謹賀新年 言祝ぎ隊
海山みどり
第1話
僕の家。やっとお金を貯めて手に入れられた僕の大事な居場所。誰にも嫌みを言われず、毛布を取り上げられることもなく、お前は台所の隅っこで火の番をしながら眠れと固い床の上で寝ないで済む。
フワフワネズミさんが引っ越し祝いにくれた抜け毛を詰めて作った大きいクッションに身をゆだねる。柔らかくて最高。今日はもう眠よう。
ピンポーン チャイムの音がする。
A happy new year !
あけおめ!
ことよろ!
ヤバイ奴がきた。僕は急いでドアをしめようとしたのに、大きな茶色の靴を素早く差し込まれてしまった。
不動産屋さんが家の鍵を引き渡してくれたとき、僕に気になることを言っていた。
「ここはあわいのぎりぎり近くだからねえ。でも大丈夫。大抵のことはたいしたことがないですよ」
怖い。僕はいつもの呪文を唱えた。
「僕はちっぽけです。無力です。なんの役にも立たないし。お金はないです。関わるだけ不愉快になりますよ」
これでみんな近寄ってこないはず。でも足は大きいのに体は一本の長い棒のような三人組は僕の家にずかずか入って来た。
僕のクッション以外は最低限の暮らしのもの、焦げた鍋とねじ曲がったしゃもじ、あちこちが欠けたお皿とコップ、苦労して作ったひねもずもずの木のスプーンを見て三人組は明らかにガッカリしている。ああ、だから入って欲しくなかったのに。早く帰って欲しい。
でも考えたら初めてのお客さんだ。僕は上司の規律にうるさいさんが教えてくれた引っ越しした人の常識の「おもてなし」をすることにした。
年越しのごちそうの浮かれ草スープを三人に分けた。一人はコップ、一人はお皿、一人はしゃもじ。食器が足りなくてごめんなさい。床だと悪いので寝る用のクッションに座って貰う。
「「「いろいろ微妙だが。うまい。クッションも良い! お礼じゃ」」」
A happy new year !
あけおめ!
ことよろ!
三人組は踊りながら歌っている。ちょっと声が大きすぎるから節の変わり目にドキドキしてしまう。
「とっても素敵でした」
僕は精一杯の拍手をしたが三人組は悲しそうな顔をしている。
「「「喜びが足りぬ。わしらはやっぱり時代遅れかのう。小さき者の仕方がないから感謝しているフリの笑顔と拍手が辛い」」」
「ええええ」僕の伝え方が悪かったのかなあ。
「最高でした」「超絶至高」「世界一の歌声と踊り!」
ちょっと嬉しくなったような顔をした二人に質問された。
「言祝がれたか?」
「わしらは古くはないよな?」
質問の意味がわからないけど「はい」と答えた。
「よし。まだまだ「あけ」「HNY」「おめす」の奴らには負けん」
黙っていた一人が叫んだ。
「そうですよ」「僕らはまだまだ定番」「負けないぞ」
三人組は元気になったようなので、僕は言いにくいことを伝えることにした。
「あの、明日は大晦日で買い出しや掃除が忙しいのでもうお帰りいただけないですか。それと今日はまだ30日で年越しの夜は明日ですよ」
でも三人組に僕の言葉は言い終わる前に叫びだした。
「よし、決めた、寂しそうな顔をしたちびっこいつまらない者よ。一緒に言祝ごう。わしらと一緒に家々を回って言祝げば、少しは幸せが増えるだろうよ」
「よし! 幸せは伝えてこそ。伝え尽くそう!」
「よし! 出発じゃ!」
「えええええ」僕の悲鳴に一人が僕を抱えて空に飛び出したを止めてくれた。
「すまなかった。施錠が大事だな。ドアに10年開けられずの呪文を唱えておいたから安心せよ」
こうして、僕は三人組の言祝ぎ周りに付き添うことになった。
どうしても彼らは聞いてくれないので、
「年越しの夜にはまだ早いですが、お祝いは早い方が効果大です」と訪問されて吃驚している家々の人達に伝えることにした。
31日が過ぎて三人は日にちの勘違いに気が付いた。
僕は間違いに気が付いて落ち込む三人組を励ました。
「今日が本番で、昨日はスペシャルなおまけだったんです。もう一度頑張りましょう!」
A happy new year !
あけおめ!
ことよろ!
せっかくなので僕も言祝ぎに混ぜてもらった。
踊って大声でことほぐ。
ご多幸をお祈りします。
下手なダンスが笑われてるけど、めちゃ楽しい。
皆様の今年一年の幸いを心からお祈り申し上げます。
蛇足
三人組は精霊の一種、言霊です。もう時代が違うからと周囲に説得されても「ことほぐ!」と祝い隊を結成して無茶をしております。
最初は言葉だけだったのですが、受けが悪いので、踊り出したそうです。
主人公はその後10年開かない術は解いてもらい無事帰宅。楽しかったのでまた来年も参加を約束したそうです。
謹賀新年 言祝ぎ隊 海山みどり @idonokawazu
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