異世界転生は監獄の中で

昼月キオリ

異世界転生は監獄の中で

♦︎B


B3369

それが、篠崎絵麗波しのざきえれな(17)に与えられた名前だった。


檻はアルファベットごとに区画され、

鍵の部分には木製の札がぶら下がり、

雑に刻まれた「B」の文字が歪んでいる。


同じ檻の中には、

女が三人、男が二人。


年齢も、雰囲気も、国籍すらバラバラに見えたが、

全員の足首や手首には重い鎖が付けられていた。

互いの名前を知らない。


それでも、彼らは不思議と穏やかだった。

国籍は違うのに言葉が通じる。それは救いだった。


一つの皿に盛り付けられた食事を五等分し、

体調の悪い者がいれば毛布を譲り、

夜になると互いに小さな声で話をした。


ここではそれが「贅沢」だった。


彼らは口を揃えて言った。


「俺たちは、冤罪だ」


理由も、裁判も、説明もなかった。

ただ気づいたらここにいて、番号を付けられた。


私は彼らと過ごすうちに、

この監獄が罰の場所ではなく、

管理のための檻だと気付き始めていた。





♦︎

ある日、私たちは外に出された。


理由は分からない。

誰も説明しない。


連れて行かれた先で、

意味のない拷問が始まろうとした瞬間、

身体が勝手に動いた。


走った。

息が焼けるほど走った。


異世界にいるはずなのに、

走る目の前に見慣れた道が広がる。


気付けば、自分の家の前に立っていた。



鍵を開け、扉を閉め、

背中をドアに押し付けてようやく息を吐く。


しかし、

部屋の奥に、白い化け物が立っていた。


ギョロギョロとした目、牙、天井につくほど大きな体。

目が合った気がして、私は反射的にトイレへ逃げ込んだ。


便器の水面を見た瞬間、

そこに映ったのは・・・

檻の中の、あの四人。


縛られ、痛めつけられ、

声も出せないまま壊されていく映像。


胸が締め付けられた。


私は走った。

もう一度、監獄へ。


自分から、檻の中へ入る為に。




♦︎

途中、人々の列に紛れ込み、元いた場所へ戻る。


そこには、

何事もなかったように座る四人がいた。


1「逃げれたと思っていたが捕まっちまったか」


2「大丈夫だったか?」


いつもと同じ声。

いつもと同じ距離。


私は震える声で告げた。


「ごめんなさい。私、逃げたの」


沈黙。


1「じゃあ、何で戻ってきた?」


「あなたたちが・・・ひどい目に遭ってるのを、幻覚で見て・・・」


一人の女性が、肩をすくめる。


3「あらあら、飛んだお人好しね」


4「本当本当」


その言葉に、

私は少しだけ、救われた気がした。




♦︎D


D区画は、空気が違った。


血の匂い。

威圧。

支配。


全身刺青の男たち六人と、

そこに紛れ込んできた一人の女。


ミルキー「ねぇ、私とエッチしない?」


その声は甘く、軽く、

まるでここが監獄ではないかのようだった。


囚人1「は?・・・」


囚人2「お前誰だ?」


ミルキー「私はミルキーよ、よろしくね」


囚人3「その名前、知ってるぜ。中がめちゃくちゃ良くて吸い付くように搾り取られるってな。」


囚人4「まじ?ラッキー!」


囚人5「美人だしスタイルもいいし、早くこっちに・・・」


囚人6「バカ、この女だけは辞めておけ。」


囚人5「何でだよ!?」


囚人6「いいから。とにかくあの女と喋るな。」


囚人5「分かったよ・・・」


ミルキー「・・・」


女はいきなり壁を素足で蹴って破壊した。


しーん・・・。


囚人6「ミルキーさん。俺たちはここで静かに暮らしてるんだ。邪魔しないでくれ。」


ミルキー「女がここまでしてるって言うのに、失礼ね」


ミルキーはぷりぷりしながらその場を去って行った。


囚人5「なぁ、何であの女だけは辞めておけ、なんだ?」


囚人6「ミルキー、別名コブラ」


囚人4「コブラ?」


囚人6「確かに、ヤってる時は良いらしいがな。ヤベーのはその後。

すぐに毒が回って激痛の中、のたうち回りながら死ぬって話だ。」


囚人3「毒ってそんなもんどこから?」


囚人6が自分の腹を指差す。


囚人6「腹ん中だよ。」


ミルキーはただの看守。

しかも、根っからの男好きだ。


厄介なのはその美貌から男たちが誘惑に負けてしまうこと。

監獄の中で男たちを誘惑しては腹の毒で何人も殺してきた。


腕力、脚力もずば抜けていて大抵の男じゃ太刀打ちできない。


一度OKを出したらあの世行きのチケットを手に入れたも同じ。


公には出ていないが、監獄の中に内通者がいて俺はそいつから情報を得ている。

それが許されているのは彼女のその美貌と話術。


監獄とは名ばかり、だな。

 

監獄は、

正義の場所ではない。


生かす者と、殺す者を

都合よく選別する箱だ。





♦︎

そして私は、

また貧血を起こした。


「「大丈夫!?」」


私を心配してくれる四人の声が遠くなっていく。



♦︎

次に目を覚ました時、

そこは学校の保健室だった。


白い天井。

消毒液の匂い。


「篠崎さん、具合どう?」


保健の先生が心配そうにこちらを覗き込む。


「はい、もう大丈夫です。すみませんでした。」


「無理しなくていいのよ?」


「今は良くなりましたから。」


全部、夢だったのだろうか。


分からない。


でも、

あの四人の顔だけは、

はっきりと浮かんだ。


助けられなかった。

それだけが、胸に残った。


病院に行って貧血が治ったらもう会えないかもしれない。

探そう。彼らを監獄から救う方法を。


私は立ち上がり、

教室へ向かった。


真っ直ぐに。

前を向いて。


次に倒れた時、

私はまた、あの監獄へ行く気がするような気がした。

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異世界転生は監獄の中で 昼月キオリ @bluepiece221b

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