組んだのよ。彼女、最後まであなたを信じてたわよ。バカみたい』と」


私は、拳を握りしめた。


「その瞬間、俺は全てを悟った。そして――毎晩、お前の夢を見た。だから、戻ってこれた時、誓ったんだ」


彼は、私の手を取った。


「今度こそ、お前を守る。お前を信じる。そして――お前を愛する」


涙が、溢れた。止まらない。


「ずるいわ……そんなこと言われたら……」


「リリアナ」


ディートリヒは、私を抱きしめた。


「もう二度と、お前を失わない」


私は、彼の胸で泣いた。やがて、顔を上げた。


「ねえ、ディートリヒ。協力しましょう」


「協力?」


「転生者同盟。2回目の人生を、成功させるために」


ディートリヒは、微笑んだ。冷徹王子の、初めての笑顔。


「ああ。今度こそ――お前を守る。そして、アリシアの正体を暴く」


「それと――」


私は、真剣な表情で言った。


「あの影の正体も、突き止める」


「影?」


「処刑台で見たの。アリシアの背後に、黒い影。老人のような姿で、杖を持っていた。まるで、彼女を操っているような」


ディートリヒの表情が、険しくなった。


「それは……1回目の俺の記憶にはない」


「私も、一瞬しか見えなかった。でも、確かにいた。つまり――」


その時。


甘い声が聞こえた。


「あら、王子様。こんなところにいらしたんですね」


私たちは、振り返った。


そこには――アリシア・ローレンス。


亜麻色の髪、青い瞳、清楚な笑顔。私を陥れた聖女が、立っていた。


「そして、リリアナ様も。お二人で、何をお話しされていたんですか?」


彼女は、完璧な笑顔で近づいてくる。でも――私は知っている。この笑顔の裏を。


「ただの婚約者同士の会話よ」


私は、わざと冷たく言った。1回目とは、全く違う対応。


アリシアの笑顔が――一瞬だけ、強張った。


『見えた』


彼女の目が、細められた。値踏みするような、鋭い目。そして――その奥に、殺意。


「まあ、素敵ですわね」


でも、すぐに笑顔に戻る。完璧な演技。


でも、私は気づいた。


彼女の立ち方。視線の配り方。呼吸のリズム。


全てが――1回目と、微妙に違う。


まるで、何かを警戒しているような。まるで、私たちの変化に気づいているような。


『まさか――』


ディートリヒも、同じことに気づいたようだ。彼の手が、剣の柄に触れた。


アリシアは、にっこりと笑った。


そして――囁くように言った。


「ねえ、リリアナ様。あなた、何か……変わりましたわね」


その声には、確信が込められていた。


「まるで、別人のような――いいえ」


彼女の目が、鋭く光った。


「まるで、『全てを知っている人』のような」


空気が、凍りついた。


ディートリヒが、私の前に立った。


アリシアは、くすくすと笑った。


「大丈夫ですわ、王子様。ただの冗談です」


そして、会場に戻ろうとして――振り返った。


その瞬間、彼女の目が――完全に変わっていた。


冷たい。計算高い。そして――確信に満ちた目。


「あ、そうだ。お二人に、お伝えしておきますわ」


彼女は、不気味に微笑んだ。


「今夜、素敵な『奇跡』をお見せしますから――楽しみにしていてくださいね」


そして、会場に消えていった。


ディートリヒと私は、顔を見合わせた。


「まずいぞ、リリアナ」


「ええ……彼女、気づいてる」


「俺たちが転生者だと?」


「多分――いいえ」


私は、アリシアが消えた方向を見つめた。


「確信してるわ。そして――」


会場から、突然悲鳴が聞こえた。


「誰か、助けて! マーカス卿が倒れました!」


私とディートリヒは、走り出した。


会場に戻ると、床に一人の男が倒れていた。マーカス卿。下級貴族。


1回目の記憶では――アリシアに金で雇われて、病気を演じる役だった。


彼の顔は青ざめ、唇は紫色。呼吸が浅い。


「これは……」


ディートリヒが、厳しい表情で言った。


「毒だ」


私は、マーカスに近づいた。彼の懐から、小さな小瓶を取り出す。


「これ、彼が飲んだ『解毒剤』のはず。でも――」


光にかざすと、透明な液体の中に黒い粒子が浮いている。


「致死毒だわ」


周囲が、ざわついた。


その時――


「大変! 何があったんですか!?」


アリシアが、会場に駆け込んできた。息を切らし、驚いた表情。完璧な演技。


でも――私は見逃さなかった。彼女の目が、一瞬だけマーカスではなく、私とディートリヒに向けられた。


確認している。計画通りに進んでいるか。そして――私たちがどう動くか。


「アリシア様! お願いです、マーカス卿を助けてください!」


周囲の貴族が、アリシアに縋る。


「あなたは聖女様、きっと助けられます!」


アリシアは、一瞬だけ躊躇した。そして――私たちを見た。


挑戦的な目で。


「わかりました。私、やってみます」


彼女は、マーカスの前に跪いた。


「主よ、この者に祝福を――」


白い光が、彼女の手から溢れ始める。


聖女の力。いや――偽りの力。


1回目では、この光を見て、誰もが彼女を信じた。


でも今回は――


私は、ディートリヒの手を握った。彼も、私の手を握り返す。


そして――二人同時に、叫んだ。


「待ちなさい!」


―第一話・完―


次回予告:第二話「聖女の仮面」


アリシアの『奇跡』は本物か?

マーカス卿の命は救えるのか?

そして――アリシアもまた、転生者なのか?


2回目の人生を賭けた戦いは、これから本番を迎える――

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