【17】


「ざっくり言うと、【幻想プラシーボ】っていうものは、噂話みたいなものなんだよ」


 舞台は引き続き、赤神さんの家。

 三人で【坊主頭の幻想プラシーボ】を治療するという意思が揃ったところで、まずは赤神さんに、【幻想プラシーボ】とは何か? を説明している最中である。

 喜田くんにも、再度聞いてもらっておいて損のない話だ。


「噂話って、人から人へ徐々に拡がっていくだろう? そんな風に、【幻想プラシーボ】も拡がっていくのさ。感染源となった、一人の思い込みが――――多くの人へ感染していくことで、思い込みは現実により定着し、より強さを増していく」


 噂話もそうだろう? 広まれば広まるほど、噂の根絶は難しくなる。


「思い込み――すなわち、その幻想を思い込む人が増えるほど、その強さ、範囲は拡大していくんだ。今回の件は、『他者洗脳タイプ』の【幻想プラシーボ】だから、広まれば広まるほど、さも宗教じみた心酔に堕ちてしまう。一人ひとりがね」


「ということは……」と、喜田くんが問いを投げ掛けてくる。


「薄池高校では、既に広まり終えている。すなわち、現在【坊主頭の幻想プラシーボ】は最強の状態ってことですか?」

「いいや? 最強には程遠いよ」

「え? でも、学校内で広まり終えているんですよ? これ以上の拡大のしようが…………え……? もしかして……」


 喜田くんは言ってて、自分で察したようだ。


「喜田くん、恐らく君が察した通りだよ。【幻想プラシーボ】は、学校や職場などのコミュニティを超えて、外にまで波及していく。街や市、県全体、西日本や東日本……最終的には――――


 一国を覆い尽くす」


 この話を聞いて、二人の顔に緊張の色が見えた。

 恐ろしい話だろう。

 本当に手遅れになった場合、日本中の人々が皆――――坊主頭になってしまう。

 理髪店や美容室は皆閉店だ。

 残念ながらこの話は、そういう可能性がある――という甘ったるい予測などではない。

 事実として我が国――日本全体に、現在進行形で掛けられている【幻想プラシーボ】は存在している。

 だからこそ――――【幻想プラシーボ】という病は、はじまったのだから。

 ……話が逸れた。話を戻そう。


「段階的に言うと、この【坊主頭の幻想プラシーボ】は現在……第2フェーズを終えたところ、と見て間違いない。第3フェーズ……すなわち、街や市まで感染が及ぶのも、そう遠くない未来だと考えている。だからこそ、早めの対処が必要なんだ。今ならまだ――――感染源の一人を否定するだけで、自体は終息できるから」


「感染源の一人を否定?」赤神さんが首を傾げた。

「うん」オレは頷く。


「そもそも【幻想プラシーボ】とは、『一人の人間の思い込みが現実になってしまった』からこその病だ。ゆえに、その感染源である大元の思い込みや幻想を、否定してしまえば、【幻想プラシーボ】は終息する」


「なるほど……」赤神さんは頷いた。


 まぁ……第3フェーズ、すなわち街や市レベルで感染が広がると、若干そうもいかなくなるのだが……それは今回、関係のない話だ。

 話は続く。

 赤神さんは言う。


「つまり……感染源の人を探し出すことが、必要不可欠ってことね……。でも、否定っていうのはどうするの? どうやって、その思い込みや幻想を、否定するの?」

「必ずといって良いほど、【幻想プラシーボ】には、そう思い込んだ理由があるんだよ。その理由を把握し、否定するんだ。そうすれば、なし崩し的に、【幻想プラシーボ】は瓦解する」

「なるほどね……」

「さて……ここまで、【幻想プラシーボ】の攻略法を聞いてもらった上で、赤神さんに教えてもらいたいことがあるんだ」

「教えてもらいたいこと?」

「うん……四月――すなわち、あのおかしな校則が立てられた、その時期に――――感染していたであろう人物を、教えてもらいたい」


「なるほど」喜田くんが、その意図を理解した。

 まぁ、これについては、鋭いもなにも、少し考えれば分かることだ。喜田くんならば、気づいて当然と言ったところか。


「感染源……すなわち、ボクたちが倒すべき相手は、ってことだね? つまり、その時期に【幻想プラシーボ】に感染していた人物の中に――感染源の人物はいる、と……」

「そう、感染源の人物は、。そうでなくては、感染源者足りえない」


 少なくともオレは、その足りえない感染源者を一人……知っている。

 知っているが……この一件には何の関係もないはずだ。

 ないはず…………もし、奴が関わっているのだとすれば、大事だ。

 大問題中の大問題だ。

 大事件だ。

『幻想現象対策部隊』を総動員して、迎え撃つ必要がある。それほどの。

 まぁ……そんな訳は、ないだろうけれども。

 話を戻そう。


「だから教えてくれ、赤神さん。君の分かる範囲でいい、当初感染していた人間を、片っ端から教えてくれ! きっとその人たちの誰か……もしくは、その近しい人の傍に――――感染源はいるはずだ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月13日 22:00
2026年1月14日 22:00
2026年1月15日 22:00

幻想プラシーボの治療〜坊主頭の奇妙な校則〜 蜂峰文助 @hachimine

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ