2
一日の授業が終わり、掃除の時間になると、私達は机を後ろに下げて各々分担場所へと移動する。
私はこの時間が一番大っ嫌い。
だって、同じ班には私をいじめてくる人達がいるから。
私の席から斜め向かいに座る庄田君。
この子はクラスの中で一番体が大きくて力が強い。
そして、少しエッチで女の子のお尻を触ったり、スカートを捲ったりでやりたい放題。
そんな彼に敵う人は誰もおらず、いつも周りには庄田君の子分みたいな人達に囲まれている。
だから、私は極力関わらないようにしていたのに、何故か彼に目をつけられてしまい、物を隠されたり、体を触られたりして毎回嫌がらせをしてくる。
特に、先生の目が届かないこの掃除の時間が一番酷くて、私はいつも怯えていた。
「なあ、宇佐美。もしかして胸大きくなった?」
今日は一体何を言われるのかビクビクしていたら、開口一番にセクハラ発言をされ、私は思わずその場で固まってしまう。
「ちょっと確かめさせろよ」
それを良いことに庄田君は私の背後に回り込むと、後ろから抱き締められ、胸を揉み始めた。
「や、やだ。離してよ……誰か、止めて……」
必死で助けを求めるも、他の男子達は面白おかしく囃し立てて、女子達は怖くて逃げ出してしまった。
ここは体育館の裏側だから、人は滅多に来ないので誰も気付かない。
もう諦めるしかないと。
私は涙を溢しながら、そう心中で嘆いた時だった。
「……っぐ!」
突然庄田君の短い呻き声が聞こえ、動いていた手がぴたりと止まる。
一体何が起きたのかと後ろを振り向いた途端、思わぬ人物が視界に映り、私は目を丸くした。
「てめえ、なに莉子の体触ってるんだ?」
そこには鬼のような形相をしながら、庄田君の首を腕で締め付けている櫂理君の姿。
その力はかなり強いのか、あの庄田君がビクともせず、どんどん顔が白くなっていく。
「か、櫂理君!腕離してあげて!」
そのうち泡まで吹き始めてきたので、危機感を抱いた私は慌ててそう叫ぶと、言われた通り櫂理君はすんなりと庄田君から手を離した。
「なんだお前……宇佐美の弟か?随分、舐めた真似してくれるな?」
それから暫く咳き込んでいた庄田君は、ようやくまともに呼吸が出来るようになると、櫂理君を睨みつけて彼の前に立ちはだかった。
「チビのくせに、上級生に手を出そうなんて生意気なん……」
そして、負けじと拳を振り上げた直後。
振り下ろすよりも先に櫂理君の拳が庄田君の右頬に入り、その勢いで彼の体は壁まで吹っ飛んでいった。
その状況に周りが騒然とする。
私も信じられない光景に開いた口が塞がらなかった。
目の前いるのは私の知っている櫂理君じゃない。
取り巻く空気が普段の姿からでは想像出来ない程殺伐としていて、誰も近寄ることが出来ないくらい怖い。
そうこうしていると、櫂理君は倒れた庄田君の髪の毛を掴み、無理やり立たせてから彼のお腹に強い膝蹴りを喰らわせた。
そして、よろけたタイミングで今度は回し蹴りをして、次から次へと攻撃を繰り出す姿はまるでサウンドバックを叩いているよう。
「や、やめろ……。もう、やめてください……!」
明らかに小学三年生の動きではなく、全く櫂理君に歯がたたない庄田君は涙を流しながら懇願することしか出来ない。
「櫂理君ストップ!もう止めてー!」
始めは日頃の恨みでただ静観していたけど、このままでは本当に庄田君が死んでしまいそうな気がして、私は慌てて櫂理君の体に飛びついた。
すると、櫂理君の動きがぴたりと止まり、ようやく庄田君から離れてくれた。
「莉子、大丈夫か?」
「う、うん。それよりも早く庄田君を保健室に連れてってあげよう」
「あの豚はそのまま転がせておけばいいだろ」
それから、いつもの櫂理君に戻ると、私の頭を優しく撫でながら酷い言葉を平然と口にする。
「櫂理君なんで急にそんな強くなったの?もしかして、最近帰りが遅いのって……」
「友達に誘われてボクシングジム通い始めた」
もしやとは思っていたけど、まさかそんな所に行っていたとは。
満面の笑みで答えてくれた彼の斜め上な回答に、私は暫く言葉を失った。
「だってお金は?お父さんもお母さんも知らないよね?」
「友達のついでに教えてるからタダでいいって。だから、これで莉子を守れるし、約束も守れるぞ」
そう自信満々に断言する櫂理君は、とてもキラキラ輝いていて、年下なのに凄く頼りに思えて、一瞬心を奪われそうになった。
それから、私達は庄田君を保健室に連れていき、これまでの経緯を先生に話すと、二人とも厳重注意で終わった。
この話は瞬く間に学校中に知れ渡り、私達の間でスーパーヒーローとなった櫂理君は学校内で一番の人気者となった。
そして、これを機に庄田君は私に一切手を出さなくなり、平穏な学校生活を迎えることが出来るようになったのだった。
__今思えば、あの時が始まりだったかもしれない。
私を守ると言って、”怪我をしない”という約束を口実に、櫂理君はどんどん強くなっていって。
今ではこのヤンキー校において最強で最恐な存在となった。
誰よりも怖くて、誰よりも頼りになって、誰よりも格好いい、私のたった一人の大切なボディーガード。
きっと、この時から私はもう彼に絆されていたのかもしれない……。
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