シュロイのしっぽ
シュロイ
シュロイのしっぽ
🌻なつの しっぽ
シュロイは ねこです。
しろくて くろくて、
ちょっと ふきげんです。
なつは そんなに すきでは ありません。
あついし、セミもうるさいし、
すいかは まあまあです。
でも、きょねんまでは
なつが すごく すきでした。
だって――
ひまわりのひとに あえるから。
そのひとは
まいとし なつにだけ
ひまわりの おかに あらわれて、
やさしいこえで いってくれました。
「シュロイ、また、あえたね。」
シュロイは ぶすっとしながらも、
しっぽを ふっていたのです(たぶん)。
でも ことしの なつ。
ひまわりのひとは きませんでした。
なんで こないんだろう。
まちがえたのかな?
ちがう おかに いったのかな?
それとも……
ぼくのこと、きらいになったのかな……
しずかに すわっているだけなのに、
しっぽのさきが そわそわ うごいて、
こころのなかが
ざわざわ してきました。
「まっていれば、くるよね……?」
「きっと、くるよね……?」
でも、そのこえは
なかなか きこえてきませんでした。
ひまわりは さいているのに、
たいようも かぜも おなじなのに、
そのこえだけが
どこにも ないのです。
シュロイは かんがえました。
「いなくなったって、どういうこと?」
「いないけど、いるってこともある?」
「すきだけど、さびしいのは、へんなこと?」
「ぼくは、なつを すきのままで いいのかな?」
シュロイは しっぽを まいて
ひまわりの かげで うとうとしました。
(……べつに、べつに、まってるわけじゃ ないし。)
そのとき――
ひまわりの はなびらが、
ふわっと あたまのうえ に おちました。
なんだか、その ぬくもりが、
ひまわりのひとの てみたいで、
シュロイは おもわず つぶやきました。
「……また、あえたね。」
そして シュロイは きめました。
「これからも なつは
すきってことに しよう。
さびしいけど、
すきは すきのままで
いいことに する。」
🍂あきの しっぽ
シュロイは ねこです。
しろくて くろくて、
ちょっと ふきげんです。
あきは、かぜが すずしくて きもちいいけれど、
おちばが くっつくのが めんどうです。
かさこそと、あしもとで おちばが ゆれて、
そらは、しろが まじった あおで、
やさしく ひかっていました。
あるひ、しずかな こみちで
シュロイは ちいさな とりに であいました。
つばさを いためているのか、
うごかずに、ふるえていました。
シュロイは ぶすっと したまま、
ちいさな とりの そばに すわりました。
なにも いわずに、ただ いっしょに。
(べつに、しんぱいしてるわけじゃ ないし。)
ちいさな とりは かすかな こえで つぶやきました。
「すこし さむくなってきたね。……でも、あなたが いてくれて よかった。」
いくにちか、ふたりは いっしょに いました。
しっぽが すこし ふれるくらいには、
あんしんしていたのかもしれません(たぶん)。
き のうえから ぽとりと おちる はっぱの おと が、
ときどき、シュロイの こころを つつきました。
シュロイは かんがえました。
「ことばって、いわなくても とどくことある?」
「どこにも いないのに、どこかに いるような きがする」
「もっと なかよくなりたいって、おもうのに……」
「そのきもちを どうして うまく いえないんだろう?」
あるあさ、かぜが きもちいい ひ に
ちいさな とりは つばさを ひろげました。
「もう とべるかも。……ねえ、しゅろい。
わたし、いくね。ありがとう。」
とりは ひらりと とびたち、
しろっぽい あおぞらに とけていきました。
そのとき――
どんぐりが ぽとんと、シュロイの せなかに おちました。
ころころと すべってきた どんぐり は、
ちいさな とりの「ありがとう」の かわりかもしれません。
シュロイは おもいました。
「さよならって、さびしいだけじゃない。
すきだったって、きもちを おもいださせてくれるから。」
すこし つめたい かぜが、
そっと、しっぽを なでていきました。
❄️ ふゆの しっぽ
シュロイは ねこです。
しろくて くろくて、
ちょっと ふきげんです。
ふゆは しずかすぎて、さびしすぎて、
ひとりぼっちの ような きもちになります。
そらは ひくく、しろく かすんでいて、
かぜは、こえさえも つれていってしまうようでした。
あるひ、こうえんの すみに
たれめの おおきな おおきな ゆきだるまが たっていました。
にこにこしていて、なにも いわないけれど、
なんだか あたたかいような きがしました。
シュロイは まいにち、
ゆきだるまの ところへ いきました。
とくに なにを はなすでもなく、
ただ、いっしょに いました。
(……あいたいとかじゃ ないし。)
ゆきだるまと いっしょに いるあいだ、
ときどき シュロイの しっぽが、
そっと ゆきだるまに ふれていました(たぶん)。
ゆきの なかに すわっていると、
シュロイの せなかに そっと おちてくるのは、
しずかな ゆきの おと。
それは、だれかが ちいさなこえで
「ここにいるよ」と いっているようでした。
シュロイは かんがえました。
「なにも はなしを しないのに、いっしょにいるって へんかな?」
「こたえが なくても、たいせつって おもっていいのかな?」
「けせないのに、きえていくって どういうこと?」
「さびしいのに、あたたかいって、へんなきもち……でも、きらいじゃない。」
あるよる、ゆきが しずかに ふってきて、
シュロイの はなさきに ふわっと ふれました。
それは つめたいのに、なぜか あたたかくて――
ひまわりのひとの てに にていました。
シュロイは つぶやきました。
「……また、あえたね。」
つぎのあさ、ゆきだるまは ちいさく なっていて、
うしろには、ちいさな つぼみが のぞいていました。
シュロイは おもいました。
「きえるものと、はじまるものが
いっしょに いることも あるんだ。」
そのひの かぜには、すこし
あたたかい はるの においが まざっていました。
🌸 はるの しっぽ
シュロイは ねこです。
しろくて くろくて、
ちょっと ふきげんです。
はるは、はなびらが ひげに くっつくので、
すこし きになります。
でも ことしの はるは、
なにかが ちがって みえました。
ふゆに みつけた つぼみが、
あちこちで ひらきはじめていたのです。
かぜが はなびらを
くすぐるように ひらひらと まい、
そらは、やわらかな あおのなかに、
ほんのりと さくらいろを まぜていました。
そこへ、とことこと やってきたのは、
ピンクのふくの ちいさな ひと。
はじめてみる ちいさな ひとは、
ゆっくり ちかづいて きました。
そして、そっと いいました。
「……ねこちゃん。こんにちは。」
シュロイは、ぶすっと したまま、
ちいさな ひとを じっと みつめました。
(……べつに、うれしいわけじゃ ないし。)
ちいさな ひとは そのまま そっと となりに いてくれました。
そして、となりに すわって、
にこにこと わらっていました。
それから シュロイは、
ゆうきを だして
そっと あたまを
ちいさな ひとの ひざに すりよせました。
なにげない ふうに みせていたけれど、
すりよせたあと、
シュロイは ぷいっと そっぽを むきました。
でも――
こころのなかでは、
「どうしよう」「どうしよう」って
しっぽよりも はやく どきどきが うごいていました。
でも、その しっぽは、
うれしそうに ゆらゆらと ゆれていました(たぶん)
シュロイは かんがえました。
「はじめてなのに、なつかしいって へん?」
「ふれたいのに ふれられないって もどかしい」
「まえとはちがう“すき”を、
そのまま たいせつに しても いいのかな?」
「ひとが かわっても、すきは つづいていくのかな?」
ふたりは、なにも いわずに
はなびらの まうなかを すごしました。
そのとき――
さくらの はなびらが、
シュロイの ながいおひげに はらり と からまりました。
やさしくて、なつかしくて、
でも あたらしい におい。
それは、いま ここにいる
だれかの てでした。
シュロイは つぶやきました。
「……また、あえたね。」
シュロイは きめました。
「すきって いってもいい。
まえとは ちがうけど、
いまの“すき”も ほんものに しよう。」
しゅろいのしっぽが、
はるのひかりを うけて
ふわりと ゆれました。
そのさきには、
だれかの ぬくもりを
たしかめるような
やさしい ひかりが ゆれていました。
そして シュロイは、
そのひかりにむかって
ちいさく、でも たしかに
ふみだしました。
シュロイのしっぽ シュロイ @shuroi
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