『La Clarte Newly renovated store opening』

宮本 賢治

『Light Side』

 行きつけの美容室が新装オープンした。

 以前のお店は2号店として残し、本店を別に立ち上げたのだ。

 その美容師を利用したのは、最初、ウェディングシェービングがきっかけだった。

 そのときの店長さんの対応がスゴく心地良くて、そのまま通い続けた。

 美容室って、浮気出来ない。

 よそで切ってもらい、髪が伸びて、素知らぬ顔で出戻っても、プロの目だとわかるらしい。

 浮気したなって。

 けど、わたしは、この行きつけの店

La Clarteラ·クラルテ』一筋。

 店長兼オーナーの美桜さんに切ってもらいたい。

 あの人じゃないと、ダメなんだ。

 行きつけのお店って、安心する。

 ソコに行くだけで、ホッとする。

 予約はちゃんとした。

 覚悟を決めた。

 心機一転を図りたい。

 こんなとき、やっぱ、あの人にお願いしたい。

 カラン。

 ドアを開けると、ドアベルの音がした。

 うれしい♪  

 コレは、前の店と変わらない。

 粋な演出だ。

「いらっしゃいませ。

ようこそ、La Clarteへ。

···ハルカちゃん、早速のご予約ありがとう♪

お待ちしてました」

 店長の美桜さんが出迎えてくれた。最初はよそ行きの声でのお出迎え。名前を呼ぶときは、声のトーンを変えてくれたのが、うれしい。

 にしても、美桜さん、本当に変わらない。もうこのお店に通い出して、10年は経つのに、どゆこと?

 ネコ顔の美人は、若いときから顔が完成されている。若いときから大人っぽいと、きっと年齢を重ねても、変わらないんだろな。小顔でキリッとした目。

 タヌキ顔のわたしは、憧れてしまう。

「あ、コレ、お店の皆さんで召し上がってください」

 わたしは、お菓子屋さんの紙袋を美桜さんに渡した。

「わ!

開店のお祝い?

ありがとうございます!

···ホラ、みんな、松永様からいただきました♪

後で、いただきましょう」

 大したものではないのに、美桜さんが他のスタッフさんに披露。

 皆さんからお礼を言われ、悪い気はしないけど、恥ずかし。

「あ、コレ、新しいお店の。

ラインはこのお店と、前のお店、どちらもリンクしてるから。

めんどかったら、わたしに直電ください」

 美桜さんが渡してくださった名刺。結婚されたから、苗字は、坂本から、栗栖へ。


 代表取締役 栗栖 美桜くりす みお


「カッコ良! 

社長さんだ!!!」

 思わず、大っきい声が出た。

「やめてよ、恥ずかしい。

こっちの店を出すとき、いっそ会社にしたほうが良いよって、旦那が言うからさ」

 美桜さんの旦那さん。

 最近、大きな小説の賞を取ったと聞いた。ご実家は大地主で裕福と聞く。この美容室が1階に入ったビルも、おそらく、ご実家の持ちビルなんだろな。

 わたしは広いフロアの4つのカット台。その1番手前、表通りに1番近いセット席に案内された。

 残りのカット台にも先客がいて、それぞれスタイリストの方がカットしていた。

「今日はどのようにされますか?」

 席に着いたわたしに、美桜さんから尋ねられた。

「バッサリと、ショートにしたいんです」

 肩よりも長い、わたしの髪をフワフワと触る美桜さんの手が止まった。

「何で?

···失恋したの?」

 美桜さんがあまりにも真顔で言うので、わたしは思わず吹き出した。

「んなわけ、ないですよ」

 わたしがそう言うと、知ってるよ、冗談じゃんみたいな感じで、美桜さんも破顔した。

「だよね。

イメチェン?」

「ま、それもありますけど···」

 わたしがちょっと、もったいぶると、美桜さんがその先をうながす。

「じゃ、心境の変化かな?」

 鋭い!

 さすがは美桜さん。

「はい。

気合いを入れたくて」

「それは、どうして?」

「わたし、職場で出世するんです」

「え、スゴいじゃん!

おめでとう♪」

「ありがとうございます。

看護主任になるんです。

···今よりもいそがしくなるし、何よりも責任も今よりもずっとずっと重くなるだろうから···」

 わたしが看護師になって、十年が過ぎた。

 看護主任。

 認められてうれしい。

 けど、ちょっと荷が重い。

「じゃ、お友達の門出に、

精一杯張り切っちゃうね!

任せて、

気合い入れさせていただきます♪」

 美桜さん。

 カット台の鏡越し、

 真剣な目で言ってから、

 一気に破顔。

 満面の笑顔で笑ってくれた。

「お願いします」

 わたしは世界一信頼できる美容師にすべてをゆだねた。


 完成!

 カラーはグレージュ。

 明る過ぎず、暗過ぎない。

 耳がスッキリ見えるショートカット。

 コンパクトマッシュ。

 前髪はワイドバング。正面から見たスッキリ感がハンパない。

 美桜さんが横の髪を耳にかけてくれた。

「ココ、ポイントね。

ホラ、耳にかけても髪が割れない。

このピンクゴールドの花びらピアスもスッキリ見えて、映えるよ♪」

 そして、小さな鏡で後ろの部分を見せてくれる。

「後ろも、ちび襟を残してみました。

コレ、小顔、首長効果あるからね」

 スゴい!

 まるで、変身したみたいだ。

 美桜さんが優しく、肩に手を置いてくれた。

「気合い入った?」

 鏡越しにニッコリと優しく笑う美桜さん。

「はい、バッチリです♪」

 わたしは親指を立てて、答えた。

 レジでお会計を済ませる。

 え、こんなに安くていいの?

 とわたしが目を丸くしてたら。

「昇進祝いだよ♪」

 美桜さんがウインクした。

「ありがとうございます!」

「また、ユウトくんも連れておいでよ」

 美桜さんは、小学4年生になる最愛の息子の名前を言った。

「あ、あの子、この前、美桜さんにカットしてもらったら、

ぼく、もうあのキレイなお姉さんのとこじゃないと、髪切らないとか、生意気言ってるんですよ」

 美桜さんはクスッと笑った。

「ショートカット。

ちょっと伸びても、スグに気になるから、気になったらいつでも来てよ。

ユウトくんも連れておいで。

親子でサービスするからね」

「はい、

ありがとうございます♪」

 わたしは何度も礼をして、店を出た。振り替えると、ガラス戸越しに美桜さんと目が合った。

 友達見つけた!

 そんな雰囲気で、美桜さんが手を振ってくれた。

 わたしは一礼して、手を振り替えした。

 また、来よう。

 今度は、ユウトも連れて。

 髪の毛が軽い。

 気持ちが軽い。


 わたし、気合い入ったぞ。


 『Dark Side』へ続く

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『La Clarte Newly renovated store opening』 宮本 賢治 @4030965

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