いろいろあったようで、何もなかったこの一年

@kawamuramami3

それでも生活は続く

 すごく久しぶりに、AIを使わず文章を書いてみます。


 2025年は「AIエージェント元年」とも呼ばれ、業務の場では生成AIの活用はもちろん、自律的にタスクを実行するAIエージェントの導入も続々と始まっています。それは企業に限った話ではなく、たとえばGensparkというAIツールにはエージェント機能もあって、作成した動画をSNSへ自動投稿までしてくれるのだとか。個人も気軽にAIエージェントを使える時代がすでに到来しているということです。


 ちなみにAIとAIエージェントの違いは、ざっくり言えば「クリックに相当する操作ができるかどうか」。AIって大雑把な指示でもすごくいい感じのアウトプットをしてくれるけれど、「じゃあメール送っといて」「インスタに投稿しといて」などのPCおよびスマホ操作はできないんですよね。その「ポチッ」の操作までできるのがAIエージェントと考えてもらって、おおむね問題ないと思います。


 いや、AIエージェントの話はどうでもよくて。前置きが長くなりましたが、わたしはこの一年ですっかりAI疲れをし、ひいては自分に失望してしまったのでした。


 実際わたしの業務でもね、今や当たり前のようにAIを使うんですよ。業務でも、というか、わたしはプライベートではほとんどAIを使わないので、業務では、が正しいか。わたしは普段ディレクターやらライターみたいな仕事をしていて、つまり業務中に文章に触れる機会が圧倒的に多いのですが、今はそのすべての作業工程にAIを使っています。送られてきた資料を要約するのも、取材の文字起こしをするのも、原稿を書くのも校正するのもホワイトペーパーを作るのも修正を反映させるのも。挙げ句、その原稿を添付するメールの文面を考えるのも、全部、全部、ぜーんぶ。


 もちろんAIの出力そのままに何かを実行することは絶対にありませんが、とはいえ今AIを取り上げられたら業務スピードは10分の1以下に落ち、わたしはクビになるでしょう。Gemini、いつもありがとう。


 ただね、これでも好きでライターになったわけですよ、こちとら。自分の書く文章が世界一面白いと思っていた時期だってありました。その根拠のない全能感に包まれていた遅すぎる青年期は抜けたにしても、少なからず「まあこの速さでここまで書けるのはわたしくらいなものでしょう」があったわけ。仕事でも。


 そのかすかな自負は、今年ですべて消え去りました。わたしの書くものなんて誰でも書けます。AIでも書けます。というか、AIが書いたほうが読みやすい。


 じゃあライターの仕事はAIにより駆逐されてしまうのかといえば、決してそうではないはずです。しかし、淘汰されるライターは確実にいるでしょう。汎用的なライターはその代表格だと思います。


 なぜ「汎用的な」としたのかというと、汎用的でないライターはその限りではないと思うので。汎用的でないライターとは、たとえば「グルメライター」とか「多国籍料理ライター」とか「グルジア料理ライター」とか。後者に寄れば寄るほど、え?大丈夫そ?と心配にはなりますが、でもそれくらい尖っているほうがコアなファンが付くってものです。知らんけど。


 とにかく、そういう偏愛やある種の狂気って、AIには出しにくいから。あとは経験。「それってあなたの感想ですよね」でいいし、むしろファンはそれが欲しい。「○○のことなら△△さん」になれば勝ち。


 そういう意味では、汎用的なライターの一人であるわたしは、それを脱するためにも「オストメイトといえばかわむらまみ」になりたかった。でも、なれませんでした。


 わたしは2024年に大腸がんに、正式にはS状結腸がんステージⅢcになって、10ヶ月間オストメイトとして生きてきました。オストメイトとは、ストーマ(人工肛門)保有者のことです。その最中、日々の記録をつけていたら出版社からお声がけをいただいて、Webで連載をさせてもらって、書籍化の話まで挙がっていた。でも、結果的に連載は終了し、残念ながら書籍化は実現しませんでした。これにはさまざまな要因がありますが、一番の理由は想定読者層(=当事者)がかなり限られることでした。わたしはむしろ、当事者以外の方にこそ読んでもらえるものを書きたかったんだけど、難しいね。


 また、少し話が逸れますが、SNSを通じて仲良くなったがん患者の方からわたしの考え方に苦言を呈される機会があったことも、落胆に拍車をかける形となりました。


 事の発端はわたしが「余命宣告されたら○○しよっと」という配慮のなさすぎる冗談を言ったことで、これについては弁解の余地がないんですけれど、やり取りの中で「術後抗がん剤も終わってストマもなくて経過観察で再発に怯えるだけでいい『元患者』」と言われたことはずっと引っかかっていて。そうか、そう思われていたんだな、まあそうだよな、と。特に、その人はステージ4だったので。


 そう、その言葉は的を射ていて、言うてわたしは今や「元患者」なんですよね。医学的な定義はさておいて。そうやって元患者になれたのは喜ばしいことであるはずなのに、「オストメイトといえばかわむらまみ」にはもうなれないという事実を突きつけられたような絶望感を抱いてしまった。治ることを、手放しで喜べなかった。ただこうして今生きられているというだけでありがたいはずなのに、どうして素直に感謝すらできないんだろう。この自分本位で馬鹿げた葛藤や価値観も、その人との友人関係が終わってしまった原因のひとつでした。まあ、そこはわたしの人生なので「自分が悩みたいことで悩む」でいいと思うんですけれど。(それでも、想像や配慮は必要だった)


 こうして改めて振り返ると、2025年は自分がこの世界に生き続ける理由が少しずつなくなっていった一年だったように思います。書くこともオストメイト当事者であることも、がんになってからは自分を支え、形作ってくれたものだったから。特に、自我を出しまくって書いたものを連載を通してたくさんの人に読んでもらえたことと、それで著者としてお金をもらえたことは、やっぱり生きていていいこともあるものだなとすごく思えた。ライターとはいえ、普段の仕事では自分のことなんて書かないので。もちろん仕事は仕事で楽しいときもあったのですが、それもAIの台頭により、楽しみ方の角度を変えざるを得なくなってしまいました。


 ということで、汎用的なライターであり続けてしまったわたしは、このままではAIの進化に淘汰され、やがて職業の選択を迫られることになるでしょう。10年以上やってきたこの職種とも、お別れの日は遠くないかもしれません。


 そんな状況下でも唯一残っている希望を挙げるならば、それは「生きている」ということです。可能性はまだ収束していない。それは夢を追うような話ではなくて、事実として、わたしの前には無数の選択肢があります。


 今からほかの業界や職種に転職する可能性。競馬で大当たりする可能性。自分で本を出す可能性。副業を始める可能性。どこか地方に引っ越す可能性。あるいは海外へ引っ越す可能性。スナックで働く可能性。再発する可能性。再発しない可能性。なんかふと「このままでも幸せだな」と思える可能性。


 それぞれ確率は異なるものの、いずれもゼロには収束していない。まあ馬券を買ったことはないのですが。買ったら当たるかもしれないし。


 ただ、選択肢が多いのは善である一方で、時として人はそれにすがってしまう生き物だとも思うんですよね。だからこそ、自分から挙げるのは「どこかから連載のお声がけをいただく可能性」ではなく「自分で本を出す可能性」あるいは「エッセイ賞に応募する可能性」くらいにしておきたい。今のところ上がり続けている(であろう)5年後の生存率、その実態を、誰かに依存することなく少しでも前向きなものにするために。


 その「前向きに生きられたらいいねプロジェクト(仮)」の一環として、AIを活用して仕事を効率的に進めて、労働によるストレスを減らしていくことは有効だと思っています。AIによってライターとしての自負こそ失われたものの、結局AIってめちゃくちゃ便利。便利だしすごい。電話が、ワープロが、パソコン通信が、Windows95が、iモードが、Googleが、iPhoneが、LINEが生まれ、普及し、淘汰されたり馴染んでいったりするのを見てきたように、AIもうまく取り入れて付き合っていきたい。こういった文明の利器がもたらす時代の変化を目の当たりにできるのは、普通に面白いなと思います。嘘です。さすがに電話は生まれたときからありました。


 まさにこの記事は、AIのおかげで生まれた余力の産物です。ただ、新しい挑戦のために動けるほどのエネルギーはまだなくて、今はその余力を自分の気持ちを書き出すために使いました。感じていることを吐き出し、推敲しながら整理して、誰かに読んでもらうことで区切りをつけたかったのかもしれません。


 だから、ここまで読んでくれてありがとう。何もなかった、成し得なかった一年でしたが、この先のことはまた改めて考えます。当たり前だけど、生活って死なない限り続くんだよね。困ったものです。


 せめて2026年は、その事実を希望としたい。

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