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◇◇◇




文化祭開始後、一般公開が始まったと同時に来客が校舎の中に押し寄せてきた。


今年は賞金が掛けられているだけあって、注目度がかなり高く、例年よりも圧倒的に人が多い気がする。


来る客は大体柄の悪い人達ばかりだけど、中にはまともな学生もちらほらいるので、もしかしたら美南の言う通り、今回はかなり期待出来るかもしれない。



「それにしても、なんで急に?今まで彼氏欲しいなんて一度も話したことなかったじゃん」


店番の時間になるまで私は美南と校内を回りながら、ふとそんな疑問をぶつけてみる。


「まあ、確かに始めはそこまでじゃなかったよ。でもさ……」



「莉子!」



その時、前方から私の名前を呼ぶ声が聞こえ、振り向くと、そこには黒色タキシードに黒ネクタイ姿の櫂理君が笑顔でこちらに駆け寄ってきた。


「櫂理君、執事コス似合ってるね。凄く格好良いよ」


その姿に惚れ惚れしながら、私は手を広げて彼の抱擁を快く受け入れた。


こうして、今では公衆の面前でイチャつくことも厭わなくなり、最近は自らも積極的にスキンシップを取っている。


それが良いのか悪いのかよく分からないけど、日に日に櫂理君の好き具合が増していき、自分でも抑えることが出来なくなってきた。



「……くそ。リア充が」



すると、突如脇から舌打ちと共に、美南の低い呟き声が耳に入り、私はビクリと肩を震わせる。


「いいよねー莉子は。中身はさて置き、イケ散らかした弟君に愛されまくって。それを毎日見てるとさ、こっちも段々やさぐれてくわけよ」  


そして、これまでは呆れながらも微笑ましく私達を眺めていた美南の顔が、今日は酷く歪んでいた。


「あ?なんだお前。俺らにひがんでんの?そんなんで彼氏なんか出来るわけねーだろ」


「櫂理君、言葉の暴力が酷いよ」


それなのに、平然とした顔で挑発的な態度を取る彼の暴挙を、私は即座に制した。



「それより、櫂理君はこの時間まだ店番じゃないの?ここに居て大丈夫?」


確か、今朝見せてくれた当番表では朝一から当たっていたような気がしたけど……。


「なんか見せ物にされて疲れたから、莉子に癒されに来た」


そう言うと、櫂理君は眉間に皺を寄せながら深い溜息を一つ吐く。





「おい。客寄せパンダがこんな所で油打ってたらダメでしょ」


その時、前方からドスの効いた声が聞こえてきた瞬間。


突然櫂理君が私から勢いよく剥がれ、何事かと視線を向けると、そこには彼の首根っこを掴みながら闇深い笑顔を浮かべている圭君が立っていた。


「別に俺じゃなくても圭が居れば十分じゃねーかよ。もう女共に囲まれるのは嫌なんだ!」


すると、まるで駄々をこねるように櫂理君は何とかその場に留まろうとする。


「そんなんで賞金獲れるわけないでしょ。いいから、さっさと戻るよ」


けど、圭君は容赦なく櫂理君をそのまま引き摺り、教室へと引き返した。



あの櫂理君を片手一つで従わせるのは、おそらくこの学校内では圭君しかいないと思う。


そんなことを切実に思いながら、折角なので櫂理君達の出し物を見に行こうと、私達もこのまま彼等に付いて行くことにした。







「………え。凄すぎ……」


そして、教室の前に辿り着くと、そこには秋葉原顔負けの西洋調な執事&メイドカフェが出来上がって、思わず感嘆の声が漏れる。


内装はまるでお屋敷の一室を再現したように、赤色のカーテンと絨毯が引き詰められ、真っ白なクロスが掛けられたテーブルの上には可愛らしい花瓶とマグカップが置かれていた。


他にも、壁には絵画が飾られていたり、一体どこで手に入れたのか。天井には立派なシャンデリアが吊り下げられていたりでかなり本格的。


その中で、一際異彩を放つ執事コス姿の櫂理君と圭君。


彼等の周りには尋常じゃないくらいの女性客が群がり、用意された白いソファーの前で無数のフラッシュが焚かれている。


そして、その脇にはちゃっかりと撮影料千円という、なかなかにエグい金額か書かれていて、思わず二度見してしまった。



「流石だわー。でも、確かに暴力行為を封じられている最強コンビを好き勝手に出来るのは、この時しかないかも。あたしも写真撮ろうかな」


「一回千円だけどいいの?」


すると、何やら惹きつけられるようにふらりと撮影の列に並ぼうとするので、私は冷静に突っ込んでみた。


というか、この数だったら百万円狙わずとも、売上だけでかなりの額が見込めそうな気がするけど……。



それにしても、これでは櫂理君が逃げ出したくなるのも無理はないと思う。


いくら賞金のためとはいえ、こんなにフラッシュを焚かれたら誰だって嫌な気分になる。



…………というか。



私だって執事コスの櫂理君撮りたいのに。


文化祭とはいえ、知らない女の子達ばっかり櫂理君を撮っているのは、何だか見てて悔しくなる。



家に帰ったら、もう一回執事コスしてくれないかな……。



相変わらず凄まじくモテる彼等を、側から見守りながら内心そんなことを目論んでいた時だった。




「ねえ、君達可愛いね」


突然背後から声を掛けられ振り向くと、そこには他校の制服を着た、いかにも好青年らしい高校生男子二人組が立っていた。


「ここは女子が殆どいないから全然期待してなかったけど、君達みたいなレベル高い子もいるんだ」


そして、爽やかな笑顔を振り撒くのは、うちの学校では絶対にいない小麦肌をした短髪のスポーツマンみたいな人。   


顔はそこそこにイケメンで、軽い感じはあるけど、そこまでの嫌悪感を抱かないのは、この屈託のない笑顔が要因だからか。

私はもの珍しさに見入ってしまい、暫くその場で立ち尽くす。



「お前ら死にたいのか?」


すると、不意に私達の脇から長い腕が伸びてきた途端。

今にも人を殺めそうな目を向けながら、櫂理君は男子生徒の胸ぐらを掴んできた。


「櫂理君ダメ!」


間髪入れず私は慌てて彼の背中に抱き付くと、怒りのボルテージが一気に下がったのか。

呆気なく男子生徒から手を離してくれた。


「せっかくの美南の出会いを邪魔しちゃダメだよ。だから今日は我慢してくれないかな?お家帰ったら、いっぱい甘えていいから」


そして、こっそり耳打ちすると、険しかった櫂理君の表情は段々と緩み始めていく。


「約束だからな」


しまいには、目を輝かせながら笑顔を向けてきたので、一先ず私は胸を撫で下ろして首を縦に振った。



「あの、私達はBAR風カフェやってるので、もし良かったら遊びに来て下さい」


それから気を改めて。


美南のために勇気を振り絞り、宣伝も兼ねて男子生徒に笑顔で用意していたビラを配る。


「ほら美南も。絶好のチャンスだよ?」


一方、先程から全く反応がない彼女を不思議に思いながらも、さり気なく促してみた矢先だった。


「来たけりゃどーぞ」


興味など1ミリもないといった表情で、なんとも雑な扱いをしてくる美南。


「そ、それじゃあ気が向いたらということで」


その空気を読んだ男子生徒は苦笑いを浮かべながら、逃げるようにこの場を離れて行ってしまった。




「…………あの、美南さん?さっきの人達それなりに良い感じだったと思うんですけど」


まさかの自らチャンスを潰すという事態に驚きを隠せない私は、恐る恐る彼女の顔を覗いてみる。


すると、突然勢い良く肩を掴まれ、思わず軽い悲鳴を上げてしまった。


「どうしよう莉子。櫂理君達の顔に見慣れてしまったせいか、そこらの男子が芋にしか見えない」


「…………え?」


そして、至極真面目な顔で何とも残酷な事を言ってのける美南に、私は目が点になる。


「確かに今の二人は全然悪くなかったけど……ダメだ。櫂理君と肩を並べると、どうにも彼等が視界に入ってこない。ねえ、どうしてくれるの!?」


「は?俺のせいか?」


それから、言われた通り大人しく隣で静観していた櫂理君に食ってかかる美南さん。


「まあ、そんなに焦らなくてもまだ文化祭は始まったばかりだし、じっくり探せばいいんじゃない?」


そんな荒れ狂う美南を宥めるように、いつの間にやら脇に立っていた圭君は、穏やかな笑みを浮かべながら美南の頭を優しく撫でる。


「それなら圭君が私と付き合ってよ。この際年下でも全然ありだから」


「うん。絶対無理」


その流れで優しい言葉を返してくれるのかと思いきや。

満面の笑みで清々しい程バッサリと切り落としてきた圭君には、相変わらず恐れ入る。


それから私達は櫂理君達と別れ、お店のビラ配りついでに美南の出会い探しの旅を再開させた。

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