【10】


 木之下きのした 凛子りんこ――

『幻想現象対策部隊』の副隊長であり、オレの相棒でもある女性。

 オレの幼馴染でもあるのだが、それはまた後で説明することにしよう。

 彼女はオレと違って、現場に出て来たりなどはしない。裏方専門だ。

 現場で集めたオレの情報を元に、パソコンなどあらゆるICTを活用し、情報を集めるのが、彼女の仕事だ。

 いくら現場で情報収集を行っても、辿り着けない情報はある。


 例えば……個人情報。

 名前や年齢、性別、仕事の有無や、住所――表立った情報については、オレがあれこれ手を回して、危険を伴った上で情報を集めることはできる。

 けれど、情報を集めるべき相手の生活歴や価値観――深層心理の深いところや、家庭環境や生活環境などの深いところまでは、対人同士の関係では全てを知るのは不可能だ。

 その不可能を可能にするのが……彼女――木之下 凛子――オレの相棒の仕事なのである。

 日本政府や警察、あらゆるネット情報に干渉できる権利を持つ、情報収集のスペシャリスト。

 それが、木之下 凛子というオレの相棒なのである。


 表ではオレが動き。

 裏から凛子が動く。


 表裏一体のチームワークで、【幻想プラシーボ】を追い詰めていく。

 それがオレたちのやり方だ。

 オレたちの戦い方なのだ。

 そしてこれは、何もオレたちコンビだけに限った話ではない。

『幻想現象対策部隊』は、二人一組ツーマンセルが絶対条件なのである。

 片方が、オレのように表で動き。

 もう片方が、凛子のように裏で動く。

 表裏一体のスタイルは、オレたちの間だけでなく、『幻想現象対策部隊』のスタイルとも言える。

 一人では戦えない……。

 だからこそ、力を合わせて【幻想プラシーボ】を討つ。

 それが――『幻想現象対策部隊』の基本理念だ。


『とは言っても……約束を気軽に破られちゃあ、こちらも手を貸す気が吹っ飛んじゃうのよねぇ……はぁ〜……』

「まだその話続いてんの!?」


 もうその話は終わっただろう……オレが高い焼き肉を奢るってことで、話がついたはずだ。


『まぁ、冗談はともかくとして』

「お前の冗談……重いよ」

『そんなパッと見ヘトヘトになってるくらいだから、それなりに情報は得れたのでしょう?』

「え? 分かる? ヘトヘトなの」

『バレバレよ。顔がいつもよりもブサイクになっているわ』

「元々ブサイクとも取れる言い方はやめてくれ……」


 さてさて、雑談はここまでにして、本題だ。

 仕事の話をしよう。


「【坊主頭の幻想プラシーボ】については、学校内では既に、根強く定着してしまっている。このまま外へ影響をもたらすようになるのも、そう遠くない話だと思う」

『でしょうね……早急な対応が必要だわ。それより、喜田くんとはコンタクトは取れたの? 彼がいるからこそ、あなたを学校に潜入させた訳なのだけれど』

「ああ、無事コンタクト取れたよ。都市伝説マニアでさ、オレの正体とか話したら、目を輝かせながら協力してくれるってよ」

『ふむふむ、想定通り。ここまでは順調……と言ったところかしら?』


 話ながら、カタカタとパソコンのキーボードを叩く音が聞こえてくる。

 どうやら、定時報告の記録を打っているようだ。電話しながら。器用な奴。


「まぁそうだな。なかなか頭の回る子でな、喜田くん。途中、学級委員長に詰められそうなところを、助けて貰っちまったよ」

『……助けてもらった……? 一高校生に? あなたが……?』

「ああ。アレがなければ、本当にオレ、死んでた可能性もある」


 いやぁ〜、あの時は正直ビビった。

 感謝してもし切れないくらいだぜ。


『……あなたが……ふぅ〜ん……』


 ん? 何だ? その意味ありげな相槌は。


『だけど分かってる? 今回のような、『洗脳系』の【幻想プラシーボ】潜入捜査の場で居合わせた一般人の協力者に、自分の正体を明かすというのは、相当リスキーな行為よ? もし、その協力者が洗脳に落ちてしまった場合、相手に自分の正体が筒抜けになってしまうもの』

「当然だ、それに対するリスクヘッジはしてる。洗脳されそうになった際に起こり得る兆候……頭がボーっとしてきたり、脳内にモヤが掛かった状態になったと、ほんの少しでも思った際には、例え授業中であろうと早退し、今後は登校を控えることを説明してる。本人も納得してくれた」

『ふむ……まぁ、最低限のリスクヘッジはしてるのね。だけど、結局はそれって、喜田くんの意思に依存している策ではあるから、その辺が心配ね』

「心配性だなぁ……凛子は」

『あなたの考えが浅すぎるのよ。この前の潜入捜査の際、同じような展開で、失敗して窮地に追い込まれたのを忘れたの?』

「今回は大丈夫だって。喜田くんは賢いから」

『都市伝説マニア……なのでしょう? 彼が興味本位で、噂の幻想プラシーボに感染してみよう、なんて思う可能性もゼロではないでしょう? 知識欲って、人を時に暴走させるもの』

「そうなった時は、そうなった時だ。オレとしても、そのケースは想定しているし、釘を差した上で、本人にも了承を得ている」

『了承……? 何の?』

「喜田くんの幻想プラシーボ感染が確認できた瞬間――――彼の身柄を拘束する、という了承だよ」

『マジ?』

「ああ……マジだ。ほら、契約書も貰ってる。本人の直筆サイン入りだ」


 オレは鞄から、その契約書の紙を取り出し見せる。


「必要なら、筆跡鑑定もしとくか?」


『うわぁ……』散々、色々な角度から心配だと言っておきながら、いざオレが取っている対策を公表すると、ドン引いた表情を浮かべる凛子。


『容赦ないわね、あなた……人の心はないの?』

「人の心があるからこそ、だろう? さっきお前が言ったように、都市伝説マニアとしての知識欲から、そういう行動に喜田くんが出る可能性も、十二分に考えられる。そして前回、オレは似たケースで失敗しているんだ。対策するのは当然だろう?」

『まぁ……そうは言ったけど……』

「オレがすべきことは、一高校生と仲良く探偵ごっこをすることじゃない――――【坊主頭の幻想プラシーボ】を解決することなんだよ。その為になら、オレは鬼にでも、悪魔にでもなるさ」


『…………はぁ……』スマホ画面の中で、凛子は額に手を置き、ため息を吐いた。


『何か……【幻想プラシーボ】解決のためなら、私のことも平気で切り捨てそうね……あなた』

「解決のためなら、言われるまでもなく、そうする。だけどその代わり――――その後、必ず助ける。必ずな」


『…………』ほんの少しの無言の後、フッと凛子は笑った。


『そ……なら良いわ』


 そこから、オレと凛子は、幾つかの情報のやり取りをした。

 十五分程度の情報交換。

 本日の定時報告は、まとめに入る。


『オッケー……では明日、学級委員長の倉持水地さんの情報について詳しく集めておくわ』

「うん、頼んだ」

『担任の先生……狩野紙子さんは調べなくて良い?』

「あー……あの人はいい、恐らく、ただの天然さんだろうから」


 朝の転校生紹介のシーンを思い出す。

 うん、天然だ。

 ああいう先生がいると、学校生活楽しいだろうなぁ……。

 その倍以上の不安が生まれるだろうけれど。


『天然ねぇ……ある意味では厄介よね? 捜査を引っ掻き回されるのって、決まってこういうタイプが原因だもの』

「だよな……まぁ、凛子が気になるってんなら、簡単に調べておいてもらっても良いぞ」

『了解』

「よっしゃ、じゃあ、今日の定時報告はこんなもので良いか? さっきも言った通り、オレ、疲れてんだよ。さっさと風呂入って眠りてぇ」

『あ、最後に一つだけ良いかしら?』

「何?」

『明日、どう動くつもりなの? 具体的な捜査行動があるのなら、教えといて欲しいものなのだけれど』

「ああ、明日はな、喜田くんからちょいと、面白い情報が入ったから、その情報について、動こうと思ってる」

『面白い情報……?』


「ああ――――薄池高校には現在……一人の不登校生徒がいるんだとさ」

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